くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「チスル」

チスル

1948年を発端にする済州島4・3事件を、モノクロームの研ぎすまされたシャープな映像で、クールな視点で描いていく。前宣伝の通り、その映像は、美しい。もちろん、デジタル映像としての美しさであるが、影を多用し、グレーを廃した黒と白の徹底した画面は、非常に物語を冷たく見せていく。さらに、ゆっくりと、タル・ベーラの映画を思わせるほどのスローなカメラワーク、ワンシーンワンカットを多用した長回しは、現実に起こった悲劇をじっくりと見据える感覚を訴えてくる。監督はオ・ミヨルという人である。

物語は、済州島のある村の住民が、軍隊に殺されるというビラをみて、洞窟に逃げ込もうとするところから始まる。一方で、討伐隊として組織された韓国軍の姿を交互に描いていく。

訳も分からず、ただ逃げていこうとする住民たちは、狭い洞窟の中に身を潜める。真っ暗な中で、人々が寄り添っている部分だけが、炎の明かりで丸く浮かび上がり、カメラが、それをまるでふわふわと浮かぶように写していく。

一方、雪深い兵舎で、ただ、命令されるままに討伐の準備をし、情報を集めている韓国軍は、敵か味方かなどはお構いなく、住民とみたら、銃で撃ち、女を犯し、新兵をいじめる。

一つの村に攻撃をした軍隊が、手持ちの一人称カメラで、延々と村の建物の中を縫っていく長回しは圧巻である。

結局、村人の一人が捕まり、その情報で、洞窟が発見され、軍隊に見つかって、攻撃されていく。なんとか、別のところから脱出するも、その足跡を見つけられ、皆殺しにされる銃声で暗転、エンディング。

二時間足らずであるが、そのスローなカメラと、重い物語は、さすがにしんどい。しかし、カメラといい、映像演出といい、クオリティはかなり高い。サンダンス映画祭でワールドシネマグランプリを受賞したのもうなずける一本でした。