くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「パリの調香師 しあわせの香りを探して」「聖なる犯罪者」

「パリの調香師 しあわせの香りを探して」

これが思いのほかいい映画でした。こういうタイプの映画は初めて見た気がします。静かに張り巡らされた伏線が次第に根を張るように物語にしみ入ってきて、見ている私たちに訴えかけてくる感動にとてもいい感じに映画館を出ることができました。監督はグレゴリー・マーニュ。

 

主人公ギヨームは高級タクシーの運転手をしているが、違反点数が重なり一旦解雇されそうになる。しかし、離婚した妻との間にいる娘と束の間過ごすためには仕事が必要で、その気持ちを汲んで、雇い主は調香師で気難し屋のアンヌという女性の仕事を紹介する。

 

ギヨームが行ってみると顎でこき使うように命令してくるアンヌに辟易する。アンヌはかつてディオールの専属にもなったことがある調香師だが、嗅覚異常で身を引き、嗅覚が戻った今、エージェントから単発の仕事を紹介され過ごしていた。ギヨームは、彼女の人物に寄り添ううちに次第にアンヌに惹かれ始め、一方で自分も嗅覚に才能があると感じ始める。

 

ある夜、アンヌは深夜酒を飲んで爆睡した翌朝、再び嗅覚異常となる。休息が必要と判断した彼女は睡眠薬を車の中で飲むが飲みすぎて意識を失う。ギヨームはそんな彼女を病院へ連れていくべくスピードを出してしまい、スピード違反をしてしまう。アンヌは入院して正式に嗅覚回復の治療を始めるがギヨームは職を失ってしまう。

 

退院したアンヌはギヨームのことを聞き、ギヨームが新しい仕事で芝刈りをしているところへ行き、今度はお仕着せの仕事ではなく、やりたかった香水の仕事をしたいから手伝ってほしいと誘う。ギヨームには調香師としての才能があったのだ。

 

ギヨームはアンヌの助手として、また交渉係として仕事を始め、ディオールに乗り込んでいく。一方、娘の学校参観で自分の仕事を生徒たちに紹介するシーンで映画は終わる。

 

とにかく登場人物が生き生きしているし、いい人ばかりなのがいい。アンヌは偏屈ではあるがちゃんとプロとしての存在であるし、ギヨームも離婚されるような存在ながらもしっかりとした大人である。さらにギヨームの娘もいい子で、映画にさり気ない彩りを加えている。ラストに向かうまでにさりげなく挿入された台詞の伏線がちゃんと生きているし、物語を引き立てているのがとってもいい。しかも、全然退屈しない。いいテンポで流れるちょっとした秀作という感じでした。

 

「星なる犯罪者」

これは物凄い映画だったけれど、息つく暇もないほど重い作品だった。もう少し気を抜くシーンがあってもいい気がするが、欠点と言えばそこかもしれない。ただ、キリスト教社会ではない日本人から見ると完全にあの映画の迫力を真に体験したかというと、それは不十分かもしれない。しかし、キリスト信仰を根本的に問題視する徹底した演出は見事なものでした。監督はヤン・コマサ。

 

少年院で生活する主人公のダニエルは、この日も仲間内の諍いの手助けをしている。彼は司祭になることを夢見ているが、犯罪者はなることができないという規則があった。彼は、いつもミサに来るトマシュ神父に取り入って知識を吸収し、司祭の服さえ手に入れていた。

 

やがて仮退院した彼は田舎の製材所で働くためやってくるが、たまたま教会で教会の司祭の娘と知り合い、思わず自分は司祭だと話してしまう。司祭に家に泊めてもらった翌日、司祭が急病で倒れてしまい、数日だけということで代理を務めることになったダニエルだが、次第に村の人々の心に取り入っていく。そして自らの名前をトマシュ神父と名乗る。

 

この村では昨年、七人が死んでしまう事故が起こり、その遺族は今も悲しみに暮れ、さらにその事故の張本人は葬儀をすることも拒否されていた。それに疑問を持ったダニエルは司祭らしからぬ振る舞いで村人の心を癒そうとし始める。そんな時、彼の素性を知るビンチェルという少年院仲間が現れる。金を要求されるが拒否し、村人から集めた金で事故の張本人の葬儀をすると宣言し実行するが、その日、本物のトマシュ神父が現れ、ダニエルに身を引くように勧める。ダニエルは村人に葬儀ミサをすると告げ教会に集める。

 

トマシュ神父はダニエルに、自分がミサをするからとみんなに紹介するように言い会場に入るが、ダニエルは上半身を脱ぎ、自分の素性を晒して去っていく。ダニエルは少年院に戻り、ビンチェルと決闘をすることになる。そして相手を打ちのめし叫びながら飛び出すところで映画は終わる。

 

シーンの至る所に、宗教観に対する疑問を散りばめ、人間が神を信仰することの本来の目的を失いつつあることというテーマをぐいぐいと見せてくる演出がとにかく重い。全く隙のない見事な映画ですが、二度見る勇気はないです。でも素晴らしい一本でした。