くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「老後の資金がありません!」「茲山魚譜チャサンオボ」

「老後の資金がありません!」

平凡な脚本と並の演出でどうなることかと思ったが、小手先の器用さで演技を繰り返すテレビレベルの役者が演じる前半部分はいかにも凡作でしたが、草笛光子が登場する中盤から後半、みるみる映画になってくる。流石に草笛光子の台詞の間合いの取り方、演技のテンポは他の役者を凌駕していく。その意味で佳作に仕上がった感じです。監督は前田哲。

 

主人公篤子がブランドバッグを見つける場面から映画は幕を開ける。しかし、義父が亡くなり、義姉志津子夫婦から葬儀の一才を任された篤子と夫の章に多額の葬儀費用負担がのしかかってくる。さらに、娘の突然の結婚、パートの契約切れ、夫章の失業と踏んだり蹴ったりとなって生活は切羽詰まってくる。その上、売り言葉に買い言葉で姑の芳乃を引き取ることになったことからさらに波乱の毎日へ。なんと芳乃は浪費癖が激しく、みるみる篤子の家計は逼迫していく。

 

どんどんストレスが溜まっていく篤子だが、友人のさつきから、年金の偽装工作を頼まれたことから物語は急展開。さつきの老父に芳乃が仮装して役所の調査員を迎える。しかし、そこに本物の老父が帰って来たことで一騒動となり、芳乃と篤子は方法の丁で逃げ出す。しかし、このことで二人の関係は急速に接近する。

 

そんな時、芳乃が心臓発作で倒れる。好き放題に生きて来たもののいつ死んでもおかしくない歳だと判断した芳乃は生前葬をすることを決意する。しかし、葬儀に費用がかかる事で大変な思いをした篤子は大反対、一切関わらないと断言して、葬儀の日は一人パートに出かけてしまう。

 

葬儀は賑やかに進み、芳乃に関わった人たちが集まって盛り上がる。一方パートが終わって帰って来た篤子は芳乃が首から下げておくべきニトロの錠剤の入ったペンダント忘れていることに気がつき、必死で会場へ走る。ところが着いてみると、芳乃は御礼の大演説をしている最中だった。この演説シーンこそ草笛光子の真骨頂というほど見事なもので映画が一気に締まっていく。芳乃はその演説で、篤子のことを褒め、そこへ篤子が現れ、大盛況のうちに葬儀は終わる。

 

そして志津子夫婦が現れ、母をもう一度引き取りたいという。芳乃は志津子夫婦の元へ去るが去り際に篤子に、生前葬の利益十万円を渡し、好きに使えと伝える。一方の章はかねての同僚の会社で一緒に働くことになる。篤子は念願のブランドバッグを買う。何もかもが丸く収まって丸くおさまってハッピーエンド。

 

たわいない映画ですが、草笛光子の演技力のみで映画になったという感じの一本でした。

 

「慈山魚譜 チャサンオボ」

モノクロームが美しい映画だが、画面に映画的な広がりが見えないのは構図が良くないのか、編集が良くないのか、それはそれとして、物語の構成が実に上手いので、2時間を超えるにも関わらず全く退屈しないのは素晴らしい。なかなかの秀作でした、監督はイ・ジュニク。

 

チョン兄弟が島に流されるくだりが手際よく描かれるオープニングなのだが、朝鮮の歴史物の言葉に慣れない私には正直全くついていけない。しかし、チョンが黒山島に流されるところからの本編は、わかりにくいながらもどんどん物語に引き込まれていく。それなりの地位だったチョンは、島の官吏別将に迎えられカゴという女性の家で暮らすことになる。

 

チョンは海の生物に引き込まれて、調べ始めるが中々前に進まない。この村には学問に一際興味を持つチャンデという若い漁師がいた。チョンはチャンデに学問を教える代わりに魚のことを学びたいと取引を持ちかける。こうしてお互いが師弟関係となり知識を蓄えていく。しかし、ある時チャンデは別の島に流刑されているチョンの弟に会いに行き、大量の本を執筆しているのを目の当たりにする。しかしその弟は、王が常に求めたのは兄のチョンだというのを聞く。

 

戻ったチャンデはチョンに仔細を聞くが、チョンは全ての民が平等に暮らす世界が本当に求めるものだと答える。しかし、王さえも否定する考え方は危険であり、将来学問で出世したいと望むチャンデには受け入れられないものだった。チャンデは科挙を受ける資格を得るために家系を金で買い、チョンとの師弟関係を切って本土へと向かう。そして、試験に受かり官吏となったチャンデは、義父の力で役職に就く。

 

一方、チョンは牛耳島に居を移し、魚の本の執筆に没頭するが、やがて病が彼を蝕み始めていた。それでも、寝る間を惜しんで執筆を続ける。

 

チャンデは、生活は豊かになったものの、汚職や横領が当たり前の世界に次第に辟易としてくる。そして、ある時強行的に税を徴収しようとする役人を殺しかけ、牢に放り込まれる。そして官吏の仕事を捨て、家族と共に田舎に戻ることになる。途中、牛耳島に立ち寄ったチャンデはチョンが亡くなったことを知る。慰霊の前には書き終えた慈山魚譜が残され、その冒頭にはチャンデとの日々が綴られていた。その中で、チャンデがウニの中から青い鳥が飛び立つのを見たエピソードが描かれていて、この青い鳥はカラー映像で描写される。チャンデが、故郷の黒山島へ向かう場面で映画は幕を閉じる。

 

なかなかの秀作でしたが、映画的な画面の広がりがもっと見られたら傑作だったかもしれません。でも本当にいい映画でした。