くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「十九歳の地図」「ゴッド・スピード・ユー!BLACK EMPEROR」「火まつり」

「十九歳の地図」

40年ぶりくらいの再見。初めて見た時の印象は忘れてしまったが、今見直してみると、一本芯の通った映画だなとしみじみ思う。時代色もあるのですが、描きたいメッセージがしっかりとブレずに描けている気がします。評価されるに値する一本であると思います。監督は柳町光男

 

一人の青年吉岡が新聞配達している場面から映画は幕を開ける。新聞屋の二階で生活する吉岡は、同じ部屋に中年のうだつの上がらない紺野という男と毎日を送っている。自分が配達している家々にバツをつけて評価をし、それを地図にしていく日々を送っている。バツをつけた家にいたずら電話をし、まるで自分の不満をぶちまけるような罵詈雑言をぶつける日々である。街には巨大なガスタンクがあり、それを囲んで、いかにも庶民以下の人たちが暮らしている殺伐とした世界を舞台に物語は展開する。

 

紺野には、マリアという、自殺未遂して片足が不自由になった女がいる。その女のために、ひったくりをしたりコソ泥に入ったりするのだがとうとう捕まってしまう。そんな紺野を見る吉岡はさらに悪戯電話に拍車をかけ、今日もガスタンクのある街を新聞を配って回る。ゴミを漁るマリアの姿を横目に走り去る彼の姿で映画は終わる。

 

鬱陶しいほどに暗い物語だが、一人の若者の未来に行き場のない苦悩の姿を描き出していくという芯がどの場面でもぶれない映像展開でなかなか迫力を感じてしまう。繰り返し描かれる新聞配達のシーン、玄関先で牛乳を盗んだり、吠えてくる犬に石をぶつけたり、そんな一つ一つがメッセージをこちらに投げかけてくる。これが映像表現と言えるものだと思う。決して好きな作品ではないけれど、映画としての面白さを感じられる一本だった。

 

「ゴッド・スピード・ユー!BLACK EMPEROR」

暴走族ブラックエンペラーの新宿支部の若者たちのドキュメンタリー。監督は柳町光男

 

密着したドキュメンタリーなので、それぞれのメンバーをじっと見据えるカメラ、一方で路上を疾走する暴走族の姿をスピード感あふれるカメラが追いかけるクライマックスと、かなりの力作である。しかも、それぞれの青年たちの心の姿をちゃんとカメラに収めている真摯な映像も好感。ドキュメンタリー映画の良し悪しはわからないけれど、見ていて、飽きない魅力のあるフィルムでした。

 

火まつり

ちょっと掴みどころの難しい映画でしたが、全体に漂う何かの存在がじわじわと忍び寄ってくる不気味さと、熊野の漁村の古いしきたりで縛られた閉鎖空間の空気感がシュールな中に時の流れを感じさせるなかなかの秀作でした。ラストの解釈がポイントなのかも知れません。監督は柳町光男

 

熊野の山林、木こりの達男、弟分のような良太らが仕事をしている場面から映画は始まる。山の上から見下ろしていると一艘の船に達男の古い愛人基視子がやってくる。基視子はその独特の色気で村の男たちを取り込んでいく。物語は基視子に翻弄されていく男たちの姿、良太が仕掛けた罠を作るのに神の木を使った描写から、次第に、何か得体の知れないものの存在を感じ始める達男と基視子の描写へ移っていく。

 

神が宿るという神聖な入江に仲間と飛び込んでみたり、何かにつけ、神聖なものへの反抗を繰り返す達男。どこかモヤモヤとする物を抱かえながら女と関係を持ち、妻と家族を大切にしている達男。そんな達男に憧れの視線を送る良太。港では、何度も重油を撒かれる事件が起こり養殖の魚が被害を受ける。水中公園建設の計画があり、村の不動産屋が奔走する。若者がバイクでやってくる。達男の子供時代に紀勢本線が開通したというシーンが挿入される。

 

ある時、山で作業をしていて大雨が襲いかかる。仲間は皆山を降りるが、達男は何かに呼ばれるように山に残る。そして、至上の存在が達男に何かを伝える。基視子は、男たちに貢がせた金を持って新宮へ帰っていく。

 

まもなくして、火まつりが行われ、達男は皆の静止を振り切って大暴れする。そして場面が変わると、達男は正装をしている。子供たちが学校から帰ってくる。達男はこどもらにジュースを買いに行かせる。子供らを送ってきた先生が子供に声をかける。銃声が聞こえる。慌てて子供らは家に向かう。先生も子供らの家へ向かう。銃を撃っていたのは達男だった。達男の家族が皆死んでいる。中に入った子供たちも撃たれ、達男は最後に自分を撃って果てる。いつもやってくるパン屋や刃物の行商人らが何事もなかったかのように帰っていく。海では、最近頻繁に起こっている重油がどこからともなく広がってくる。夕陽に染まる海が黄金に輝くようになって映画は終わる。

 

感性のみで見る作品で、画面から伝わってくる何かを感じ取りながら、作品全体の空気感を楽しむ映画という感じでした。ラストシーンの惨殺場面まで淡々と田舎の閉鎖的な日常を描いていきながら、何かの存在を映し出す演出がなかなか見事です。いい映画でした。