「家へ帰ろう」
良質の作品という印象の一本で、一見コミカルに始まるのだが、次第にシリアスの領域に観客を引き込んでいく脚本がなかなかの映画でした。監督はパブロ・ソラルス。
アルゼンチンに住むアブラハムの家に大勢の子供や孫が集まっている。彼の誕生日、みんなで写真を撮りたいというアブラハムの希望さえも、めいめいが勝手なことを言って反抗する。そのコミカルな導入部がまずいい。
子供たちは彼を施設に入れ、家を売り払う段取りをしている。そんな中、アブラハムは、かつて第二次大戦終了の年、ある友人との約束を果たすべくポーランドに旅立つ決心をする。しかし、ホロコーストを経験したユダヤ人である彼にとってはドイツの地を踏むなどは論外のことだった。映画の前半部分、この頑固なおじいさんの言動をコミカルに描くが、一人のドイツ人女性に助けられたことで、やや妥協し、列車でポーランドに向かう。
ところが列車の中で、喧騒のように聞こえるドイツ語を聴くうちに次第に平静を失い気を失ってしまう。そして病院で目覚め、担当の看護師にポーランドの街まで連れて行って欲しいと頼む。
車の中で、彼はその看護師に、終戦の年、自分を助けてくれた親友に、自分が仕立てたスーツを届けるのだという。そしてそういうことに至った経緯を全て話す。
やがて、目的の住所についたものの、本人がいるかどうかもわからない。途方にくれているアブラハムの前に、ガラス越しに老人が仕立ての準備をしているのを見つける。そしてお互いの視線があい、アブラハムもその老人もかつてのお互いの親友であると認識、抱き合って映画が終わる。
映画の基本通りの演出による映像作りだが、役者がしっかりしていることもあり、見ていて実に映画として引き込まれてしまう。列車内で、過去の幻影に取り憑かれてしまう下りは、オーソドックスな描写ながら、それが映画の質を高めた感じもする。まあ、今更ながらのナチスものなのだが映画としては良質の一本だと思います。
「セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!」
実話を元にしたフィクションということですが、実話をもとにした寓話という感じで、実話部分と創作部分の絡みがうまくいっていない感じの映画でした。面白いのかふざけているのかという一本でした。監督はエルネスト・ダラナス・セラーノ。
時はソ連崩壊という時期、ソ連の崩壊で生活が厳しくなったキューバの大学教授セルジオは、趣味のアマチュア無線でたまたま、ソ連の宇宙飛行士セルゲイと通信がつながってしまう。
ソ連の崩壊で、帰還のめどが立たないセルゲイは、ステーションでの生活を伝えながらセルジオと親しくなっていく。しかし、セルゲイのステーションにトラブルが起こり、ピンチになった様子を察知したセルジオはアメリカの友人ピーターに連絡を取る。
ピーターは人脈を通じてNASAに連絡をする。その成果かどうかかともかく、セルゲイはNASAによって救出される。この部分が史実でセルジオたちのくだりがフィクションなのだろう。しかし、キューバの事情などがコミカルに描写され、その窮状が面白おかしく展開する様が妙に適当で浮いている。結果、史実との絡みがうまく行かなかった感じですね。
面白い題材なのに残念な作品になっていました。