くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「クーデター」「Dear ダニー 君へのうた」

kurawan2015-09-09

「クーデター」
これは面白かった。それほど期待してなかっただけに、掘り出し物に出会った感じです。監督はジョン・エリック・ドゥードルという人です。

映画が始まると、アジアのどこかの国の宮殿でしょうか?給仕らしい男が盆の上に水を乗せて階段を上っていく。カメラは彼の後をゆっくりと追いかけていく。フロアに着くと、ボディガードらしい男がいて、水を試飲し、給仕に促すと、奥に王様らしい男とスーツを着た首相と呼ばれている男がいる。そして2人はその水を飲んで、歓談の後、首相は立ち上がる。王様が彼を送るようにボディガードを促し、ガードは首相とともに下に降りて車に乗せるが、直後、銃声。慌ててフロアに戻ると王様らしい男が倒れていて、犯人らしい男がいる。それを見てボディガードは自らナイフで自刃する。このオープニングが見事。

そして時は17時間前の飛行機の中。主人公ジャックとその妻、2人の娘がこれから向かうアジアの国の話をしている。そこで一人の男ハモンドに出会う。彼こそ、これからジャック達に起こる危機を助ける存在なのである。とはいえ、ほんの終盤くらいですが。

ホテルについたジャック達、新聞を買いにジャックが出て行って市場の中をうろつくが、直後、警官隊と男達との衝突シーンに出くわす。そして、外国人が次々と殺されていることに気がつい、異常事態を察するのだ。あとは、ひたすらこの家族が、必死でこの状況から脱出するサバイバルアクションとなる。

とにかくオープニングのスローモーション、そして導入部、ジャックが新聞を買いに行って、風鈴の音が止まり、異変に気付く場面のゆっくりした映像から一気に手持ちカメラを駆使した振り回し画面へと進む展開がとにかく面白い。

手に汗握る危機また危機の連続が、ほとんど飽きることなく抜群のテンポで展開する。余計な理屈は抜きにして、若干、暴動の原因をかいつまんでハモンドが説明するカットもあるが、ひたすら逃げる逃げるである。

そして、ベトナムの国境を抜けて、助かるエンディングまでが、細かいところに荒っぽさがあるものの、ひたすらハラハラドキドキさせてくれるのです。

娯楽に徹した脚本の面白さと、セオリー通りなのに、ちょっとワンテンポずらしたような見せ場の連続に、ラストシーンまで一気に駆け抜ける快感がある。確かに、暴動の原因とか、ジャックが就職したカーディフ社という水の開発会社の陰謀についても触れれば触れられないわけではないのだが、軽くかわして脱出劇にポイントを絞ったのが成功だった気がします。面白かった。


「Dearダニー 君へのうた」
これはいい映画でした。嫌味もなく、ありきたりなシーンもなく、それでいて何処か実話のリアリティが妙に涙をそそります。監督はダン・フォーゲルマンという人です。

映画は1971年、主人公ダニー・コリンズの若き日、インタビューを受けているシーンから始まります。アル・パチーノのそっくりさんがこのシーンを演じる。

そして時は2014年へ。大スターとなったダニー・コリンズがステージで観客を魅了しているが、この40年近く自分の作曲した曲を歌っていないことへのこだわりと、過去の名曲で観客を沸かせている現実に悩んでいる。彼のそばには親友でマネージャーのフランクがよりそっている。

豪邸である自宅にスーパーカーで戻ってみると若い妻がいる。ダニーの誕生パーティでの喧騒の後、フランクはとあるコレクターから手に入れたという一通の手紙をプレゼントします。それは、ダニーの若き日に、語った言葉に対する憧れのジョン・レノンからの返事の手紙だった。しかも電話番号まで。

お宝になるとダニーに渡されなかった手紙をフランクが手に入れてくれたのだが、今や過去に戻れず、ジョン・レノンに電話することもできない。しかし、彼はかつて離れ離れになった息子夫婦に会うことを決心する。

と、ここまでは普通の展開に近いのだが、やたら金離れの良いダニーのキャラクターに加え、息子に会いに行った時に泊まるヒルトンホテルの受付の女性や支配人メアリーとのやりとりが抜群にいいし、更に孫娘で多動性障害のホープという女の子の存在もとってもキュートで楽しい。

実話をもとにしたフィクションなので、どこまでのキャラクターが実在するのか分かりにくいが、この脇に配置した登場人物の魅力が、このお話を数倍素敵なものにしています。

そして、実はダニーの息子トムは白血病で、ダニーは息子に付き添って、集中治療に立ち会う。やがて二人の確執は何気なく溶けてくる。このさりげなさが本当に良いのです。

ダニーはひさしぶりに新曲を作り、メアリーや家族を呼んで、クラブで披露するべく企画するが、観客の求めているのは過去のヒット曲だった。その歓声に負けて、過去の歌を歌ったダニーは楽屋で酒を飲みドラッグをする。しかも、そこへ息子達家族が入ってきたので、また溝ができる。しかし、やがて検査の発表の日、一人病院にやってきた息子の前にじっと待つダニーの姿。

ダニーは息子に、先生の第一声が「トム」なら朗報、「ドネリーさん」と入ってきたら良くないことがこれまでの中で多かったからと話をする。
やがて、医師が入ってきて「トムさん」と声がかかり暗転。このラストの運びも絶妙に良いのです。

キャラクターの配置、ストーリのテンポ、ジョン・レノンの音楽の効果的な挿入など、本当に魅力的に仕上がっていて、実話を手際よく映画に仕上げたという感じのとっても素敵な物語でした。