くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「タクシー運転手 約束は海を越えて」「リズと青い鳥」

kurawan2018-04-23

「タクシー運転手 約束は海を越えて」
大ファンのソン・ガンホ主演なので見に行きました。物語の構成が良くできている。もっと平凡な映画かと思っていましたが、しっかりとした社会テーマとヒューマンドラマがマッチングした良質の映画でした。監督はチャン・フン

個人タクシーの運転手マンソプが鼻歌を歌いながらタクシーを流しているシーンから映画が始まる。この画面だけだと、またいつもの韓国映画のノリだろうかと思ってしまう。彼は幼い娘と二人暮らしをしているどちらかというと貧しい庶民である。ある時、食堂で、タクシー会社の運転手が、ある外国人を光州まで送り届けたら10万ウォン稼げるという話を小耳に挟み、まんまと抜け駆けしてその外国人を乗せて光州へ向かう。

最初は軽い気持ちだったマンソプだが、行く先々で検問で通行止めをくらい、何やら不穏な空気を感じる。それでもなんとかそのドイツ人ピーターを光州まで届けたのですが、なんと、光州は軍部による庶民の弾圧が度を越した状態で。まるで戦場のようになっていた。ソウルで聞いているニュースの報道とのあまりの落差におどろく。

そして、ピーターらと行動をともにし、私服軍人に命を狙われながらも、現実を目の当たりにしたマンソプだが、やはり残してきた娘が気になり、光州を後にしようとする。しかし、ニュース報道と現実の違いを再度目の当たりにし、再び光州へ。そしてピーターと、光州で起こっている現実をフィルムに収め脱出。軍部の執拗な追跡も仲間のタクシー運転手らに助けられソウルに着く。
ピーターは別れ際マンソプの名前を聞くがマンソプは偽名を伝える。

やがて世界に光州の軍部弾圧事件が明るみになり、ピーターはこの報道ができたお礼を言おうとマンソプを探すが結局見つからず、2015年にこの世を去るというテロップが出る。

クライマックスのカーチェイスはおそらく映画の脚色だろうと思われるが、この作品の面白いのはピーター本人は最後に画面に映るが、マンソプは結局みつかっていないところです。

前半の軽いタッチがみるみるシリアスに展開し、最後の暖かいヒューマンドラマで締めくくる組み立てがとっても良い。ソン・ガンホの演技力もあるかもしれませんが、なかなか見ごたえのある映画でした。


リズと青い鳥
非常に繊細で水面下で動く心の動きを、静かなピアノの曲と軽音で演奏する管楽器の音色そして童話を通して描く詩的な映像作品でした。感激したとか感動したとかいう大袈裟な言葉にならない純日本的な雰囲気が漂ってくるアニメーションでした。京都アニメーション作品、山田尚子監督である。

リズと青い鳥」の童話のシーンが美しい水彩タッチの画面で描かれて映画が始まる。リズはある時玄関先で一人の少女が倒れているのを見つけ介抱して一緒に住むようになる。実はこの少女は青い鳥で、瀕死で倒れていたのをリズに助けてもらった。

舞台はある高校の軽音楽部。一人の少女みぞれは仲良しの希美を待っていた。オーボエ奏者のみぞれとフルート奏者の希美、希美はいつも明るくて、人気者だがみぞれはどちらかというと物静かでいつも一人。二人は同じ軽音楽部で次の演奏の課題「リズと青い鳥」でソロ演奏をすることになっていた。

物語はこの二人の微妙な心のすれ違いと成長を童話に絡ませて描いて行く。特に劇的な展開もなく、さりげない日常のような女子高生たちの物語で語って行く展開はとにかく静かで淡々としている。

みぞれは先生から音大受験を勧められ、一方希美は特に行くつもりもないのに音大志望と公言する一方、みぞれは何かにつけ希美に合わせようとする。どこか窮屈な関係になって行く二人の感情はそのまま演奏に影響を与え、周りが感じるほどになって行くが、ある時、お互いの思いを素直にぶつけたことがきっかけで、お互いのすれ違いが再びハーモニーを取り戻す。

さりげない女子高生トークがとっても瑞々しい空気感を作品に生み出しているのですが、童話との絡みが今ひとつわかりづらく見えなくもないのが少し残念。絵の美しさなどアニメとしてはクオリティは高いけれど、ちょっとストーリーテリングは気負い過ぎた感じです。