くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「エターナル」「リバーズ・エッジ」「SADA」

kurawan2018-02-16

「エターナル」
思いの外良かった。ストーリーの構成がしっかりとしているのと、淡々と進む静かな物語ながら、サスペンスフルな部分が丁寧に描かれているので、最後の最後まですっかり騙されてしまった。監督はイ・ジェヨン。

証券会社の支社長ジェフンが出社してみたら、会社が経営破綻している場面から映画が始まる。高収入の生活から一変した彼は、2年間、英語の勉強のためにオーストラリアに住まわせている妻と息子のことに思いをはせる。

住所をインターネットで調べ、常用している薬を飲んだ後、彼は航空券を予約してオーストラリアへ向かう。着いた途端右も左も分からない彼はたまたまバックパッカーらしい一人の女性について行き目的地へ。しかし妻にはオーストラリア人の男性クリスの影がちらついていた。

ジェフンは、影から妻と子供、そしてクリスの様子を伺い始める。一方、知り合った韓国から来た女性は両替のトラブルで有り金を奪われ、困っていたため、事あるごとに出会うことになる。さらにここで、妻の家にいる愛犬のチチの登場が物語をよりファンタジックにして行く。

妻は、オーストラリアで、かつて勉強していたバイオリンを再開し、オーケストラのオーディションを受けていた。彼女はここで就職し、夫を迎えに行くつもりだったのだ。

一方のジェフンは、妻の周りのクリスの影に嫉妬心がわき上がっていたが、妻の本心がわかる。

妻は夫に連絡がつかないため、マンションの管理人に連絡、一時は鍵が開かないからと言われたがもう一つの隠し鍵のことを告げ、無理やり中に入ってもらう。するとそこには自殺したジェフンの姿があった。またジェフンがオーストラリアで出会った女性も、かつてここで殺されていたことがわかり、チチも事故で死んでいたのだ。

結局、妻に会うために、心だけがオーストラリアにやって来たと言う真相で映画が終わる。とってもファンタジックで、どこか胸に迫るラブストーリーだった気がします。良かったです。



リバーズ・エッジ
久しぶりに骨のある行定勲監督作品に出会ったと言う感じの一本。ミニシアター向けの仕上がりになっていますが、錯綜する青春の物語が、今時のやや落ちこぼれの高校生たちの姿を生々しく描くことで、切なさを交えたドラマに仕上がっていました。

火だるまの何かが団地の上から落ちて来てタイトル。夜の街、主人公ハルナが走っている。学校の古い校舎の中に入って行くとそこにあるロッカーから全裸の一郎が転がり出てくる。こうして映画が幕を開ける。

一郎は学校で観音崎という生徒にいじめを受けていて、この日もいじめられていたのだ。そしてそのたびにハルナは彼を助けている。しかもハルナは観音崎と付き合っているのだ。この構図がまず斬新。

どう見ても行儀がよくない高校、生徒は私服で、ハルナの友達のルミは男遊びが過ぎている。一郎はというと、ゲイのようだが、田島カンナという下級生と付き合っている、田島は盲目的に一郎に恋しているある意味やや異常なタイプ。

ある時一郎はハルナに自分の宝物を見せるという。それは河原の茂みの中の死体だった。そしてこのことはもう一人吉川こずえも知っているという。こずえはタレントの仕事をしており、過食症で、食べては吐いている。

これらの登場人物の日々を、やや歪んだような恋とやや歪んだようなものの考え方で描いて行く。時折インタビューのようなシーンが入り、それぞれの登場人物の心境を映し出し、また同じ学校の生徒だろうか夜釣り仲間の二人が学校の噂話を語るシーンなども交える。

田島はある日、一郎にうるさいと言われ、そのショックと、一郎がハルナと親しくしている場面を見るにつけ、ハルナに嫉妬しハルナの部屋に火をつけようとして、自分が燃えて、落下してしまうのだ。

またルミの姉はルミに比べブスで、いつもルミの男遊びの日記を読んでいて、ある時それが見つかりルミにカッターで切りつけてしまう。しかもルミは観音崎の子供を妊娠していた。

そんなこんなでハルナは引っ越すことになり、準備の夜、一郎と橋の上で語るシーンで映画が終わる。生きることもいいんじゃないかという最後あたりのセリフがこの映画のメッセージだと思うし、最後に流れる音楽が素敵に締めくくる。この感性が行定勲だと思う。良かった。


「SADA 戯作 阿部定の生涯」
ご存知阿部定事件大林宣彦監督が作ればこうなるという一本。サイケデリックな映像表現や凝ったカメラワークは確かにわかるが「愛のコリーダ」などと比べると雲泥の差という仕上がり。まぁ、それでもそれなりに楽しんだからいいとしましょう

物語は今更ですが、冒頭に定が出会うハンセン病の学生というエピソードはちょっと鼻に着くのが残念。

日本的なシンメトリーな構図を多用し、格子戸を使ったり影や色彩演出で見せる意図はわかるけれども、使い方が非常に薄っぺらいので、登場人物二人に深みが出てこない。

定の若い頃から、情痴事件に至るクライマックスまでの配分もかなり軽く作られ、これが大林宣彦の感覚なのだろう。