くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「土」(最長版)

「土」

四十年ほど前に見たのだがほとんど覚えていない。オリジナルネガは焼失し、ロシアで発見された最長版しかないのを見る。内田吐夢監督の傑作の一本。ラスト部分のフィルムは無いのですが、これは傑作でした。カメラアングルの使い方、畳み掛けるストーリー展開の妙味、人物描写の見事さ、底辺で這いつくばるように生活する貧農家族の必死に生きる生き様が見事に描かれていました。

 

妻を亡くし、娘とまだ幼い息子、そして年老いた父と暮らすかんじ。借金でその日やっと生きるだけの毎日を送っている。爪に火をともすように倹約をし、娘や老父にも倹約を徹底して、いわゆるケチンボな男を演じている。

 

そんなかんじの生き方に村人は悪態をつき、老父や子供たちを不憫に思っていた。老父は孫のために何かにつけて、自分が内職のような仕事で稼いで小遣いをやったりしている。娘のおつぎも弟に父に内緒で卵をやったりしていた。

 

物語は、村での婚礼や、様々な行事を描きながら、必死で仕事をこなすかんじを中心に健気な家族の姿を描いていくのですが、カメラアングルが素晴らしく、時に天井から真下を写してみたり、美しい構図で一瞬の景色や田畑の情景を描写したりと見事なのです。

 

ある時、孫が集めてきた栗を焼いてやろうと老父が火をつけるが、それが飛び火して、家が火事になり丸焼けになってしまう。必死で生きてきたもの全てが無になり絶望するかんじ。火傷を負った老父は近くの祠で寝泊りし村人に助けられていた。しかし、村人がうわさする一言一言に責任を感じる老父は、冬空の中行方をくらます。

 

村人たちが探し回るが、何事も絶望したままのかんじは探そうとしない。なんとか外に出たものの村人たちと行動を共にできない。ところが、おつぎが家にいると外で物音がし、出てみると、老父が外で首をくくろうとして枝が折れてその場で気を失ったところを見つける。

 

おつぎは老父を家に入れ、弟に父を呼びにいかせる。慌ててかんじが戻る。まだかすかに息がある老父を抱いて必死で看病する。フィルムはここまでしか無い。字幕によって、この後家族はなんとか立ち直って生活を始めると締めくくっている。

 

とにかく見事な作品で、二時間以上あるのに全くだれることはない。庄屋との温かみのあるやりとり、リアルな家内のセットや描写、カメラワークの素晴らしさ、エピソードの構成のうまさ、それらを背景にした主人公の家族が必死で生活する姿が圧倒的な人間ドラマとして伝わってきます。いい映画でした、これこそ名作です。