くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「フィッシャー・キング」「バニシング・ポイント」(4Kデジタルリマスター版)

フィッシャー・キング

久しぶりの再見でしたが、やはりいい映画ですね。ちょっと終盤がくどい気がしますが、シュールなショットとダンスシーンを盛り込んだロマンティックなシーンを融合させたドラマ作りがとっても良くできています。監督はテリー・ギリアム

 

毒舌で人気のDJジャックが今宵もラジオで好き放題に語っている場面から映画は始まる。俯瞰で彼を捉えるカメラが縦横に室内を動き回る。ところが、彼の言葉に触発された一人の青年が銃を乱射する事件が起こる。ショックを受けたジャックはすっかり変わってしまい、恋人アンの経営するビデオショップに居候する毎日になる。そして3年が経つ。

 

この夜も酒浸りのジャックはアンと喧嘩をし、夜の街に飛び出してしまう。コートは敗れボロボロのまま彷徨った彼は橋の下の河辺にたどり着く。そこへ、ホームレス狩りの若者二人が襲いかかって来る。ガソリンを浴びせられあわや焼き殺されるかと思われたところへ、奇妙な出立ちのホームレスパリーが現れジャックを助ける。

 

ジャックが目を覚ますと、そこはボイラー室で、そこでパリーが暮らしていた。目を覚ましたジャックにパリーは、大富豪カーマイケルの写真を見せ、そこに写っているカップを聖杯だと言って、ジャックを選ばれた人間だからこれを手に入れて欲しいというが、ジャックは相手にせずその場をさる。そして再度訪れた際、同居人から、パリーの妻は3年前の銃乱射事件で犠牲になったということを知り、贖罪も兼ねてパリーに近づく。

 

パリーはかつてヘンリーという名の大学教授だったが、事件の後精神病院に入り、ある日突然喋り始めたものの、過去を忘れホームレスになったのだという。パリーは時折真っ赤な騎士が襲ってくる幻覚を見ていた。パリーは街で一人の女性リディアに惹かれていた。駅でパリーがリディアを認める時の全員が社交ダンスを踊る場面が実に良い。ジャックはパリーの思いを叶えてやるためにリディアに接触し、ビデオショップの無料券に当選したと言って店に呼び出す。おかまで歌手のホームレスを使って職場へ強引に勧誘に行くシーンが楽しい。

 

店にくることになったリディアを迎えパリーにおめかしをして待ち受ける。やってきたリディアだがなかなか打ち解けない。そんなリディアはアンのネイルが気になり、夜、ネイルの手入れをしてやる一方で、四人でデートする約束を取り付ける。リディアが中華料理が好きだとパリーから聞いていたので、中華料理店で食事をし、それぞれのカップルで別れる。この食事シーンのコミカルな演出がまた楽しい。

 

しかし、リディアは、こんなうまくいくことはないはずだとパリーを遠ざけようとする。しかし、真摯に接するパリーにほだされたリディアは、次のデートを約束する。しかし、リディアが家に入った後、ネオンの光にパリーは急に発作を起こし、赤い騎士に追われる幻覚に襲われて狂ったように走り、かつてジャックを助けた川のほとりまで来る。そこへ、あの若者二人が現れリンチを受ける。

 

そんなこととは知らないジャックは、すっかり気持ちが晴れ、もう一度DJの仕事をするつもりで電話をする。そんなジャックにアンも安心して接するが、ジャックは一人になりたいと言って家を出ようとする。そこへ、パリーが入院した知らせが入る。医者は、外傷は治っても心は閉ざされ、もう一度元に戻るかはわからないと答える。

 

やがてジャックは元の仕事に戻り、順調に人気が戻っていく。すっかり地位と名誉を取り戻した彼は、スタジオの入り口で声をかけられたおかまのホームレスを無視するようになっていた。しかし、ふと我に帰ったジャックは、パリーの病院を訪ねる。傷は治ったが空を見ているだけのジャック。リディアが看病に来ている。ジャックは、パリーを治すために、聖杯を盗むと告げる。

 

深夜、お城のようなカーマイケルの豪邸に忍び込み、聖杯を盗むが、カーマイケル本人が睡眠薬の過剰摂取らしく異常に眠っていた。ジャックはわざと警報を鳴らして脱出、聖杯をパリーの元に届ける。パリーは聖杯を握り締め、しばらくすると意識が回復ジャックを抱きしめる。リディアがいつものように看病に来たら、パリーは患者たちと一緒に大合唱していた。傍にはジャックもいた。パリーとリディアは抱き合う。

 

ジャックはアンの店にきた。怪訝そうに迎えるアンに、ジャックは愛してると答える。夜、かつて、二人で寝転んだセントラルパークにジャックとパリーは全裸で寝転んで夜空を見ていた。空に花火が上がり、THE ENDの文字が出て映画は終わる。

 

前半の、斜めの構図を取った画面がいつの間にか真っ直ぐになり、物語がまともに変わっていく下りのうまさ。二人の主人公の立ち位置を見事に絡めた二人の女性のキャラクターが素晴らしく、最後まで引き込まれてしまいます。やはり名作ですね。

 

バニシング・ポイント

久しぶりの再見。やはりアメリカンニューシネマの傑作ですね。虚無感、社会問題への意識、反戦、などなど当時のアメリカの若者たちの考えを見事に反映していくストーリー展開は絶品。決して複雑なお話ではないのですが、細かいエピソードや登場人物に込められるメッセージが映画を何気なく大人にしていきます。見直して良かった。監督はリチャード・C・サラフィアン

 

二台のブルドーザーが道路をゆっくり進み、タイトルが被っていく。そして道路を遮るように停止する。一台の白い車チャレンジャーが走っている。空からヘリが追っている。道路に撒いた発煙筒の上を走り抜けて物語は二日前に戻る。

 

コロラドからサンフランシスコまで車を届ける仕事をしているコワルスキーは、真っ白なチャレンジャーをサンフランシスコまで届ける仕事を受ける。猛スピードでハイウェイを走るチャレンジャーに、すぐに白バイやパトカーが迫って来るが、コワルスキーは、ものともせず振り切っていく。

 

ここに黒人のDJスーパーソウルは、この日も軽快に音楽とメッセージを放送していた。警察無線を傍受したことからコワルスキーの事件を耳にし、放送で警察の動きや激励のメッセージをし始める。物語は疾走するコワルスキーが、スーパーソウルの番組を聴きながら、途中、ガソリンを入れるのにガラガラ蛇を取る老人と関わったり、おかまの強盗カップルに遭遇したり、音楽で宗教活動をする若者たちに出会ったりする。

 

かつて警官だったコワルスキーは、上司のセクハラを見逃せず首になったらしい。そして恋人は海で亡くしたらしい。プロのカードライバーだったが事故で辞めたらしい。と、過去が挿入されていく。警察は、ただの暴走車としてコワルスキーを追っていたが、次第にさまざまな罪を加えていく。スーパーソウルの放送は過激な白人の若者に襲われたりもする。

 

目的地が近づいたが、警察はなんとしても止めるべくブルドーザーを道路に配置して待ち構える。爆走するコワルスキーは、ブルドーザーを知ってか知らずか、猛スピードでブルドーザーに突っ込み大爆発、映画は終わる。

 

待ち構える住民たちの冷めた視線、コワルスキーを応援し助ける人々のさりげない挿入など、映画が非情なくらいにクールに展開する様はまさにアメリカンニューシネマの世界ですが、今見ても当時の世相がまざまざと見えてくるからすごい。やはり名作です。