くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「アンデス、ふたりぼっち」「ビギナーズ」

アンデス、ふたりぼっち」

二人だけの登場人物で淡々と流れる物語なのに、しっかりとドラマとしてのうねりが組み立てられていてなかなかの作品でした。アイマラ語という全く知識のない言語による初の映画らしいですが、美しい景色と素朴すぎる老夫婦の毎日をリズミカルに繰り返しながら次第に大きく変化していくくだりは見事でした。監督はオスカル・カタコラ。

 

アンデス山脈の高地でたった二人だけで暮らす老夫婦。どうやら息子は街へ行ったきり戻ってこないらしく、妻のパクシは息子が帰ってくることだけを祈っている。コカの葉を食し、精霊を祀りながら、数頭の羊とリャマ、犬と一緒に暮らす日々が淡々と描かれていく。

 

街へ行く用があるウィルカに、マッチを買ってくるように頼むパクシ。しかし、ウィルカは峠まで行くがそこで動けなくなってしまう。夜になっても帰らないウィルカを探しにパクシがランプを持って迎えに行く。ところが夜明けに戻ってみると、羊たちが狐に殺されていた。嘆き悲しむパクシ達。

 

マッチがなくなり、今灯っている炎を絶やさないように夜を過ごすようになるが、ある時、火が近くの茅に燃え移り家が火事になってしまう。なんとか逃げ出したものの、まもなくしてウィルカが病気で寝込んでしまう。食べ物も底をつき、パクシは仕方なく最後に残ったリャマを殺してウィルカに食べさせようとするが、弱りきったウィルカはとうとう死んでしまう。ひとりぼっちになったパクシは山を降りる決心をして、トボトボと峠を下って行って映画は終わる。

 

決して派手な映画でもなく、名作とかいう仰々しいものでもないのですが、ドキュメンタリーかと思わせるオープニングから、次第にたった二人の人間ドラマが静かに展開していく中盤、悲劇が続いて起こってくる終盤、と物語の構成が実に上手くできています。素朴に広がるアンデスの山々を背景にしたヒューマンドラマとして胸に残る一本でした。

 

「ビギナーズ」

楽しい映画でした。楽曲がとってもテンポがいいし、ダンスシーンも素晴らしい。ただ、オープニングのリズミカルな映像から中盤少し失速してしまったのはちょっと残念です。お話が今ひとつ一貫性に欠けたり、登場人物が今ひとつわかりにくいのですが、ミュージカル調の群像劇だと思えば十分に楽しめます。監督はジュリアン・テンプル。

 

1958年ロンドン、カメラマンで、ポルノ写真でお金を稼ぎ、スナップショットを趣味にしているコリンが、恋人スゼットとのデートの準備をしている場面から映画は始まる。この後、街に出たコリンが街の人たちを写真に収めながら縦横無尽に闊歩する姿をほぼワンシーンワンカットでダンスシーンを交えてのオープニングがまず引き込まれます。一方のスゼットはファッションデザイナーを目指しています。二人はそれぞれの生き方にどこかずれを感じながらも愛し合っていますが、ふとした行き違いから喧嘩別れしてしまいます。ダンスホールでのダンスシーンや市中の喧嘩シーンは「ウエストサイド物語」を彷彿とさせる見事なシーンです。

 

ファッションショーの手伝いに入ったスゼットは、ちょっとしたハプニングから自らステージに出てしまい、その勢いで見せたパフォーマンスが大物デザイナーヘンリーに認められ、あれよあれよという間に婚約してしまいます。一方のコリンも広告業界のベンディスの力添えでカメラマンとして成功していく。

 

スゼットとヘンリーの結婚生活は芳しくなく、一方、コリンが暮らすリトル・ナポリの街が再開発で黒人らを追い出そうとする不動産屋らの買収運動から暴動に発展していく。その騒ぎの中で、コリンとスゼットは再度愛を確かめ合い、やがて暴動が収まった中で、お互い愛し合って映画は終わる。

 

とにかくダンスシーンがとっても素晴らしいし、流れる曲の数々が素敵でワクワクします。映画作品としての出来栄えはともかく、エンターテイメント映画としては本当に楽しい映画でした。