くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ワン・セカンド 永遠の24フレーム」

「ワン・セカンド永遠の24フレーム」

さすがにカメラアングルが抜群に美しいし、映像としては一級品ですが、ストーリー構成や脚本が弱いために、登場人物の心理描写が希薄になってしまい普通の映画に仕上がったという感じの一本でした。監督はチャン・イーモウ

 

1969年文化大革命下の中国、一人の男が砂漠を彷徨って来る場面から映画が幕を開ける。どうやら強制労働所を逃げてきたらしく、たどり着いた村で干し野菜を盗む。フィルムを配達しているバイクを認めた彼はそのバイクの運転手らが入ったレストランを覗いていたが、そこへ一人の見窄らしい姿の少女が現れ、フィルムの缶を盗んで逃げるのを目撃する。男は彼女を追い、フィルムを取り返すが、戻ってみるとバイクがなかった。

 

仕方なく、砂漠を歩き始める。そこへトラックが通りかかったので乗せてもらうが、目の前に少女を見つける。男はその少女もトラックに乗せる。途中フィルム配達のバイクを見つけたのでフィルムを返そうと降りたら、その隙に少女がまたフィルムを盗んでトラックに乗る。男は再度トラックを追い、取り返して、映画が上映される村にたどり着く。映画は、この少女と男のフィルムの奪い合いを前半にして展開。やがて、男がなぜ映画にこだわるのか、少女がなぜフィルムにこだわるのかが説明されるが、この部分がとにかく弱い。

 

男には娘がいて、ほんの1秒ほどニュース映像に映っていると知らされ、その映像を見たくて逃亡したのだ。村ではファンという男が上映の準備をしていたが、そこへフィルムの一巻を引きずったまま荷車が到着する。配達のバイクが壊れ、通りかかった荷車にフィルムを乗せてもらったが、一巻だけ開いてフォルムが外に流れたのだ。しかもそのフィルムこそが男が見たかったニュースのフィルムだった。

 

ファンのアイデアで、村中でフィルムを洗い、何とか上映できるようにする。ニュース映像を食い入るようにみる男の目に、ワンカットだけ娘の姿を認める。一方、フィルムを盗んだ少女はリウの娘という呼び名で、彼女は、弟が勉強するために借りた電気の傘に使っていたフィルムが燃えてしまい、いじめっ子らに責められていて、フィルムでもう一度傘を作ろうとしていたのだ。さらにファンの息子が幼い頃にフィルムの洗浄液を飲んでしまい、その時に脳に損傷が出たエピソードも挿入されるが、これも今ひとつ映画に深みをもたらしていない。

 

こうして二転三転の末に、ファンの工夫で何百回でもニュース場面を見られるようにしてもらった男がニュースを見るが、ファンは男を保安員に引き渡すように通報していた。この辺りに心理ドラマの展開に無理が出る。しかし、保安員は男を殴り蹴るをした挙げ句、柱に縛ってしまう。哀れに思ったファンは男に、娘が映っているフォルムの切れ端をプレゼントする。男はファンに、映写室にあるフィルムの傘のスタンドからフィルムの傘をリウの娘にやってほしいと頼む。

 

砂漠をひきづられていく男に、傘をもらって喜ぶリウの娘の姿が遥か後方に見える。しかし、保安員は男がファンにもらった包みを取り上げ捨てる。リウの娘が、捨てられたものが何かわからないままに包み紙だけ拾って男に示す。そして二年が経つ。

 

大学の合格発表に男はやってきた。そこにはあの娘が来ていた。父と娘の再会の後、娘は自宅に大事にとってある包紙を男に見せる。しかしフィルムは無い。父と娘は砂漠に行くが、フィルムがあるはずもなく映画は終わっていく。

 

エピローグ場面があるものの、既にリウの娘の姿やファンのことは触れていないままだし、フィルムにまつわるせっかくのクライマックスが実に残念にエンディングを迎えるのが何とも勿体無い。映像は一級品なので、もうちょっとストーリーにこだわりが欲しかったし、終盤、保安員が見る「英雄子女」の映画がちょっとくどいのも鼻につきます。張芸謀作品としては普通以下の一本でした。