「あのバスを止めろ」
もっと適当な映画かと思ったが、意外に面白かったし、なかなか良くできていました。ただそれぞれのキャラクターの背景を描きすぎたために、全体の映画の中心がブレてしまったのが残念です。監督はダビデ・マレンゴ。
フェードインアウトを細かく繰り返しながら、一昔前のフィルムノワールのような雰囲気で映画が始まる。1人の男がとあるバーでマイクロチップをバーテンに託して金にしてくれと頼んでいる。バーテンはそれをパスポートの写真の裏に隠す。
画面が変わると1人の女レイラが冒頭のバーテンの男に色仕掛けで迫っている。バーテンの男はマイクロチップの取引で、チップの本来の所有者の敵対する組織の男たちに渡す手はずだった。しかし、レイラに迫られ、ついホテルに連れ込んだがレイラはパスポートを盗んでは闇で売ることを仕事にしていて、バーテンの持つパスポートを盗む。
ここに、チップを取り戻すために派遣されたプロの殺し屋が絡み、レイラは訳がわからないままに男たちに狙われ、巧みに交わして一台の深夜バスに乗り込む。このバスの運転手フランツはギャンブルの借金で追われていた。
こうしてフランツはレイラの事件に巻き込まれていくのだが、ここまでのプロローグがやや長すぎて本編に入るまでがやや長すぎる。しかも、彼らを追う男たちの背景の恋人の話や元カノに話が絡み合い、さらにコミカルなシーンも交えてくると、どんどん話が散漫になってしまいます。
しかしながら二転三転する展開は結構楽しめ、ラストは無事チップを取り戻したかに思えた殺し屋も殺され、そこに、もう敵対する組織と和解したから任務は不要という電話が入る。
チップを無事渡し大金を手にしたフランツたちは、一度はレイラが持ち逃げしようとするも思い直し、2人大金を持って深夜バスに乗り込んでハッピーエンディング。
散りばめられる伏線や個性的なキャラクターの描き方も面白いのだが、やや詰め込みすぎた感じでした。でもB級ながらも楽しめる一本でした。
「ウインド・リバー」
これは良かった。人間ドラマの迫力が胸に突き刺さってくる感動を呼んでくれます。しかも、実話にもかかわらず一級品のサスペンスにも仕上がっている見事な脚本も素晴らしい。吹雪と晴天を好対象に捉えたカメラ演出も秀逸。ラストはなんとも言えない感動に包まれてしまいました。監督はテイラー・シェリダン。
ウインド・リバーの辺境の土地。夜、雪深い中を駆け抜ける1人の女性、やがて、力尽きて倒れたところから映画が始まる。この地は先住民が住まいし、自らで自治を行なっている土地柄である。
カットが変わるとこの地のハンター、コリーが家畜を襲おうとしている狼を撃ち殺すシーンとなる。近くで子牛が襲われたとのことで、その現場にいったところで、人間の死体を見つけてしまう。それはこの地に暮らし、コリーの娘エミリーの友達でもあったナタリーだった。
FBIから1人の捜査官ジェーンが派遣され、彼女に協力をしながら、犯人を追い詰めていくのが本編。
スノーモビルや獣の足跡などを的確に推理しながらのコリーの知識にジェーンがどんどん引き込まれていく。やがてナタリーの恋人だったらしいマットも死体で発見され、大勢の保安官を導入して大規模な捜査に進む。
コリーは、その感から1人スノーモビルで森に入っていくと、不審なスノーモビルの跡を見つける。一方ジェーンらはマットが勤めていた、地元で資源開発をする掘削キャンプ地に向かう。
コリーが不審なスノーモビルの跡を双眼鏡で追うと、なんとキャンプに続いていた。そして犯人はそのキャンプの男たちと判断する。一方ジェーンたちはそうとは知らず、捜査員全員でキャンプに入っていった。コリーが慌てて無線連絡した瞬間、銃撃戦が始まり、ジェーン以外全員殺される。慌てて駆けつけ、遠方からコリーが狙撃し相手を倒す。
真相は、マットとナタリーがベッドでいちゃついている時、掘削チームのメンバーが酔っ払って帰ってきた。酒の勢いでナタリーはレイプされ、守ろうとしたマットも殴り殺されてしまう。ナタリーは零下30度の中必死で逃げ、マットを助けるために10キロも走り、そのせいで肺が凍って窒息死したのだった。普通の人間なら数百メートルも走れない状況にもかかわらず、マットへの愛情がなせるものだった。
物語はここで終わるものの、コリーとナタリーの父親とのさりげないやり取りで締めくくるラストが素晴らしい。
物語の中盤で、コリーの娘エミリーもナタリー同様に殺されていること、コリーたちも先住民であることなども語られ、物語の奥の深さもしっかり描かれているので、作品全体が薄っぺらになっていないのが実にうまい。
人間ドラマの傑作と呼べる一本でした。