くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「みをつくし料理帖」「スパイの妻劇場版」

みをつくし料理帖

原作の大ファンなので、相当に不安でした。文庫本全十巻の中盤までの物語のエピソードを丁寧に追って行く作りで、原作を知るものには登場人物の関係や背景がわかっているので、読んだ時の感動に浸ることができました。映画としては普通の出来栄えで、流石に原作のどの部分を取っても完成された傑作なので、これが限界でしょう。ただ、役者の演技に任せっきりの演出はちょっと手を抜きすぎかなと思えなくもなかった。監督は角川春樹

 

主人公澪と野江の幼い頃から始まり、一気に江戸に舞台が移って原作で描かれるエピソードが次々と描かれて行く。さすがに登場人物の背景や、原作にある人情物語、高田郁得意の人の縁が生み出す人間ドラマは、描くだけの尺も余裕もないのは流石に仕方ないかもしれない。

 

吉原に行った野江と蕎麦屋で料理人として成長して行く野江が、やがてふとしたことから、幼馴染であることがわかり、化け物稲荷でそれとなく再開する場面をクライマックスにして映画は終わって行く。

 

原作ではここから澪がどんどん料理人として大きくなり、やがて結婚、野江と共に大阪の街に戻るまで物語が大きく広がって行くのだが、後半の最大の見せ場である又次が野江を助けて命を落とす吉原炎上などのスペクタクルな場面まで届かなかった感じです。

 

原作を知るもにはそれなりに、読み返したような感動を覚え、初めてこの物語に触れる人は、原作を読みたくなる。そんな映画に仕上がっていたように思います。この感想を読んだ人は是非原作を読んでほしいです。

 

「スパイの妻 劇場版」

これは傑作、久しぶりに骨のある邦画を見たという感じです。ストーリー展開の面白さ、しっかりとしたメッセージ性、映像演出のうまさ、そして役者たちの演技力の卓越さに唸らせてくれました。NHKで放映されたものを映画版に修正したもので、ベネチア映画祭最優秀監督賞を受賞したもの。これがテレビドラマというのもすごい。さらに久しぶりに蒼井優の演技の真骨頂を見ました。監督は黒沢清

 

神戸の生糸工場に憲兵たちが突入するシーンから映画は始まる。捕まったのはイギリス人の貿易商。カットが変わると、自主映画を撮影している日本人貿易商の福原優作。妻聡子をヒロインにして映画を撮っている。冒頭で捕まったイギリス人と懇意な優作は彼を助けてやる。そのイギリス人は上海に行くと言って優作の元から去る。旧知の津守泰治が優作の会社を訪れ、憲兵隊の小隊長になったと報告する。そして、情勢が変わってきたと告げる。

 

時は1940年、優作は大陸情勢が厳しくなる前に見ておきたいと甥の竹下文雄を連れて満州に旅立つ。聡子とも面識のある泰治は、たまたま山で出会い、聡子の家に招かれるが、そこでも、泰治はかつての人物と変わった緊張感があることに聡子も気がつく。

 

優作は二週間余りして戻ってくるが、聡子は優作と文雄が何か変わったと気がつく。間も無く文雄は会社を辞めて有馬温泉にこもって小説を書くと言い出す。聡子は1人で文雄の元を訪れるが、文雄は憲兵に監視されていて外出できないからと優作に包みを渡してほしいと何かを預ける。その頃、1人の女性草壁弘子が水死体で見つかり、泰治は調査をする。弘子は文雄と優作に連れられて日本にやってきていたので、文雄と優作に嫌疑がかかったのだ。実は草壁弘子は満州で郡が行った人体実験を告白した軍医のもとで働いていた看護婦だった。

 

聡子は優作に渡す包みを優作の前で開く。それは優作が満州に行った時、たまたま関東軍が行なっていたチフスを使った人体実験の様子をかいたノートとフィルム、そして文夫が英訳したものだった。優作はそれを金庫にしまう。しかし、優作の留守に聡子は金庫を開けて書類を盗み出し、泰治に届ける。

 

やがて文雄は捕まり、自分はスパイだったが、優作は関係ないと自白する。弘子の殺害については二人とも関係なかった。優作も泰治のところに連れて行かれ、そこで、ノートを見せられる。優作は自宅に帰るが、そこで聡子がノート泰治に渡したことを知る。しかし、渡したのは原本ノートのみで、英訳したものとフィルムは渡していなかった。フィルムにはノートの原本も撮影されていた。聡子は優作がこの資料をアメリカに持ち込み、アメリカを戦争に巻き込んでも正義を貫くという考えに賛同して、2人でアメリカに渡る決意をする。また、フィルムにはまだ長尺のものがあり、それは冒頭の英国人の会社に預けたのだが、英国人から金を要求されていると告げられる。

 

やがてアメリカは石油の対日輸出を禁止して、優作たちは通常ルートでアメリカに行くことはできないと判断し、聡子は船で密航、優作も別ルートで渡米することにし、聡子はフィルムを優作は英訳と上海でイギリス人にあって長尺フィルムを手に入れて渡米することになる。

 

聡子は1人で貨物船に乗り、荷物の箱に隠れるが間も無く憲兵に見つかり逮捕される。泰治の前で、聡子の持っていたフィルムが映されるが、なんとそれは優作が作っていた自主映画だった。聡子はその場で気が狂ったように倒れる。最初から優作の企みだった。

 

そして1945年3月、聡子は精神病院にいた。優作が懇意にしていた野崎教授が面会に来る。聡子は教授に「私は本当は狂っていない。でも今の情勢の中ではこれが狂っているのかもしれない」と話す。やがて、本土空襲が激しくなり、聡子の病院も空襲に遭う。優作が仕込んだ通り、米国によって日本は敗戦の道を進んだことを悟る。病院を逃げ出した聡子は海岸をひた走りし映画は終わる。

 

サスペンスタッチの前半から、聡子の存在が大きくなる中盤、そして全てが優作の計画だったとなる終盤と、物語の構成も見事。しかも役者の演技演出も的確で、非常にお話も面白い上にメッセージが伝わる仕上がりになっている見事な映画でした。