くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「津軽じょんがら節」「小原庄助さん」「幻の馬」

津軽じょんがら節

津軽じょんがら節」
キネ旬一位、ATG作品である。見逃していた名作の一本で斉藤耕一監督作品。

津軽の激しい海のショット、人間が小さく見えるように背後に怒濤のように盛り上がる波のショットなどカメラが実にすばらしい。そんな背景をバックに真っ赤なコートを着た主人公イサ子の姿、不釣り合いな三つ揃いスーツの徹男の姿が不思議なアンバランスな映像となって叙情豊かに描かれていく。背後に流れる津軽三味線が実に効果的なのです。

不気味な人物の絵がどんと画面に映り、そのまま一人の少女のアップ、せりふ、タイトルと始まって映画は幕を開けます。

やくざに追われる男徹男をつれて自分の故郷に帰ってくるイサ子のシーンから物語が始まる。
遊ぶところがなにもないどうしようもない田舎で不満が募る徹男は目の見えない少女ユキと出会い、さらに息子が東京へ出ていってしまった年老いた漁師為造とも出会う。

もがきながらもいつのまにか次第にこの田舎の漁村になじみ始める徹男。

しかし、そんな徹男に愛想を尽かしてイサ子が去り、ユキと徹男が結ばれ、息子が死んでひとりぼっちになった老漁師の元で働いてここをふるさとにしようと決意したとき、追っ手のやくざに殺されてしまう。

希望が見えた瞬間どん底に落ちる切なくも悲しい徹男のシーンで映画が終わる。

望遠レンズを効果的に使用し、怒濤のように襲いかかる巨大な波の迫力を背景に人物をとらえるショットのダイナミックな映像が特にすばらしく、何度も挿入される波のショットがこの寂しげな漁村の寂寥とした姿を詩情あふれる映像としてスクリーンに映し出していく。

人間同士のもの悲しさを語るストーリーに覆い被さるような波の音、津軽民謡のもの寂しげな音色がこの映画に独特の風景となって全体を締めていく展開には引き込まれる魅力があります。

これこそが名作と呼ぶにふさわしい一本だった気がする。

小原庄助さん」
これは紛れもなく大傑作でした。一緒にみた友人は国宝級と評したほどで、そんな評価がぴったりのすばらしい映画でした。

まず、画面づくりが実に美しい。まるで物語の舞台に自分がたたずんでいるかのように思えるような奥の深い画面づくり。スタンダードサイズなのにこれほど大きく深く見せるのはいったいどこにあるのか、凡人には理解できないレベルです。

さらに代々続く巨大な庄屋の屋敷を縫うようにゆっくりと移動してワンシーンでとらえるカメラワークとそこで繰り広げられる登場人物の動きの美しいこと。

そんな画面でつづられていくのは、ひとえに人が良いだけで誰からも慕われ、断ることを知らない主人公杉本左平太とその周辺で彼に絡んでくる村人たちのユニークな物語。

主人公杉本左平太は代々続く庄屋の主人であるが、そんな家柄に集まってくる寄付やら頼みごとの数々の中、次第にその財産が目減りしていき、今では女中一人と妻と三人で細々暮らしている。それでも古い家柄故に頼みごとは後を絶たない。

そんな主人公、家柄故にがむしゃらに働くわけにもいかず、会津磐梯山の歌に歌われている小原庄助となることを決めて、そのままに朝風呂、朝酒、朝寝を繰り返していく。ラストでそれを盗人たちにあかす姿は実にもの悲しささえ漂うのです。

終盤、蔵の品物をすべて処分し、一文無しになった彼の元を妻さえもでていってしまう。がらんとなった屋敷で家の中で一人酒を飲んでいると盗人が入る。しかし、あっという間に柔術で投げ飛ばし、その上、彼らに説教をして、自分のこれまでの生きざまを語る。

翌朝、なにもかもなくし、寂しげにとぼとぼと一文無しで歩いて去っていく主人公杉本左平太のもとに、妻の足下が写る。そして、二人して彼方に去っていくエンディングにはいつの間にか涙があふれてきました。

ユニークに展開する本編の物語の終盤にしんみりとさせ、さらに盗人の登場で笑いを誘ってその後出ていった妻が戻ってきて涙を誘う。見事なストーリー構成でもありますが、映像演出の見事さや間の取り方のうまさ、カメラワーク、会津磐梯山の歌の挿入のおもしろさなど、どれをとっても計算され尽くされたエンターテインメントになっている。まったく清水宏監督の力量に感服します。

そしてエンドタイトルかと思いきや「小原庄助さん 始」のテロップとともに会津磐梯山の歌が真っ暗な画面に流れる。こんなしゃれたエンディング、こんな時代に作れたなんてもう驚嘆の一言です。すばらしい。

「幻の馬」
大映社長永田雅一の持ち馬で日本ダービーで優勝した後病気で死んだ伝説の名馬トキノミノルの物語を題材にした感動ものである。

この手の映画を撮らせると実に島耕二監督はうまい。

丁寧にそしてまっすぐに主人公となる少年次郎と馬の物語を描いていく。妙な映像テクニックを施さないが、さりげなく牧場の景色や木々の間を走る汽車のショットなどを入れたのどかなシーンは作品全体がとっても暖かいものになります。

この映画ではトキノタケルという名前で登場するトキノミノルの誕生シーンから少年との交流、そして東京へ出て皐月賞などを制しながらも、二歳の時の山火事のトラウマが常につきまとう不安。そしてクライマックス日本ダービーごぼう抜きで優勝。しかしその直後、病でこの世を去るまで、観客の感情をしっかりと見据えた絶妙のリズム感で物語が進んでいく。

日本ダービーのシーンを空撮から移動撮影でとらえる迫力あるクライマックスも見応え十分。そして迎える感動のラストもそのまま涙を誘う。ストレートな佳作だった気がします。