くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「流浪の月」

「流浪の月」

相当にクオリティの高い作品でした。今どきのDV、ネットの暴力、性虐待を描きながら、その奥にある本当を描き出していく脚本が見事。ただ、やや技巧的に走りすぎた部分があり、細かくフラッシュバックを繰り返してジグソーパズルのように交錯させるストーリー展開、美しい画面を挿入するものの映画全体は美しくならないカメラ、が本来描くべきテーマをともするとぼやけさせてしまわなくもないのは少し残念。もっと真正面からこちらに映像をぶつけて来ればもっと圧倒されたかもしれません。でも、松坂桃李広瀬すずの圧巻とも言える演技、横浜流星の熱演には拍手したいです。監督は李相日。


公園、一人の少女が赤毛のアンを読んでいる。しばらくすると雨が降り出すが、無心で本を読む。傍に一人の青年が傘を差し掛ける。幼い頃の更紗と若き日の文である。帰りたくないという更紗を文は自宅に連れ帰る。


画面がかわると、2007年のロリコン青年が少女を誘拐した事件をファミレスで見る学生たち。どうやら、文と更紗の過去の事件らしい。傍を大人になった更紗が通り過ぎる。このオープニングの人物紹介は見事です。更紗はこのレストランで働きながら同僚の安西らと普通に暮らしていた。更紗の父は亡くなり、母は男と出ていき、引き取られた先にいた中学生の男の子に毎晩悪戯された過去があった。更紗は恋人の亮と同棲していて、亮は更紗を両親に引き合わせて結婚を考えていた。


ある時、店の同僚らと飲んだ帰り、安西に誘われて、一階がアンティークショップになっているカフェにつれていかれる。ところがそのカフェのオーナーは文だった。更紗は運命的な再会をするが文は気がついていない風である。それから更紗は一人でカフェに立ち寄るようになるが、最近の行動がおかしいと感じた亮に責められる。そんな時、亮の祖母が倒れ、更紗は亮の実家に行く。そこで亮の妹に、兄は暴力を振るうのだと知らされる。


戻ってから、次第に亮の行動が異常になっていき、文のカフェまで押しかけてくる。しかも、文の過去を調べた亮は、カフェの写真をアップしたりし始める。映画は、更紗と文の過去の物語を細かく散りばめながら現在を展開させていく。


更紗は、ある雨の夜、文を待ち伏せるが、文の傍には恋人らしい大人の女性あゆみを認め、普通の暮らしをしていることに安心する。しかし、文はあゆみを抱くことが出来なかった。更紗は、過去の自分の警察での行実の悪さから文を悪人にしたことに罪の意識があった。


次第にエスカレートしていく亮の行動は、爆発して更紗は血だらけになって家を飛び出す。街を彷徨い歩き、道端にしゃがみ込んでいるところへ文が現れる。そして更紗は文のカフェで一晩過ごし、文の隣の部屋に住むようになる。一方、安西は娘の梨花を更紗に預けて男と沖縄に旅行に行く。更紗は梨花、文と三人で遊ぶことが多くなる。安西は数日しても戻って来ず、連絡もつかなくなる。更紗の母と同じことが繰り返される。


ネットでは文のプライバシーが暴かれ、更紗とのツーショット写真までアップされるようになり、マンションにも中傷のチラシが撒かれ、更紗も店をクビになり、カフェにも落書きされる。あゆみは、文に、ロリコン趣味ゆえに自分を抱けないこと、過去の事件を隠していたことをなじり去っていく。文が孤独になるにつれ、更紗は文に寄り添い、梨花との暮らしも続いていく。


文への誹謗中傷のエスカレートに剛を煮やした更紗は亮の部屋にいくが、亮は仕事もせず、すっかりすさんで荒れた生活をしていた。そんな亮に謝り部屋をでた更紗だが、亮が自らナイフを自分に刺して追いかけてくる。救急車に乗せられる亮は、ついて来る更紗に、もういいからと押し返す。この事件で警察に呼ばれた更紗だが、刑事たちは文の事を聞き始め、一緒に暮らしている少女についても言及してくる。そして、過去の更紗と同じく、警察は文を逮捕、梨花を連れて行ってしまう。


どこまで行っても、過去の過ちから逃れられない絶望感の中、更紗は、荒れ果てた文のカフェにやってくる。文はそこで全裸になり、この病気のために女性を抱けないと更紗に告白する。文のペニスは成長せず幼い姿のままだった。自分といたら不幸なことしか起こらないという文に、更紗は、何かあればまた次に移れば良いと言ってお互い手を繋いで映画は終わる。


細かいフラッシュバックの繰り返しで過去と現代、そしてそれぞれの登場人物のこれまでの不幸を描き出していく脚本、演出が素晴らしく、一級品に近いが、デジタルゆえの映像美を繰り返すカメラがやや浮いている。粗も散見される作品ですが、オープニングから徐々に盛り上がっていくストーリー作りは見事です。良い映画でした。