くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「わたしの叔父さん」「ダニエル」

「わたしの叔父さん」

なるほどそういうことね、と映画ファンを唸らせる映画だった。淡々と繰り返される物語、これという抑揚のない展開、時々挿入される美しい風景にカット、そして主人公クリスの表情の変化、その全てに物語が描かれている見事なヒューマンドラマだった。監督はフラレ・ピーダセン。

 

一人の女性クリスが朝起きて身支度をしている。農場の世話をするために起きたのである。同居しているのは脳梗塞で体の不自由な叔父さん一人。時々獣医のヨハネスがやってくる。クリスは獣医志望で大学にも合格したが、叔父さんの農場の世話で、いっていない。しかし、獣医の本を常に読み、ヨハネスについて獣医の仕事を手伝ったりしている。ヨハネスもクリスに獣医の本などを持ってきたりして応援する。クリスの父は自殺したらしいが何故自殺したかは語られない。

 

そんな彼女は教会の合唱でマイクという青年を見つける。彼もまた農場を引き継いでいた。マイクはクリスを食事に誘う。そんなクリスに叔父さんはヘアアイロンを買ってやったりする。そしてデートの日、なんと叔父さんもついてきた。というより、クリスが心配で連れてきた感じである。

 

叔父さんもいつまでもクリスに頼れないと思ったのかリハビリの女性を呼んだりする。そんな時、ヨハネスはコペンハーゲンの大学で講義をするから行かないかとクリスを誘う。悩むものの、二晩程度だからとヨハネスに諭されて、コペンハーゲンへ向かう。しかし、約束の時間にクリスが電話しても出ないので、ヨハネスが妻に見にいってもらうと、何と滑って転んで意識を失っていた。入院した叔父さんを献身的に看病するクリス。そしてマイクの優しい言葉も受け付けない。

 

退院した叔父さんはクリスと一緒にまた元の生活に戻る。クリスはヨハネスに貰った本や叔父さんに買ってもらった獣医用の聴診器なども返してしまう。そして、クリスは以前と同じく叔父さんと食事を始める。クリスが何か言おうとして暗転、映画は終わる。

 

なるほど、そういうことかと唖然としてしまいました。周りが良かれと思ってクリスに近づいて来ること自体が全く意味がないことで、余計なことなのである。普通の人が考える価値観が全てではないことを淡々と繰り返す物語で見せていくという映像表現に圧倒されてしまった。美しい景色のカット、巨大な農機具を洗う姿、牛の中で働くクリスと叔父さんの場面、全てが順風満帆なのだ。邪魔をしているのは周りなのではないのか。自分の価値観を他人に押し付ける無意味さを見事に描き切った作品という一本でした。

 

「ダニエル」

典型的なB級ホラーで、これという面白みもない映画。ただ、アーノルド・シュワルツネッガーとティム・ロビンスの息子が出ているという話題だけで公開された感じです。監督はアダム・エジプト・モーティマー。

 

カフェの場面から映画は始まる。そこへ突然ライフルを持った男が入って来て乱射。カットが変わるとヒステリックに喚く女がいて、夫らしい男が罵倒している。それを見ている男の子ルーク。居た堪れなくなり出ていくと、カフェでの惨殺現場に出くわす。このオープニングは見事。

 

やがてルークは母と二人きりで生活するようになるが、友達のいないルークは架空の友達ダニエルを作り出す。しかし息子の様子がおかしいと思った母は、ドールハウスの中にダニエルを閉じ込めた風にして鍵をかけさせる。そしてルークは大学生になる。

 

寮で暮らすルークだが、母が次第におかしくなって来るに及んで、彼女を病院へ入院させる。しかし自分もいつか狂うのではないかと考え始める。そんな時、幼い時にダニエルを閉じ込めたドールハウスを思い出し、鍵を開けてしまう。一方、ルークは街でキャシーという画家志望の女性と知り合う。この辺りまでは実によくできているのだが、ここからラストまでとにかく羽目を外してグダグダになっていくのである。

 

映画は、ルークがダニエルと行動を共にし、キャシーと過ごしたり友人と遊んだりするうち、次第にダニエルがルークに占める割合が増えてくる展開となる。まあよくある流れで、後はどう治めるのかということなのだが、ルークは心療内科に通い始めていて、そこでダニエルのことを相談する。というのもみるみる過激になるダニエルに恐怖を覚え始めたためだ。

 

薬を処方して貰ったが効かないので、医師は東洋医術で治療しようとする。ところが眠ったルークの傍に実態となったダニエルが現れ、ルークの体を乗っ取り医師を殺してしまう。そして、肉体を持ったダニエルはキャシーのところへ向かう。と、この辺りになるともうやりたい放題である。

 

一方のルークはどこかに閉じ込められた。そこから何とか逃げようとする。そこで、冒頭でカフェを襲ったジョンという男と会う。彼もダニエルという影に操られたのだ。と、この辺りから心理サスペンスではなくオカルトサスペンスになってしまう。ダニエルは悪魔の化身か何かのようになる。そして、キャシーを襲っているダニエルとルークは対決し、屋上から二人とも飛び降りて大団円。前半はしっかりできていたのに後半、どうしようも無くなって、とりあえず締めくくった感じで、全く救いのないラストだった。