くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ブラックバード 家族が家族であるうちに」「アメリカン・ユートピア」

「ブラックバード 家族が家族であるうちに」

これは素晴らしい映画でした。特にカメラが驚くほどに見事。パンフォーカスで捉える全景と極端な単焦点で捉えるピンフォーカスで生み出す映像のリズムに圧倒されます。特にクリスマスパーティシーン、次々とピン送りしながらクローズアップを繰り返してどんどんドラマを盛り上げていくリズム感、さらにベッドで目覚めた人物に差し込む光をぼやかせる信じられない演出など、デジタルカメラの特性を最大限に使った絵作りが見事。

 

さらに、淡々としたドラマが次第にうねりを上げていくように盛り上がってくる展開のテンポも抜きん出た仕上がりになっています。しかも、スーザン・サランドン以下役者の迫真の演技も素晴らしい。デンマーク映画がオリジナルで、残念ながら見てないのですが、こちらの作品に限れば超一級品の一本でした。監督はロジャー・ミッシェル

 

浜辺の桟橋の美しいカットから映画は幕を開ける。そして海辺に立つ豪邸に次々と集まってくる家族。母リリーが不治の病で余命幾ばくもなく、まもなくして安楽死を迎えるにあたり、娘たちを呼んだのだ。姉ジェニファーと夫マイケル、息子のジャスパー、続いて妹のアナと同居人クリス、そしてリリーの親友リズ。リリーの夫ポールが出迎える中、次々集まった家族はさりげない会話の後、リリーの最後までの僅かのひとときを過ごし始める。

 

映画は、間も無く最後を迎えるつもりのリリーとの関わりを描きながら、次第にそれぞれのこれまで隠れていた部分を表に出し、家族であることで一つ一つを解決していく流れとなるが、それぞれのドラマは全てカメラワークで捉えていくという徹底した映像演出を施す展開が圧倒されるほどに素晴らしい。

 

自殺未遂をしたアナは、トランスジェンダーのクリスに伴われてくる。何かにつけ仲の悪かった姉ジェニファーとは、言葉を交わすうちに次第に打ち解けるかに思われるのだが、アナは母を失うことに耐えられないから、警察に通報するという。リリーは医師でもある夫ポールが取り寄せた薬を飲んで自殺するつもりだった。ポールが朝の散歩の出かける前に薬を飲み、こどもたちが帰った後、散歩に出たポールは帰ってきて妻の自殺を知るという筋書きだった。

 

両親にも話していない俳優になる夢を語るジェニファーの息子ジャスパーは、最後のクリスマスパーティの席で自ら作った詩をリリーに捧げる。リリーはみんなに自分の品物を分け与えていくのだが、結婚指輪をポールに渡す場面には涙が止まらなかった。その夜、ジェニファーはポールとリズがキスしているのを目撃してショックを受ける。

 

安楽死に賛成だったジェニファーだが、アナと同じく反対する立場になったと翌朝みんなの前で話すが、リリーは、ポールとリズが不倫関係になるように頼んだのは私だと告白する。母の思いを知ったアナとジェニファーは最後を一緒に過ごしたいと言い、薬を飲むリリーの傍で横になる。ポールが淹れた薬を一気に飲み干すリリー、やがてゆっくり目を閉じる。

 

子供達は一人また一人と帰っていく。家の灯りを消したポールはゆっくりと散歩に出てフレームアウトして映画は終わる。もう涙が止まりません。本当に素晴らしい映画でした。

 

アメリカン・ユートピア

圧倒的なライブパフォーマンスに引き込まれる面白さ。舞台上を縦横無尽に動き回るショーを上下の手前、奥手、正面、舞台真上などの固定カメラの切り替えで躍動感あふれるシーンに組み立てられた映像に最後まで引き込まれます。音楽にあまり造詣が深くないのでデビッド・バーンの楽曲自体一曲も知らないのですが、冒頭から一気に引き込まれてしまいました。評判通りの傑作です。少々、監督のメッセージが鼻につく一瞬もありますが、それを差し置いても見事。監督はスパイク・リー

 

デビッド・バーンが発表したアルバム「アメリカン・ユートピア」を元に作られたブロードウェイのショーを映像として再構築したもので、ほとんど舞台上のパフォーマンスに展開を任せる語りではあるけれども、その躍動感あふれる舞台を的確なカメラ転換で見せるリズム感が実に楽しい。

 

舞台を真上から捉えるシーンから映像は幕を開ける。あとはひたすら上手下手に配置したカメラ、真正面、真上などに配置したカメラからの映像の切り返しとなる。ショーが一つの映像となって一気にラストまで駆け抜け、エピローグに自転車で疾走するメンバーの姿を追いかけて映画は終わっていく。とにかく楽しい、可能なら生が見たい、そんな作品でした。