くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「佐々木、イン、マイマイン」「バナナパラダイス」

「佐々木、イン、マイマイン」

散らかったジグソーパズルのピースの一つ一つを映像に変換しながら、それぞれを繋いでいく作業を見ている私たちが頭の中で行っていく、そんなどこか懐かしい青春を思い出すようなちょっといい映画でした。切ないけれど、といって登場人物と同じ青春を送ったわけではないけれど、でも何か共通するものが見える。この感覚はなんだろう。監督は内山拓也。

 

散らかったへや、1人の青年がこれから向かう舞台、草履のまま乗り込んでいる足元、そして、ある部屋で主人公悠二が目を覚ます。傍らには同棲している友達ユキが眠っていて、昨日はどうだったと聞く悠二。役者を目指すが今ひとつ売れて来ず、バイトをしながら生活する悠二。ある時、バイト先で高校時代の友達多田と再会する。そして一晩飲み明かし別れる。

 

映画は、仲の良かった悠二、多田、佐々木、木村の高校時代の映像と現代を巧みなピースで繰り返し描きながら、ラストシーンへ向かっていく。周りが囃し立てるとすぐに全裸になって盛り上がる佐々木。何かにつけて悠二に役者になれという。父と二人暮らしの佐々木だが父はほとんど家にいない。悠二はおばあちゃんと暮らしているようである。木村は、クラスメイトの灯のことが好きだと悠二に話す。まもなくして佐々木の父は死んでしまう。

 

ユキはこの冬に部屋を出ていくといっている。そんなある日、悠二は佐々木から電話をもらう。行ってみれば、佐々木はパチンコ屋で遊んでいた。いや、佐々木が言うにはパチプロなのだと言う。佐々木の今の友達が佐々木のところにやってくる。佐々木はカラオケ店で、ヒトカラしていた前村に一目惚れして声をかける。

 

そんなこんなで四人の過去と現代が描かれていく。ある夜、ユキが酔っ払って帰ってきたので、つい悠二は抱こうとするが、ユキはそのまま眠ってしまう。その深夜、前村という女性が佐々木の携帯を使って悠二に電話してくる。佐々木が死んだという。そしてみんなを待ってるという。

 

佐々木の家に行くと、多田たちも集まっていた。悠二は家に入っていく。冒頭の散らかった部屋だ。葬儀に向かう悠二の草履のシーンも冒頭の場面だ。佐々木は癌だったのだという前村の説明を受ける。近くの旅館に泊まった悠二とユキだが、悠二は多田や木村の車に乗り込み、木村の家で朝を迎える。木村は灯と結婚していて子供もいた。

 

そして、葬儀の場に向かう悠二。出棺の車が出る。悠二たちが追いかける。突然車が止まり、中から全裸の佐々木が出てくる。昔みたいに囃し立てる悠二たちの場面で映画は終わる。ラストは幻覚なのだろうが、何か過ぎ去った青春が一気に湧き上がるバイタリティがあります。こういう若々しい映画に久しぶりに出会いました。良かった、良かったです。

 

「バナナパラダイス」

台湾の歴史を背景にして描く壮大な人間ドラマが、ある意味軽妙な展開で微笑ましくもバイタリティあふれる展開で綴られていく。とっても心に残る名編でした。良かった。監督はワン・トン。

 

1948年中国北部、八路軍と戦う国民軍にいて、何事にも要領の良いダーションはこの日も塩を手に入れていた。たまたまやってきた兵士が、まもなくして台湾に移るという知らせを聞く。ダーションは何事にも要領の悪い弟メンシュアンとこの軍に入っていた。

 

やがて二人は台湾へ移動するが、そこでスパイ容疑をかけられる。ダーションは捕まり、メンシュアンはうまく逃げる。そしてその途上で、ユエシャンとリーの夫婦に出会う。しかし、リーはまもなくして死んでしまい、ユエシャンは赤ん坊のヤオハイと途方に暮れる。行き場もなくメンシュアンは彼女と夫婦のふりをして生活を始める。

 

仕事を探すのに、リーが大卒だったので、リーになりすますが、外語学科卒だったリーの卒業証明書から、学歴のないメンシュアンは苦労する。しかし機転のきくユエシャンの計らいでなんとか毎日を送っていた。たまたま、ダーションの居場所がわかったメンシュアンらは、ダーションの住む村にやってくる。ところがダーションは、拷問のせいか頭がおかしくなっていた。

 

こうして、メンシュアンとユエシャン、ダーション、ヤオハイらの生活が続く。メンシュアンは公務員の資格が取れ、家族で台北に移住することになる。そこでも、学歴のないメンシュアンは苦労するがなんとか毎日を過ごす。やがて蒋介石も亡くなり、台湾の新たな時代へと変化していく。

 

ここから一気に時間が流れ、今やヤオハイも結婚し、メンシュアンも管理職になっていたが、名前はリーのままだった。孫も生まれ順風満帆の毎日だったが、ヤオハイが香港で、父親の本当の両親を勝手に探し、台湾のメンシュアンに電話してくる。

 

困ったメンシュアンはユエシャンにリーの両親のことをあらかじめ聞こうとするが、なんとユエシャンも偽物だった。不良に乱暴されていたユエシャンは通りかかったリーに助けられ、まもなくしてリーの本妻が亡くなり、悲嘆に暮れるリーに恩返しとして子供を育てる決意をしたのだという。

 

メンシュアンとユエシャンは腹を括って香港からのリーの父と話をするが、いつのまにかメンシュアンは本当の父のように涙ぐみ、母が亡くなったことを聞いて号泣する。こうして映画は終わっていく。

 

微笑ましいとはいえ、こういうことがあの時代の混乱期にはたくさんあったのかも知れず、それをモチーフにした台湾の歴史を描く展開はある意味、胸に迫る感動をもたらしてくれました。最初はどういう話なのかと戸惑いましたが、みるみる引き込まれていき、二時間半近くある長尺ながら時間を忘れてしまいました。いい映画でした。