くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「his」「9人の翻訳家 囚われたベストセラー」「シグナル100」

「his」

イカップルが起こす事件のその先を描いたストーリーの組み立てがなかなか秀逸な一本で、ゲイテーマが苦手な私も、それなりに、愛情という描くべきテーマを感じ入ることができました。ただ、エピソードの組み立てがややまとまりきれてないのか妙に長く感じてしまった。監督は今泉力哉

 

大学生の迅と渚がベッドで朝を迎え、渚が別れを告げるところから映画は始まる。岐阜県の田舎の街で自給自足で過ごす迅は、地元の人たちと平和に暮らしていたが、ある時、空という女の子を連れて渚がやってくる。

 

女性と結婚し子供もできたが今は離婚調停中だという。物語は迅と渚のゲイカップルが、再び愛情を確認する一方で、空の成長が描かれ、その過程で、崩れかけた渚夫婦、そして空との関係が再構築される展開が描かれていく。その合間に挿入される迅と渚のゲイに関した世間の目、自分たちが勝手に持っていた偏見などもさりげなく挿入されているのが実にうまい。

 

街の老人の通夜の席で迅がゲイであることを告白し、村の女性に、今更どうでもいいじゃないとさらっと流される下りにこの映画のメッセージがある気がします。

 

自分たちがいつの間にか持っていた偏見で自分たちを見、制限していたことに気づいていく。渚の妻と渚が空の親権を争う裁判の場面がクライマックスとなり、渚が親権を得ることが確実に近くなった時、妻を責める弁護士を制止した渚は和解を申し入れる。そして渚は妻に謝る。

 

一ヶ月後、妻が空を連れて渚と迅のところのやってくる。そしてみんなで仲良く遊んで映画は終わる。ゲイを全面に押し出さないところがこの映画の美点であり優れているところだと思います。肯定も否定もせず客観的な視点で捉えたところが良かった。

 

「9人の翻訳家囚われのベストセラー」

実話を題材にしたフィクションミステリーですが、鮮やかさがかけているためにせっかくのどんでん返しの連続のクライマックスが俗っぽい仕上がりの映画になってしまった感じですね。かなり勿体無いですが、映画はそれなりになかなか面白かった。監督はレジス・ロワンサル。

 

ある書店が炎に包まれる場面から、時間が遡って物語は始まる。世界的ベストセラー「デダリュス」の三部作の完結編が世界同時翻訳で出版されるというニュースに始まる。そして、世界中の翻訳家9人が次々と車で迎えられ、とある大邸宅の地下室に集められる。完全に隔離し、毎日20ページづつ渡される原稿を翻訳していく。

 

狂気じみた仕事ながら9人は報酬のこともあり取り掛かる。出版社のボスエリックが厳重に彼らを監視していたが、間も無くして冒頭の10ページがネットに流出し、金を振り込まなければ、続きも流出させていくとエリックの携帯にメールが入る。

 

物語は前半、まず犯人探しと9人それぞれの疑心暗鬼で展開するが、現代のエリックは実は収監されていて、誰かと話をしている。そして中盤、その相手が翻訳者9人の中の一人アレックスとわかる。このネタバラシが早い。実はアレックスは、9人の翻訳家の中で仲間を選んで、事前にエリックから原稿のコピーを取り、全員が隔離される前に翻訳してパソコンから遠隔操作する計画を実行していた。とどんどんバラしていく物語の挿入が早すぎる。

 

しかし、原稿が次々と公開される中、一人の翻訳家が自殺してしまう。さらに焦ったエリックは翻訳家の一人を銃で撃って重傷を負わせる。そしてとうとう、アレックスも撃ってしまい、取り押さえられ収監されたのだ。しかしアレックスは分厚い本で銃弾が止められ助かっていた。

 

アレックスはどんどんエリックを追い詰めていく。原作者のオスカー・ブラックは実は自分だとアレックスは白状する。書店に勤めた少年時代のアレックスは、その店主に才能を認められ本を書く。本はアレックスの希望でペンネームで出版、出版社との交渉は全て店主が行い、店主はオスカー・ブラックであるかに見せかけた。

 

エリックは本の出版を利益のみの追求をしたため、嫌気がさした店主は出版元を変更するという。そのためエリックは店主を階段から突き落として殺し、書店に火をつけた。その真相を告白させるためのアレックスが仕組んだものだった。

 

脅迫して受け取った金はエリック宛に振り込み、最後に自分が店主を殺したと自白させる。それを盗聴していた警察がエリックを逮捕して映画は終わる。のだが、ミステリー面白さだけで突っ走ればいいものを、終盤やたら銃を振り回す展開になったり、実は真犯人はという二転三転も、うまくまとまっていない。それなりに面白いラストなのに、生かしきれない演出になっていた感じでした。

 

「シグナル100」

久しぶりに支離滅裂な駄作を見ました。橋本環奈目当てとはいえ、流石にこの映画はひどかった。原作があるので、それをうまく脚本に仕上げられなかった上に演出もグロだけを出せば済むという短絡的なもので、しかも主人公の橋本環奈が、主人公に見えず、全体の群像劇がうだうだ。最低の映画だった。監督は竹葉リサ。

 

山中のとある高校、この日特別授業で36人が集められ、下部先生が不可思議なDVDを見せる。途端、次々と生徒が自殺。下部は、100個のシグナルを行うと自殺する催眠をかけたといい、自ら飛び降りて死んでしまう。

 

物語は、100個のシグナルを探すサスペンスのはずが、グロテスクな自殺シーンばかり画面に登場し、謎はすんなりと見つかって、あとは下手くそな青春ドラマの演出が適当に展開する。

 

主人公は橋本環奈扮する樫村なのだが、全然描けておらず、イケメンの若手俳優を必死で出そうとするが稚拙な演出で子供遊びのような展開が続く。しかも、終盤、催眠を解く薬があったとまことしやかに3人のドラマに集約。お涙頂戴と青春ドラマで樫村一人残って、彼女一人助かってエンディング。

 

エピローグで、下部は死んでいなかったが五年の努力の末、樫村が持ち帰っていた催眠DVDを下部に見せてエンディング。

笑う。馬鹿馬鹿しい脚本に笑う。こんなものをシネコンで拡大公開しようという制作側の意識を疑うような映画だった。橋本環奈もこんなものの出てたらあかんと思う。