くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「フラワーズ・オブ・シャンハイ」「ハウス・イン・ザ・フィールズ」

「フラワーズ・オブ・シャンハイ」

リー・ピン・ピンの美しいカメラとワンシーンワンカットと暗転を繰り返す映像に陶酔感を覚えてしまうけれど、上海の高級遊郭での人間模様のドラマにいつの間にか引き込まれていきました。監督は侯孝賢(ホウ・シャオシェン)

 

19世紀末の清朝末期、上海にあるイギリス租界にあった高級遊郭、この日も男たちは食卓を囲み、周りに妓女を侍らせて歓談をしている場面から映画は幕を開ける。じゃんけんをしては酒を飲むという遊びに夢中になる男たち。アヘンを吸い、そこには退廃的な空気感さえ漂う。赤い蝋燭の灯に映し出される景色をカメラがゆっくりと右に左に移動しながらワンカットで捉えて行く。

 

映画は、ほとんどワンシーンワンカットで、遊郭の中で展開する人間模様を繰り返し繰り返し描いて行く。王という男は小紅という女をいずれは見受けしようと通うが、裏切られ、別の女を娶ることになるものの、結局その女にも裏切られるという顛末を迎える。別の男は一人の女と夫婦になると約束、その女は万が一夫婦になれなければ心中すると言った男の言葉を信じ、心中未遂を犯してしまう。等々の男と女の官能的な物語を散りばめながら、阿片を常用する退廃的な遊郭の姿を描いて行く。

 

特に、筋の通った一本の物語はない様々な人間模様という展開で映画は終わって行く。美しい光の演出と遊郭の中から一切外に出ない閉鎖空間のみの物語を徹底した世界は、不思議なくらいにこの時代の中国の一ページを映し出してくれます。人物の名前についていけないところもありましたが、なかなか見応えのある映画でした。

 

「ハウス・イン・ザ・フィールズ」

これは本当によかった。元来ドキュメンタリーは見ないのですが、内容に惹かれて見に来ました。この作品は、モロッコに住むある姉妹の一年足らずをまるで普通のドラマ映画のように見せて行く映画です。しかも、カメラアングルが素晴らしい上に、挿入されるインサートカットとのバランスが映像にストーリーを生み出して行く。本当にドキュメンタリーなのかと思うほどの見事な映画でした。監督はタラ・ハディド。

 

ロッコの民族楽器でしょうか、弦楽器を弾く男性の姿から映画は幕を開けて暗転してタイトル、続いて冬というテロップが出て映画は始まる。モロッコの山深い村、ここに住むアマジグ族は数百年昔ながらの生活と風習を守って暮らしている。ここに住む、ガディジャの姉ファティマは19歳になり、間も無く結婚で嫁ぐことが義務付けられていた。仲の良い姉妹で、何かにつけ語り合ったりする二人。ガディジャは頭がいいので父は学校へ行かそうと思っている。ガディジャはテレビで、モロッコ政府が男女平等を謳った法律を作ったと友人に語るが、友人には別世界のことにしか聞こえない。ガディジャは、将来街に出て弁護士になる夢を持っていた。

 

映画は、冬に始まり、春、夏と移って行く。ガディジャとファティマの日常を捉えるカメラと一方で、次第に近代がこの村にも押し寄せ、村の若者も、街に出て働くことを夢見る言葉も聞こえてくる。そして、夏、ファティマの婚礼の儀式が盛大に行われる。今まで慎ましやかで自然に囲まれた感のあった画面は一気に賑やかに彩られる。しかしそんな姉を見ながら一人残るガディジャの寂しげな姿も描かれる。

そして、山間に佇むガディジャがフレームアウトし、間も無く訪れる秋を予感させるような枯れ始めた木々が画面に浮かび上がって映画は終わる。

 

映像が物語を生み出して行く展開が本当に引き込まれるほどに素晴らしいし、ファティマとガディジャが語り合う場面はドキュメンタリーと思えないほどに自然にセリフの応酬に見えてしまう。見てよかったと思える一本でした。