くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「バッドマン 史上最低のスーパーヒーロー」「ボイリング・ポイント 沸騰」「マルケータ・ラザロヴァー」

「バッドマン 史上最低のスーパーヒーロー」

アベンジャーズバットマンのパロディ小ネタ満載なのに、恐ろしいほどに脚本がよくできている。練り込まれた中身とラストへ向かうしっかりとした道筋を貫いて、ラストはじわっと感動させてくれた。この低予算でここまで練り込んだら、パロディ映画の域を超えたちゃんとしたコメディエンターテインメントです。ラストまでのこだわりには拍手してしまった。監督はフィリップ・ラショー。

 

売れない役者のセドリックは、短小コンドームの宣伝など馬鹿馬鹿しい仕事しかしていない。警察署長で間も無く引退の父はそんな息子を馬鹿にしていた。親友二人もいかにもおバカで、セドリックの母親とねんごろになったり、幻覚剤を飲んでフラフラになったりしている。妹はしっかりもので家族をささえている。しかし、そんなセドリックにヒーローものの主役バッドマンのオファーが来る。と言っても、実は人違いだったのだが、本来の主役が車の事故で亡くなり結局セドリックに役が回ってきた。

 

セドリックは筋トレを始め、役作りを始める。相手の悪者ピエロは往年の名優だった。やがて撮影が始まるが、リモコンで爆発するはずの人形が機能せず、仕方なく撮影用のバッドモービルのトランクに乗せる。そんな時、父が怪我をしたという連絡がはいり、慌てたセドリックはバッドモービルを借りて父の元へ急ぐ。ところが、トランクの人形が爆発し、セドリックは銀行へ突っ込んで事故を起こし記憶を失ってしまう。

 

気がついたセドリックの傍には大金の入った撮影用の小道具のバッグとバッドマンの衣装が置いてある。鞄の新聞にはバッドマンの活躍の記事と、悪人ピエロの顔、さらに、バッドマンの妻と息子がピエロに誘拐されたと描かれたものがあった。全て小道具なのだが、セドリックは信じてしまう。

 

セドリックは、妻たちが誘拐された城、実は名優の自宅なのだが、そこへヒッチハイクで向かおうとして、ジャーナリストのロールの車に拾われる。途中、本当の強盗事件に遭遇し、セドリックはバッドマンになって立ち向かうが、そのどさくさで、ほんものの大金を奪って逃げる羽目になる、なんとその強盗事件の犯人はセドリックの父が宿敵として追い続けている男だった。

 

セドリックは名優の城に忍び込むが、実はこの日名優の誕生日で、サプライズの仮装パーティーが開催される。そこに紛れて、セドリックは名優の実子を自分の誘拐された子供だと思って連れ出すが、名優への誕生日プレゼントの鷹に攫われてしまう。そこへ警察署長の父らが踏み込んで、セドリックの仮面を履いで息子だと気がつくが、セドリックは脱出。

 

セドリックは、セドリックを追ってきた父の宿敵と対決することになるが、そこへ友人や妹たちが駆けつける。そしてアベンジャーよろしく宿敵と対決し見事倒す。セドリックが去った後、警察が踏み込むが、バッドマンの仮面をかぶっていたのは宿敵で、署長は勇退前に手柄を立てたことになる。

 

セドリックは、記憶が戻り、ロールに再度会うために、もらっていた名刺の住所へ行く。しかしそこで見たのはセドリックが繰り返し見ていた花などのオブジェで、ロールはセドリックの妻?だった。

 

セドリックは映画出演で成功し、そのプレゼン上映会で観客席の父も祝福されそれぞれがハッピーエンドとなる。エピローグでピエロと対決するバッドマンの映画シーンが描かれて映画は終わる。

 

ドタバタコメディのように小ネタ満載で展開しながら、父と息子、男と女の物語をしっかりと埋め込んだ終盤までの展開が、全く手を抜かない緻密すぎるくらいの描き込みで流れていく様は見事というほかない。映画というのはこうして見せていくものだというある意味教科書のような映画だった。

 

「ボイリング・ポイント 沸騰」

今時、全篇ワンシーンワンカットはそれほど珍しくないし、デジタルカメラになって技術的な工夫も不要になっているので、よほどカメラワークが良くないと一級品には仕上がらないと思うのですが、この作品、どちらかと言うと、ひたすらワンシーンで描いているものの、それほど目新しさも美しさもない普通の作品に見えました。ただ、厨房の裏側の人間模様と俗っぽさがこれでもかと描かれるドラマ性は評価できるかなと思います。監督はフィリップ・バランティー

 

シェフのアンディが、任されている店に向かっている場面から映画は始まる。何やら急ぎの電話をしているようで、そのまま厨房へ。そこでは衛生監督官らしき男が色々調べ回って、文句を言った上評価して帰っていく。イライラしながら仕事につくアンディだが、遅刻してくる職員やら、文句ばかり言う支配人の女らに辟易とされる。間も無く、週末の繁忙の営業がスタートする。

 

アンディのかつての相棒で、この店の出資者でもあるスカイが料理評論家を連れたやって来る。アンディの片腕のシェフ、カーリーが手際よく料理を作る。ナッツアレルギーの客が来る。クレーマーの客が来る。SNSインフルエンサーだと言う男たちが来る。そんな様々な客たちを捌きながら、厨房の裏では従業員同士の確執、支配人との軋轢などが入り乱れ、アンディの心労も徐々にピークになる。一方で、妻への電話をしなければならない。

 

スカイは実は金に困っていて、アンディの店の共同経営者に参加させてほしいと言ってくる。そんな時、ナッツアレルギーの女が倒れる。どうやらアンディのドレッシングへの指示が悪かったらしい。スカイは、カーリーに責任を押し付けろと言って来る。それを退け、なんとか営業を元に戻す中、アンディは妻に電話をし、中毒になっていたアルコールやドラッグを捨て、やり直す決心するが直後倒れてしまう。アンディに声をかけるカーリーたちの声で映画は終わる。

 

目まぐるしいほどの展開を全篇ワンシーンワンカットで見せるので退屈しないのですが、こういう撮影も今時珍しくないのでもう一工夫欲しかった気もします。

 

マルケータ・ラザロヴァー」

シンプルなストーリーなのですが、超クローズアップからフルショット、ワイド画面、望遠、広角、ジャンプカット、など多彩で圧倒される映像表現で描いていくので、その画面に翻弄されてしまって、ストーリーを掴みづらくなってしまいました。しかも、神の存在や宗教的な寓話の語りがかぶる中での台詞というのは相当にストレスがかかるので、人物関係を把握しにくかった。ただ、映画としては度肝を抜くほどに圧倒される作品に仕上がっていて、映ってくる画面をストレートに受け入れていけば、感性で楽しむ作品に仕上がっていたと思います。監督はフランチシェク・ブラーチル。

 

13世紀ボヘミア王国、広大な雪原、黒い点が、実は狼の姿で、カメラが動くのと同時に一斉に走り出して映画は幕を開ける。望遠レンズで大きく捉えた伯爵の幌馬車隊が片腕の男のそばを通り抜けからかう。次の瞬間、その片腕の男が最後尾の馬を襲って奪う。片腕の男はアダムと言って盗賊騎士コズリークの一軍のメンバーだった。彼らは伯爵の息子クリスティアンを捕虜として捉える。王は捕虜奪還とロハーチェック討伐のためピヴァを指揮官とする精鋭部隊を送る。

 

ここにコズリークと敵対するオポジシュテェの領主ラザルはコズリーク一門の獲物を横取りしては豊かに暮らしていた。コズリークの息子ミコラーシュは王に対抗するべく同盟を組むことをラザルに持ちかけるが拒否され、ラザルは王に協力する。ラザルの娘マルケータは、この日父に連れられて修道女になるべく修道院を訪れ戻ってくる。ところが戻ってみるとラザル一門に袋叩きにされたミコラーシュがその報復にためにラザルの家を占拠していた。そしてミコラーシュは、ラザルを釘付けしてしまい、マルケータをさらっていく。

 

ミコラーシュは、マルケータを手籠にするが、やがて二人の間には恋が芽生えてくる。この二人の物語に被って、巨大化する王国の軍隊や、修道士ベルナルドが至る所に登場、盗賊騎士団の女アレクサンドルと伯爵の息子クリスティアンとの恋、コズリークの息子アダムが妹のアレクサンドラと寝たことで片腕を切り落とされるエピソードなどなどが空間と時間を前後させて描かれていく。

 

ミコラーシュは王国に攻め入るも、反撃され殺され、アレクサンドラは発狂したクリスティアンを殺す。マルケータはラザルの元に戻ってくるが、汚れた娘は受け入れられないと追い返す。マルケータは何処かへ旅立つがお腹にはミコラーシュの子供が宿っていた。アレクサンドラのお腹にもクリスティアンの子供が宿っていた。こうして映画は終わる。

 

形ばかりの信仰心を軸に、欲望が入り乱れる中世のボヘミアを、空間と時間、圧倒的な映像表現を駆使して描くまさに映像オペラと呼べる映画で、その度肝を抜かれる多彩な画面に圧倒されますが、ストーリーテリングや人物描写はかえって見えづらくなり、かなり難解な仕上がりになってしまいました。でも、一見の価値ある映画です。