くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ストーリー・オブ・マイ・ワイフ」

「ストーリー・オブ・マイ・ワイフ」

久しぶりにセンスの良い知性的な映画に出会いました。まるで夫婦の大河ドラマのような作品で、微に入り細に入った演出と知的なセリフが散りばめられた脚本、そして美しいカメラ映像、不可思議で現実とも非現実とも判断できないような存在感の登場人物、淡々と進むストーリーながらも、夢を見ているような陶酔感に浸る空気感、非常に密度の濃い緻密な大作映画でした。三時間近くですがもうちょっと短かってもよかった気はしますが、素晴らしい映画でした。監督はイルディコー・エニェディ

 

鯨がお互い海に中で言葉を交わしている声から映画は幕を開ける。カメラが水面に出るとかなたに貨物船が浮かんでいて、その船の船窓から漏れる光がゆっくりと船内を幻想的に映し出す。このカメラが実に美しい。船長のヤコブが食事の後甲板で気分悪そうにしていると、料理長が来る。自分は妻がいるので胸が悪くならないなどと話す。

 

1920年ヤコブマルタ共和国の港に降り立つ。カフェに立ち寄ると、胡散臭い友人コードーがいて、金をせびる。ヤコブは次にこのカフェにはいっていきた女性と結婚すると話すが、結果を待たずコードーは席を立つ。しばらくして一人の女性がカフェに入ってくる。不思議な雰囲気を持つその女性はリジーという名だった。ヤコブは何気なく近づき結婚を申し込む。リジーは意味ありげなウィンクと微笑みを返し、一週間後なら構わないと答える。

 

結婚の初夜、二人は普通の夫婦とは少し違った時間を過ごす。その翌朝、ヤコブは四か月の船の仕事に出る。そして、港に戻ったヤコブは、すっかり新妻となっているリジーを見る。しかし、リジーの友人で若くてハンサムなデダンという男性が現れると、ヤコブの心はざわつき始め、ほとんど家にいないということもありリジーとデダンの仲を嫉妬し始める。巧みにフランス語を操るデダンに、何かにつけて無骨なヤコブはさらに嫉妬心を膨らませていく。

 

ヤコブは貨物船を降り、客船の臨時の船長に赴任、リジーも一緒に連れて行こうとするがリジーはついてこなかった。航海の夜、船内で火事が起こり、ヤコブは的確な判断で船を救うが、その時に一人の若い女性グレーテと知り合う。ヤコブは自由奔放に遊び回りヤコブを翻弄し始めたリジーの姿に一時の浮気心でグレーテと密会するようになる。そして結婚さえを申し込む。自分達夫婦は離婚寸前だとヤコブは思っていた。

 

一方、コードーは、怪しげなビジネスながら成功して力をつけていた。そして、ヤコブを誘いさらに大きな仕事を計画、ヤコブもそれに乗るようになる。そして、将来有望な株券を手にする。

 

ヤコブがグレーテとの約束をした朝、ヤコブコードーと仕事の話があると嘘を言って出かけようとするが、妖艶な仕草でリジーヤコブを誘う。そしてヤコブとリジーは愛し合うが、時間に遅れたヤコブが待ち合わせ場所に行くがグレーテと出会う。しかし、やがてグレーテはヤコブの元から離れていく。ヤコブはリジーとの離婚を決意し、ヤコブが不在の間のリジーの行動を調査させるが、リジーは極めて貞淑だと報告されて、自分の独りよがりだと後悔し、もう一度船長職に戻るべく船会社に出向き、リジーと一緒に乗って東インド航路の船長の仕事を決める。その帰り、仮想パーティの案内状をもらう。

 

自宅に戻ったヤコブだが、リジーの姿はいなかった。呆然としたものの仮想パーティに出かけることにする。ところがそのパーティでデダンの姿を見かけ、さらにリジーの姿も見かける。やはり自分の判断は間違っていなかったと確信して自宅に戻ってくるが、リジーは大勢の男たちと車で去った後だった。ヤコブは慌ててその後を追い、列車の中でデダンと一緒のリジーを発見する。リジーは、ヤコブコードーとに共同事業で手にした株券を持っていた。ヤコブはデダンを殴り、リジーにことの経緯を告白する文書を書かせて、リジーの非による離婚の証拠として列車を降りる。

 

七年後、ヤコブは冒頭の港に着き、船を降り路面電車に乗っているとリジーが一人歩く姿を見かける。ヤコブは友人のマダムに電話をし、リジーの近況を聞くが、リジーは六年前に亡くなったと聞かされる。リジーはずっとヤコブを愛していたと言われるが、果たしてどこまでが真実なのか曖昧なままにまるで幻覚のような思いで船に乗ったヤコブの姿で映画は終わる。

 

レア・セドゥのファムファタールのような存在感、タバコの煙の吐き方、火の付け方など細かい仕草までこだわった演出、幻想的な光の映像、美しい構図、現実なのか夢物語なのか曖昧に見せるカット編集と展開に酔いしれてしまう作品で、見終わって、果たして自分の理解が正しいのかどうかもう一度反芻してみたくなります。しかも、画面が大きくて、その大きさに圧倒される映像も見事で、本当に内容の濃い傑作でした。