「美しさと哀しみと」
川端康成の原作が持つ妖しい妖艶さが、篠田正浩監督の独特のカット割りで見事に表現されています。どこか艶めかしくも純粋な男と女の物語が描かれた秀作という感じです。
除夜の鐘を聞くために東京から京都に大木はやってくる。かつての恋人音子と会い、小悪魔のごとき弟子のけい子と出会う。
やがて大木はけい子に誘惑されるように惹かれ、体を重ねる。一方、大木の息子もまたけい子に惹かれ、とうとう体を重ねる。しかし、けい子は音子とも愛情を重ねていた。
不可思議なほどに艶めかしく絡み合っていく物語は、やがて大木の息子の死によって悲劇の結末を迎える。
ストップモーションに加え、スポットライトで浮かび上がらせる人物表現など美しい映像演出が際立つ一本で、カメラのアングルを巧みに組み合わせていくカット割りも見事。美しくも妖しい男女の物語という感じの映画、とっても良かった。
「心中天網島」
何度も繰り返し見ている篠田正浩監督の最高傑作。陶酔感を味わうほどに映像美の極致のように美しい。セットの見事さ、黒子を使った斬新な演出の凄さ、役者の迫力、どれを取っても素晴らしい映画です。
原作が近松門左衛門なので、「曽根崎心中」とかぶるシーンがたくさんあるものの、モノクロームの光と影を最大限に生かした絵作りには頭が下がります。
何度見てもその素晴らしさを堪能できる一本でしょうね。
「無頼漢」
徹底した様式美は美しいのですが、いかんせんストーリーの組み立てが乱立状態で、何がそうなのかまとまらない。これが狙いだと言われればそうかもしれないが、行き当たりばったりのようにしか見えないある意味、珍品の傑作という感じだった。監督は篠田正浩。
江戸の町に直次郎という遊び人がフレームインしてくるオープニングから幕を開ける。水野忠邦の質素倹約の政策で、贅沢や娯楽を禁じられた庶民の不満が爆発寸前になっている。
そんな市中で、好き放題に生きる直次郎は三千歳という花魁にご執心だった。一方芝居小屋の役者たちは、江戸に派手な花火を上げてやろうと画策しているし、女好きな領主に娘を囚われた父親が河内山宗俊に助けを求めるし、あれやこれやの雑多な話が乱立。
結局、何が何かわからないままのラストだが、いたるところに巨大な絵やサイケな色彩演出が施され、賑やか極まる映像が楽しい。もう少しまとまれば大傑作になりそうな痛快時代劇でした。