くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ヨーヨー」「破局」「恋する男」「ピンク・クラウド」

「ヨーヨー」

ピエール・エテックス監督特集の一本。画面の隅々、セリフの一つ一つ全てにユーモアを交えて描く知的コメディの傑作。ほとんど知識のない作品だったのが恥ずかしいほどです。とにかく楽しい。映画を楽しく作っている雰囲気が画面全体から溢れてきます。名作映画のポスターやシーンを臆する事なく取り入れた上、美しいシンメトリー画面を駆使し、遊びにあふれたセットの数々と、ストーリー展開に魅了されます。一つのジャンルを構築するほどの個性的な傑作に出会いました。

 

巨大な大邸宅、そこに暮らす大富豪の日常がコミカルに描かれていきます。いつも手元にヨーヨーを持っている。主人公の大富豪にはかつて恋した一人の女性が忘れられず、いつも引き出しに写真があった。ある時、サーカスを招いて貸切で楽しむ。一人のピエロの少年が邸宅の中を闊歩する。サーカスの曲馬乗りの女性こそが探していた元恋人の女性だった。しかも、一緒にいた少年は、大富豪との子供だと言う。大富豪は彼にヨーヨーをプレゼントする。

 

やがて、大恐慌が遅い、大富豪の会社も倒産してしまう。ここまでがサイレントで、効果音と音楽だけが聞こえている。そしてここからトーキーになる。大富豪は恋人と少年ヨーヨーを連れて興行に出る。子供は道化師となり、ヨーヨーと名乗り次第に人気が出る。やがて十年の歳月が流れ、大人気となったヨーヨーは興行プロデューサーとしてサーカスを率いていた。両親は自分たちだけで他国を巡業していた。そんな彼は一人の女性イゾリーナに恋をする。

 

第二次大戦を過ぎてヨーヨーのサーカスはどんどん大きくなり、夢だった両親が住んでいた邸宅の修繕にかかる。ヨーヨーの事業は順調に成功して、ヨーヨーは巨大企業家となる。ヨーロッパを転々として巡業している両親を、完成した大邸宅に招待する。しかし、成功したヨーヨーの前に両親は顔を出さず、イゾリーナに連れられて、ヨーヨーに別れを告げ去っていく。

 

ヨーヨーは、邸宅内に作った、幼い頃からのサーカスの道具を飾った部屋に入り、昔を懐かしむ。そこへ、森から象が現れて、邸宅内に乱入、大騒ぎする来客を尻目に、象を操り、邸宅の前の池の中へと進んでいく。画面にオーバーラップして円形のサーカスの演舞場が重なり映画は終わる。

 

コミカルな展開が非常に上品な画面の中で計算し尽くされた展開で進んでいく様が心地よく、さりげなく見えて来る親子の物語が、次第に情感を醸し出していきます。フェリーニの「8 1/2」や「道」、さらに「チャップリンの独裁者」をパロディしたような場面もあり、ラストは不思議な感動を思い起こさせてくれて、とっても素敵な感動に浸れました。

 

破局

ピエール・エテックスジャン=クロード・カリエール監督の短編。とにかく10分ほどの中身なのですが、軽快なテンポに引き込まれてあっと言う感じで終わります。傑作短編コメディでした。

 

車が行き交う街中をすり抜けながら主人公は自宅に帰って来る。一通の手紙が届いていて開けてみると恋人からだが、自分の写真が真っ二つに破られて入っていた。男も返事を書こうとするが、万年筆やインク、便箋、さらには机に翻弄されてなかなか前に進まない。そのコミカルな展開をひたすら描いていき、ようやく封筒に破った恋人の写真を封入するものの仕上がらず、引き出しからピストル、と思われたがライターでタバコに火をつけ、椅子に座って寄りかかると後ろにひっくり返って窓から落ちて映画は終わる。

 

なんとも、見事な構成の短編映画で、まさに傑作といえる一本でした。

 

「恋する男」

単純な物語なのですが、隅々まで計算された肩透かしのようなコミカルシーンの連続に翻弄され楽しませてもらえる映画でした。監督はピエール・エテックス

 

惑星の写真のアップから、チャチな発射台のような場面、SFかと思わせカメラが引くと発射台のペンを取る主人公の姿へ画面は移っていきます。どうやら天文学が好きらしいこの男ですが、下の階では両親が、そろそろ結婚してほしいと気を揉んでいます。妻に言われ、父親が息子のところへ行き、思いを話します。この家には、ホームステイでしょうか言葉の通じない一人の若い女性が住んでいます。

 

若者は早速街へ行き、ナンパしようと四苦八苦する。ひと真似をして若い女性と近付きになろうとするも、いつもチグハグに失敗。ダンスホールで近所に住む女性と知り合い近づいたものの、浪費家で極端なハイテンションに翻弄される始末。酔い潰れた彼女を自宅まで連れ帰るが、翌日家に押しかけてきたので公園で言われるままにこの女性と付き合う羽目に。そしてこの女性の部屋でたまたまテレビに映った歌手ステラに一目惚れしてしまいます。

 

ブロマイドを集め、ポスターやディスプレイを手に入れて自室に飾りまくる青年は、勝手に結婚を決めて指輪を持って楽屋へ向かいます。四苦八苦の末、楽屋に忍び込んだが、そこにいた青年にステラに合わせてくれと言うと、なんとその青年は母を呼び、その青年が息子だと判明。落ち込んだ若者は自宅に戻り、部屋のブロマイドなどを焼きます。

 

その頃、ホームステイに来ていた女性は自国に帰ることになり荷造りしていました。先日から片言で言葉を練習していて、若者に挨拶に行き、なんとか覚えた「結婚してください」と言う言葉を交えて、通じない自国語でしゃべりまくり、そのまま駅に向かいます。若者はその女性にいつの間にか惹かれていたことに気がつき駅に向かいます。

 

列車に乗ったと思って窓の中を探す若者の傍にその女性がいました。ところが若者は荷物を運ぶ荷車に乗っていて、女性から離れていくのですが、その荷車はUターンして来て映画は終わります。

 

とにかく、あれよあれよとギャグシーンが展開していき、そのどれもが全て計算され尽くした絵作りの中で繰り返される様がひたすら面白い。単純そのものの物語ですが、そのテンポに乗せられてしまいます。これが個性というものですね。面白かった。

 

「ピンク・クラウド

なんとも退屈そのものの映画だった。しかも、適当そのものの脚本というかストーリー展開に、ため息ばかりが出る作品で、たまたまコロナ禍直前に完成し、時代を予見したかのようなテロップだけの話題性のみの映画でした。監督はイウリ・ジェルバーゼ。

 

空にピンクの雲が広がる場面、犬を散歩していた少年が突然倒れて映画は幕を開ける。ヤーゴとジョヴァナのカップルがSEXを楽しんでいる。ハンモックで寝ていると緊急警報のサイレンと共に室内に入るようにとアナウンスが聞こえる。世界中に広がったピンクの雲に触れると10秒で死ぬのだという。

 

室内に避難したヤコブとジョヴァナは、とりあえず生活を始める。窓から食料を配給するシステムができ、まずいながらも生活ができる。ヤコブには、年老いた父がいるが、介護士と一緒に暮らしている。ジョヴァナには娘がいるが、友達の家で避難したままになっている。物語はこれという進展はなく、次第に抑圧された中で、精神的に限界が来る様を淡々と描く。

 

子供を作らないと言っていたジョヴァナだが結局妊娠し、リノと言う息子を産む。しかし、育児の中でヤコブとジョヴァナの間に溝ができ、一階と二階に別居する生活になる。リノは大きくなり二歳くらいになる。ジョヴァナとヤコブは、ネットでSEXしたりし始める。ヤコブの父の家の介護士が死んだと連絡が入る。その父も痴呆が始まる。友達の家に避難しているジョヴァナの娘は友達の父親とSEXすることを考え始める。ジョヴァナの一人暮らしの友達サラは精神的に限界が来る。

 

五年くらい経ったのでしょうか、リノはまた大きくなった。突然、雲が青くなり、微かな希望が生まれるが、しばらくしてまたピンクに戻る。バーチャルゴーグルにはまったジョヴァナは仮想世界に浸るようになる。リノがそんな母親にキレてゴーグルを壊し、我に帰ったジョヴァナはヤコブとまた体を合わせる。そしてみんなが寝入った後、一人ベランダに出てピンクの雲に触れる。カウントダウンし、10秒になる直前で映画は終わる。

 

とにかく、背後の設定があまりにリアリティが無いままで、誰が食料や機械類を作っているのか、医療はどうなっているのか、誰が放送や仮想現実世界を運営しているのか、いくらなんでも適当に流し過ぎています。さらに結局、ヤコブの父やジョヴァナの娘などの成り行きも投げたままで終わる。コロナ禍がなければ見向きもされない駄作だと思います。しんどかった。