くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「わたしたち」「あなた、そこにいてくれますか」「リングサ

kurawan2017-10-16

「わたしたち」
なるほど、映画になっている。みずみずしいほどに一瞬の時間を切り取ったストーリー構成と淡々と進む中に主人公たちの心の動きを目の当たりに見せてくれる演出が素晴らしい。映画づくりの究極の世界がここにあるという一本だった。監督は韓国のユン・ガウンという人です。

韓国の小学校、子供達がジャンケンをしてチーム分けをしている。主人公ソンをひたすらカメラは追いかけるが、誰も指名してくれないまま、最後に残ってチームに入る。しかし、すぐに線を踏んだと外に出される。どうやらクラスでは除け者にされている風である。

夏休み前、たまたま転校してクラスを見に来ていたジアと出会ったソンはすっかり仲良くなり夏休みを過ごすが、貧しい暮らしのソンと、祖母と暮らし裕福なジアとの距離ができていて、クラスのリーダー的なボラと仲良くなったジアは一緒にソンをいじめる側に回る。

しかし、ジアもまた前の学校でいじめられていて、またイギリスにいたなどという虚勢を張っているのが少しずつバレて、ジアもまたいじめられるようになる。

しかし、一旦仲が悪くなったジアとソンはなかなか打ち解けられない。ラスト、冒頭と同じドッチボールのチーム分け、ジアもまた残されてしまうが、とりあえず、チーム分け、そしてソンと同じく線を踏んだと友達に責められるのをソンが、「そんなことない」と助ける。

枠の外で二人が並んでいるカットでエンディング。二人は仲直りするのかという余韻を残すこのラストもうまい。ただ、うまいというほかない作品でした。

淡々と物語が展開しますが、長回しで主人公たちを捉え、その表情の変化とさりげない出来事の積み重ねで、心の動きを描写して行く。不思議なくらいに劇的なリズム感にいつのまにか引き込まれます。大した作品でした。


あなた、そこにいてくれますか
ベストセラーのフランス小説を映画化した韓国映画ですが、流石にこのくどさは韓国映画ですねという作品でした。畳み掛けが弱いために、盛り上がるべきところでスピードが上がってこなくて、泣かせるラストがいまいちで終わる。タイムトラベルものの常道なんですが、一歩足りないのが残念。監督はホン・ジヨンです。

カンボジアで医療ボランティアをしている主人公ハン・スヒョンは、雨季を前に、一旦帰国するべくヘリコプターに乗り込もうとしていたが、赤ん坊を抱えたひとりの瞽の老人が治療を求めてくる。一旦ヘリに乗り込んだものの、気になって治療に降りたスヒョン、その老人に不思議な10粒の薬をもらう。それは行きたい過去にいける薬だった。

帰国後早速その薬を試すと、なんと三十年前に時間移動してしまい、若き日の自分に出会う。そして、亡くしてしまった恋人ヨナに会おうとする。一方、現代では、ヨナと結婚しなかった自分の愛する娘スアがいた。過去でヨナを助けるとスアが生まれない。どちらも選びたいスヒョンは、ヨナを助け、過去のスヒョンにヨナと別れさせるという決断をし、奔走する。

二重存在の矛盾を無視した前提で物語が進み、ヨナを助け、スアの母親とも出会う流れに無事乗せてしまうが、スヒョンは肺がんで死んでしまう。しかし、残された告白手記を読んだ親友のテホは、あと一粒残っているはずという薬を手に入れ、過去に戻り、若きスヒョンにタバコをやめさせに行く。

そして現代、亡くなったはずのスヒョンは無事で、事故で足を痛めたヨナと再会して映画が終わる。

二重三重に積み重ねられた典型的なタイムトラベルもので、泣かせるように組み立てられているのに泣けないのは、どこかテンポが悪いのでしょう。ちょっと残念な一本でした。


リングサイド・ストーリー
これはいい映画だった。映画としてなかなかの秀作という意味です。物語としてはあまり好みではないし、この映画の中の主人公の男性像は好みではないですが、作品の出来栄えは認めざるを得ない出来栄えでした。監督は武正晴です。

主人公カナコが仕事をクビになる場面から映画が始まる。彼女には売れない役者のヒデオという恋人がいて同棲している。一度だけ大河ドラマの端役をしたことの栄光が忘れられず、小さな仕事をバカにして蹴りながらカナコの紐のような生活をしている。

そんなヒデオはカナコにプロレス興行の事務所の仕事を勧め、まんまと仕事に着かせるが、カナコはその仕事にどんどんのめり込んで行く。一方、へ理屈ばかりで何の仕事もせず、オーディションも落ち、何もかもに後ろ向きな割に、妙な見栄と情けない嫉妬だけのヒデオはどんどん卑屈になって行く。この徹底的にステロタイプ化されたキャラクターを瑛太が見事に演じている一方で、すでにいい年になり大人の演技を見せる佐藤江梨子の対比が実にいい。

ちょっとしたことから、Kー1の選手と戦うことになったヒデオは、付け焼き刃のトレーニングを開始、試合の日がやってくるが、時間になっても現れない。不戦勝の発表をしようとした矢先、派手なパフォーマンスで飛び込んできたヒデオは颯爽とリングに上がるが、結局一発でダウンさせられる。しかし、この瞬間彼には何かが見えたらしく、カナコとの仲も元に戻り、それぞれ前向きに歩み始めて映画が終わる。

画面の切り替えのテンポが実にうまく、クルクルと面白おかしく転換して行く編集が最高で、そのリズムに瑛太の必死の演技が被って行って、映像が小躍りして行く。
とにかく軽やかな映画、そんな佳作に出会った感じの一本でした。