「青春神話」
これはなかなかの秀作、青春の一ページを殺伐とした虚しさで描く映像が見事。しかも、背景の街並みの絵作りも上手く、世相が的確に描写されている光の使い方も上手い。監督はツァイ・ミンリャン。
雨が降り頻る中、電話ボックスに飛び込んだアザーとその友人。二人はボックス内の金を盗んでいく。アザーが家に帰ると、排水が悪いのか廊下は水浸しになっている。隣の部屋に兄貴がいて恋人のアクイとの情事の声が聞こえる。
ここに大学を目指し予備校に通うシャオカンがいる。何もかも嫌になったのか予備校の授業料を払い戻す。父はタクシーの運転手で母は宗教に凝っていていつも家庭内は殺伐としている。シャオカンは払い戻した金でBB弾の拳銃を買う。父の車に乗っているときに隣にアクイを乗せたアザーが通りかかり、行手を阻んだアザーに警笛を鳴らす父の車の窓を壊して逃げる。
シャオカンは、アザーをつけ回すよになり、アクイの勤め先を掴んだりしてストーカーまがいの行為をする。アザーは友達とゲーセンに忍び込み、機械の基盤を盗んで逃走、その様子もシャオカンは目撃する。アザーはアクイと恋仲になりホテルに行くが、止めたバイクをシャオカンはめちゃくちゃにする。シャオカンはアザーが悔しがるのを同じホテルに部屋から見下ろして嬉々として喜ぶ。そして、アザーがバイクを押していく後をつけ、知らぬふりをして手伝おうかと声をかけたりする。
アザーは壊されたバイクの修理にために金がいるようになり、先日盗んだ基盤を売りつけにいくがバレてしまい逃げる。瀕死の重症になった友達を背負ってアザーが乗ったタクシーはかつて窓ガラスを破ったシャオカンの父のタクシーだったが気付かれず、そのままアザーの部屋に転がり込む。
アザーたちの姿を見送ったシャオカイの父は部屋に戻り、すこしドアの隙間を開けておいてやる。それはシャオカイが戻ることを期待するかのようである。
アザーのところへアクイがやってくるが、アクイはアザーと抱き合い、ここを出たいと言って映画は終わる。音楽の使い方も含め、テンポよく展開していくセンスはなかなかのもので、才能を感じさせる映画でした。
「愛情萬歳」
これもまたちょっとした映画でした。冒頭のシチュエーションが実に上手いので一気に本編へ引き込んでいきます。しかも、これからどうなるのかというサスペンスが上手い。それでいて何か殺伐としたむなしさを感じるラストも見事でした。監督はツァイ・ミンリャン。
ドアに鍵が刺さっていて、とり忘れたのだろうか、一人の男シャオカイがその鍵を盗んでタイトル。カットが変わり、あるフードコートで一人の青年アムゼイがコーヒーを飲んでいる。そばにいかにも男を探しにきたような女リンが座る。そしていくべくして二人は高層マンションの一室へ。そこは冒頭で出てきたマンションである。アムゼイは翌朝この部屋が空き家だと知る。
一方、納骨棚の訪問販売をしているシャオカイはこのマンションに先に忍び込み、メゾネットの2階で手首を切って横たわっていた。階下で物音がしたので覗いてみると男女が体を合わせていた。
リンは不動産屋で、このマンションも商品だった。映画はリンが物件を紹介する一方で、アムゼイやシャオカイがこのマンションで入れ替わり立ち替わり忍び込んではお互いに気づかれないように過ごす姿を描いていく。そしてリンもこのマンションでくつろぐこともしていた。彼女の自宅のアパートは古いのかいかにもみすぼらしいボロ屋だったのだ。
アムゼイとシャオカイはあるとき、お互いにバッティングして知り合ってしまう。アムゼイの仕事は路上で品物を売る違法な商売だった。リンは日頃の仕事に嫌気がさして、アムゼイを求めていた。そして二人は再度マンションへ行き体を合わせるが、シャオカイが先に来ていてベッドの下に隠れていた。
情事の後リンは先に帰り、ベッドの下から出たシャオカイは眠るアムゼイに思わずキスをして帰る。リンは一人寂れた公園に行き、野外劇場のベンチで泣きじゃくり映画は終わっていく。全く不思議な映画です。ラストの泣きのシーンがやたら引っ張るのと、途中シャオカイが女装して悦に浸る場面にさまざまなメッセージがあるのでしょうが、不思議な一本でした。
「河」
これはややおぞましいほどに奇妙な映画でした。監督はツァイ・ミンリャン。
エスカレーターで主人公のシャオカイは映画の撮影をしている友人の女性と再会する。撮影現場にきたシャオカイだが、死体のシーンがうまくいかないということで、シャオカイが川に入ることになる。無事撮影が終わり、友人の女性ともSEXして帰ってくる。
シャオカンの父の部屋は水漏れが始まっている。妻は欲求不満な様子である。そんな家庭に帰ってきたシャオカイだが、何故か首が曲がったまま戻らなくなる。両親が病院へ連れて行ったり東洋医術を施すも一向に治らない。
シャオカイの父はホモのようで、そんな男たちが出会うようなところで男漁りをしている。シャオカイの父はシャオカイを治すために、列車に乗って神頼みに行く。しかし、結論は出ない。シャオカイは女性に興味があるのかどうかわからないままに父が使っているところへ行きそこで一人の男と関係を持つがなんとそれは父だった。
翌朝、帰ることにした父は朝飯を買いに部屋を出る。一人残ったシャオカイはベランダに出て映画は終わっていく。なんだこりゃという作品で、どう解釈するのかなんとも不可思議な一本だった。