くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「異端の鳥」「ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ」

「異端の鳥」

映像のクオリティはなかなかなのですが、お話が暗い上に長過ぎて後半しんどかった。特に前半のバイタリティのある演出が、後半ちょっと息切れが見えたような絵になってくるのも少し気になる。原作があるので、こういう展開なのかもしれないが、強烈に進んでいく流れが、だんだん、平坦でワンパターンになっていくように思いました。監督はバーツラフ・マルホウル。

 

モノクロシネスコ画面、美しい構図に中、一人の少年が森を走っている。フェレットを抱いているようで、そこへ数人の少年たちが飛びかかり、フェレットを奪って油をかけて焼き殺す。衝撃的なオープニングから幕を開ける。この少年、叔母さんでしょうか、老婦人と暮らしている。ところがある朝、その叔母さんが亡くなっていることに気がつく。驚いた少年はランプを落としてしまい、家が燃え尽きてしまう。居場所を無くした少年は、彼を疎開させた両親の元へ戻ろうと決める。ラストでわかるが、ホロコーストユダヤ人迫害を逃れるために、子供を疎開させたようである。

 

少年は、いきなりとある村で迫害され、占い師のような女に買われる。そしてしばらく一緒に暮らすが川に突き落とされ流れていく。そこで助けられた農家で暮らし始めるが、そこの主人は妻が使用人と不倫しているのではないかと嫉妬し、使用人の目を抉り出す。少年は、その家を逃げ出す。

 

映画は、彼が次々と世話になる人物に名前ごとにエピソードを羅列していく形式で、次々居場所を変える中で、幼児趣味の男や、色気狂いの女を恋人にする男、などなど様々な異様な人間たちに拾われ進んでいくのを描いていく。そのそれぞれの中に、蔑まされているユダヤ人の立場を比喩した描写を交えていく。やがてソ連軍の侵攻の中、戦争孤児として拾われた彼は、そのまま、孤児院へ。そこで自分を蔑んだ男をソ連兵にもらった銃で撃ち殺したことから、父が迎えにくる。そして父と家に向かうバスの中、それまで自分の名前さえ言わなかった少年は、父の腕に刻まれた収容所での番号を見て、窓ガラスに名前を書いて映画は終わる。

 

原作があるので、こういう展開なのだろうがいかんせん長い。というか、前半に比べて脚本が弱いのと演出も息切れしているように感じる。オープニングのフェレットが焼かれたり、前半の、目玉をくり抜かれたり、首吊りした男が死にきれないのを助けるようにしがみついたり、非常に迫力のある演出がされているのに、後半ほとんどSEXに絡めたエピソードが同じレベルで描かれてくる。ここの演出にもう少し迫力があれば映画がラストに締まったように思えるのが少し残念でした。

 

「ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ」

小品ながら、ちょっと洒落た作品なのですが、リズムがちょっと途切れ途切れに感じるところがあるのが気にかかりました。監督はジョー・タルボット。

 

黒人少女のクローズアップ、見上げているのは、防護服を着てゴミを集める人たち、さらに台の上で演説する黒人、その道向かいにジミーと親友のモントがバスを待っている。しかしなかなか来ないので、ジミーのスケボーに二人乗りして帰る。近代的に変化してきたサンフランシスコの姿を端的に見せるこのオープニングがまずとっても良い。

 

二人は一軒の豪邸を見ている。その家はジミーの祖父が建てたものだが様式は19世紀末の形らしい。今住んでいる白人夫婦はろくに手入れしていないので、ジミーが勝手にペンキを塗ったりし、住んでいる夫婦が文句を言う。しかし間も無くして夫婦はこの家を出ることになる。

 

空き家になった家に、ジミーは祖父が残した家具を運び入れ、モントと暮らす。この家はジミーの父が手放した経緯もあった。豪華な作りで、ジミーの思い入れは一塩ではないが、しばらくして、家具が全て放り出され、売り家の看板が貼られていた。ジミーたちは不動産屋に掛け合うも当然相手にされず、モントが聞いたところでは、実はジミーの祖父が建てたものではなく、19世紀末に立てたものだと登記簿を見せられる。

 

モントは戯曲を書いていて、作品ができたので、この家で上演することになる。その戯曲の題名が「ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ」だった。そしてお芝居の最後でモントは、この家はジミーの祖父が建てたものではないと告げる。ジミーは分かっていたもののいつのまにか信じているうちに真実になっていたことを思い出す。

 

モントの家で、ジミーとモントの父とモントはいつものように深夜テレビで時を過ごす。翌朝、モントはジミーの別れの手紙を発見して映画は終わっていく。

 

サンフランシスコへの郷愁を背景にした古きアメリカへのノスタルジックな感じが漂う作品なのですが、その辺りは日本人の私には実感が薄いのはちょっと残念です。良い映画だと思うのですが、アメリカ国民でこそ本当の良さをわかるような気がしました。