くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「WANDA ワンダ」「魂のまなざし」

「WANDA ワンダ」

1970年代の空気感を、低予算ながら殺伐とした映像表現で淡々と綴っていく作品で、正直、今みれば時代色が強くてやや退屈でさえある。しかし、映像全体から醸し出される何とも言えないムードに、まるで何十年も引き戻されるかのようなバイタリティを感じてしまうエンディングに息を飲む作品でした。監督は主演、脚本も務めるバーバラ・ローデン

 

ペンシルバニアの炭鉱町、赤いダンプカーと黄色のブルドーザーが石炭を運んでいる。カメラが引くと窓辺で座る老婦人、さらに引くと一人の女性の後ろ姿、赤ん坊の鳴き声、それをあやす女、ベッドに半裸で眠る主人公ワンダのカットへ進んでいく。こうして映画は始まる。

 

ワンダの夫は離婚調停で裁判所へやってくるが、ワンダは現れない。しばらくしてやってきたワンダに、判事は離婚の申し出を受けるかどうか問いただし、ワンダは自分が元を離れた方が子供も幸せだからとあっさりと受け入れる。子供の面倒を見ることもせず、遊び歩き、夫の世話をしないワンダは当然ながら離婚させられることになる。

 

なけなしの金だけ持って家を出たワンダは、バーでサラリーマン風の男にビールを奢られ、ベッドで抱かれるが、その男に逃げるように捨てられる。仕方なく映画館に入るが、眠っている間に金を盗まれ一文なしになる。駆け込んだ夜のバーで、そのバーのバーテンを気絶させたらしいデニスという男と知り合う。

 

デニスは非常に傲慢でワンダをこき使いながらも面倒をみて、自分がこれからしようとしている犯罪のために同行させようとする。デニスが計画しているのは銀行強盗だった。銀行の支店長の自宅に押し入ったデニスは支店長に銃を突きつけて銀行へ向かう。その後ろをワンダが車でついていくが途中ではぐれてしまう。

 

デニスは一人で銀行に押し入り、金を詰めさせて逃げようとするが警察がやってきて撃たれてしまう。一方ワンダはなんとか銀行へつくのだが、銀行は警察に囲まれていて入れなかった。後で、デニスは警官が撃った銃が元で病院で死んだというきニュースを見る。バーで一人の若い兵士の車に乗り、町外れで兵士はワンダを抱こうとするが、ワンダは抵抗して逃げ出す。

 

彷徨いながら、一軒のバーの外で佇んでいてそこの女に声をかけられ、バーで酒を飲みながら男たちと談笑する姿がストップモーションで映画は終わる。

 

丁寧に筋道を作りながら描けるほどの予算もなかった感じが伝わる演出になっていますが、その粗さの中に描きたいテーマが体当たりで映し出してくる迫力がある作品で、1970年ベネチア映画祭外国映画賞を受賞し、後にイザベル・ユペールが配給権をわざわざ買い、マーティン・スコセッシが自分の映画保存組織で修復したのがわかるほど、映画史に残すべき一本の映画という作品と納得の映画でした。

 

「魂のまなざし」

フィンランドの画家ヘレン・シャルフベックの1915年から1923年の8年間を描いた伝記映画。絵画的な色彩と構図、光の効果を使った画面がとにかく美しく、それだけでも見た値打ちがある。しかし、画面にこだわりすぎた故か映画としての動きがなく、物語が流れていかないために妙に静止して見えてしまう。時代背景や時の流れが見えないのがちょっと残念ですが、いい映画でした。監督はアンティ・ヨキネン。

 

フィンランドの女流画家ヘレンは、絵が売れず、毎日厳しい日々だった。この日も母のお祝いのビスケットを手に入れるために苦労していた。そんな彼女のところに一人の画商があらわれ、ヘレンの絵を買いたいと申し出る。ヘレンの絵はみるみる人気となっていく。画商が連れてきた十九歳年下の青年エイナルは、森林保護の仕事をしながら絵を独学で学んだ男だった。ヘレンとエイナルはいつの間にか絵を通じて心を通わせていく。

 

ヘレンはエイナルに友情以上のものを感じ始め、仕事でヘレンの元を離れたエイナルからの手紙を心待ちにする。しかし、エイナルはそんなヘレンの気持ちを感じ取れなかった。まもなくして、仕事先からヘレンに宛てた手紙には、一人の女性と婚約した旨の内容が書かれていた。ショックを受けたヘレンは、精神的に不安定となり、親友のヴェスタの勧めもあり病院に入院する。元々仲の悪かった母の態度も冷たく、母もヘレンの兄の元に引き取られることになる。

 

やがてヘレンは回復し、エイナルからの手紙に応える余裕も出てくる。かつての画商は次の大きな展覧会の企画を進めていた。そんな頃、兄の元を追い出された母をヘレンは再び引き取るがまもなくして母は他界する。エイナルに食事に誘われたヘレンはそこでエイナルから、選ぶ相手を間違えたと告白される。ヘレンとエイナルは、友情を確かめ合う。こうして映画は終わっていきます。

 

とにかく、ハッとするほどに光を使った画面が美しく、それがわざとらしすぎるところも目につくのですが、物語や心の動き、人物同士の葛藤、当時の女性の立場という時代背景などが十分描ききれていないために映画として流れていかないのが少し残念。良い作品ですが、ちょっと退屈に感じられなくもなかった。