くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ある船頭の話」「エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ」

「ある船頭の話」

俳優の監督作品にしては恐ろしいほどのクオリティの高さに圧倒されてしまいます。クリストファー・ドイルのカメラも素晴らしいですが、ビシッと決まった構図、カメラワークの美しさとリズムに息を呑みます。ただ、残念なのは台詞の弱さ、時代が大正あたりでしょうか、ダイアローグが現代になっているのが耳につきます。意図したものかもしれないですがややしつこい。監督はオダギリジョー

 

黙々と渡し船を操る船頭のトイチの姿、悠々と流れる川の流れ、過ぎていく笹舟のカットからのタイトル。季節を魅せる霧の景色、山々の緑、時折挿入される魚の泳ぐ姿、などなど、画面の中に引き込まれていきます。

 

時折、源三という若者が通りがかりに遊びにくるくらいで、後はひたすら河岸を行き来するトイチ。近くに巨大な橋が建設されつつあり、時の流れをさりげなく描写する。トイチの過去にも何かがあったようだが謎のまま、時折、不思議な少年が彼の前に現れる。

 

ある時、川に浮かんでいる少女を引き上げ介抱する。やがて元気になるが、何者かわからない。客の噂で、川上で殺人事件があり、一人の女性の姿がないらしいなどと聞くが、結局真相は不明。

 

物語は、船に乗る客の言葉を通じて、船頭の人間ドラマが語られ、人生の様々な出来事が描かれる。この語り口は見事。やがて冬が来て、橋は完成、体の弱ってきたトイチは町の医師のところを訪れるようになっている。今では船に乗る客もいない。源三は町で何かしらの仕事をしているようで、トイチが作る毛皮を買いに来る。

 

源三は、一人で留守番をしている少女をてごめにしようとする。トイチが帰ってくると少女が血まみれになっていて、そばに源三が倒れていた。身を守った少女が源三を殺したと察したトイチは小屋に火を放ち、船に少女を乗せて川を下って行って映画は終わる。

 

終盤の、狐の格好をした少年たちのパフォーマンスや、謎の少年が語る自分の仮の姿が少女であるという説明などシュールな展開もあり、全般に、とても初監督と思えない感性が見受けられる様は驚きです。やや息抜きが足りないため、隙がなくしんどいのですが、ここにもう少し緩急が加われば傑作に十分なれる映画だったと思います。

 

「エイス・グレード世界でいちばんクールな私へ」

映像表現に決まったものはないので、こういう映像作りもありなのですが、映像感性というのは必要だと思います。その意味で、この監督にその感性はないなと思います。全体がダラダラしていて、短い映像のつなぎ合わせにしか見えない。青春ドラマとして主人公の成長を描いているのだけれど、心の変化が見えないです。監督はボー・バーナム。

 

いつも無口で控えめで目立たない主人公のケイラは、動画チャンネルで自分のチャンネルに番組投稿している場面から映画は始まる。中学校最後の年で、憧れる男子もいるが当然相手にされていない。好きでもない友達の誕生パーティに招待されるもほとんど会話もないまま。たまたま誘われたクラスメートのいとこという変わり者の男子と知り合う。

 

高校体験で高校へ行き、案内のペアの女子に仲良くしてもらい、ささやかながら高校へ行けば何かが変わると信じ始めたが、ペアの女子の友達の男子に迫られ、這々の体で逃げ帰って、高校への憧れも失せる。

 

しかし中学卒業の日、自らの動画サイトも閉じて、言いたいことを言って卒業。知り合ったクラスメートのいとこに誘われて友達づきあいを始め、高校卒業の自分にメッセージを送って映画は終わる。

 

内気な主人公の心の成長なのだが、それが見えてこない。それぞれのエピソードがぶつ切りに展開していって、今ひとつ繋がらない。ある意味新しい表現方法ですが、スクリーンに上映するにはもの足りない感じの作品だった。