くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「フレッシュマン若大将」「二人の恋人」「悪魔が呼んでいる」

「フレッシュマン若大将」

平和そのものの映画、自動車産業成長期のまさに高度経済成長華やかなりし頃の作品で、世の中に暗部などは存在しないかのような世界が充満しています。楽しい映画でした。監督は福田純

 

大学を卒業した主人公田沼が自動車会社の面接に向かうところから映画は幕を開けます。途中節子という女性と知り合い、何かにつけてお互いが惹かれ合うが、入社したばかりの田沼は仕事に翻弄され、いっぽう大学時代の友人石山が取引先の副社長に就任したことで何かにつけドタバタ劇が起こる。映画は田沼の家族のさまざまなエピソードを絡めながら、最後は節子とハッピーエンドで締め括られる。

 

トヨタ、日産という二大自動車メーカーを思わせる思わせる舞台背景の妙味、いかにも能天気な石山のキャラクター、平和そのものに流れるホームドラマ部分など、たわいのない映画ですが、役者がしっかりしているので、チャラチャラ感は全くないというのはさすがです。こういう作品の後、次第に映画は大作、シリアスへと流れて行く。でも映画はこういうのが楽しい。

 

「二人の恋人」

これはなかなか厚みのある佳作でした。物語の核をするりするりとすり抜けるように二転三転していきながら、見事に恋愛劇を収束させる井手俊郎の秀逸な脚本に引き込まれてしまいました。内藤洋子を見合い写真のみで出してみたり、ダントツのヒロインのはずの酒井和歌子を傍へ流して終わらせたり、加山雄三を三枚目にしてしまうなど見事というほかありません。監督は森谷司郎

 

ホームムービーを見ているシーンから映画は幕を開けます。映っているのは加藤悠一と三年前に他界した恋人の美千子が浜で遊ぶ姿。みているのは悠一の弟次郎、美千子の父、姉夏子、弟の徹である。浪人が決まりどちらかと言うとできが悪く遊び回っている次郎は何かにつけ優等生の悠一に嫉妬し、悠一を可愛がっている風な母民子に反抗していたが民子は次郎を昔から信じていた。

 

そんな次郎は、ある時映画館の受付で美千子そっくりな光代と出会う。いつも夏子のアパートに入り浸って自宅に帰らない次郎は早速夏子と徹に報告、雑誌の編集部にいる夏子は光代を雑誌のモデルとしてスカウトすることで悠一に会わせようとする。そして、夏子のアパートで偶然に悠一は光代と出会いあっけに取られる。悠一は光代とデートを重ね始めるが、実は次郎は光代のことを最初から好きだった。

 

ある時、光代から悠一のことは好きではないと告白され、自宅に帰ると拗ねている次郎をみかねて責めてしまう。次郎は家を飛び出し、悠一は行きつけの居酒屋の娘と一夜を過ごしてしまう。

 

朝帰りした悠一の前に次郎が帰っていた。悠一は家を出て夏子の元に向かい、次郎は母と朝食を食べる。そして、次郎は映画館に行き、光代に会う。光代は次郎に微笑む。悠一は夏子の部屋で眠ってしまうが、夏子がそっと口づけをして映画は終わる。上手い、そうとしか語れません。

 

一見甘ったるい恋愛ドラマかと思うのですが、光代と悠一が浜で遊ぶ姿を冒頭と同じショットでホームムービーで見る場面など涙を誘うし、平凡な恋愛劇に終始していかないストーリー構成のうまさも見事です。当時ならいくらでもこのレベルの映画はあったと思いますが、なかなかクオリティの高い作品でした。退色していたのが残念でなりません。

 

「悪魔が呼んでいる」

久しぶりにカルト映画の珍品に出会いました。ホラーサスペンスですが、訳もわからずあれよあれよと物々しい展開が続き、支離滅裂になってどうしようもなくなって唐突にエンディングを迎えるラストはあっけに取られてしまいました。清純派の酒井和歌子を主演に、癖のある俳優を脇に配置し、名優北林谷栄の怪演で締め括る。まあ楽しい一本でした。監督は山本迪夫。

 

主人公江原が会社へ向かう場面から映画は終わる。タイトルバックがいかにもな映像で、いきなり反ポジさせたカットで江原を捉える。会社へ行くと出社時間ベストタイミング。ところが不気味な顔で部長が出迎え、いきなり解雇を言い渡される。訳もわからずアパートに帰ってくると突然退去を言い渡される。帰りがけ受けた出版社の報告をしようと学生時代の友人を喫茶店に呼ぶが、なぜかもう友達ではないと言い渡される。

 

出版社の面接の帰り、社員の浦部に面接は合格したと思うと情報をもらう。ところが、気を良くして新しいバッグを買いアパートに戻ると空き巣に入られ、蓄えを盗まれる。食堂へ入ったら、財布がなくなっていて、飛び出すことになる。しかも、合格が確約されていた会社からは不合格のハガキが届く。

 

何が何かわからず、仕方なくクラブに勤めようとするが、そこで好色の爺さんに財布をすられたと疑われ首になる。どうしようもなくなった江原は電車に飛び込もうとするがすんでのところで思いとどまる。そこへ一人の男が現れ親切に介抱してくれるがアパートまでついてきて、結婚が決まっているからと江原を襲ってくる。

 

翌朝、江原が目覚めるとその男は死んでいた。慌ててアパートを逃げ出すとそこに浦部が現れ事情を聞いてくれる。浦部が江原を公園に残し、アパートを調べに行った間に江原に近づいてきたヤクザ風の男たちにむりやり車に乗せられ、怪しいダンスホールへ、そこで見ず知らずの男から結婚が決まったと言われ、そこへ、クラブにいた好色の爺さんが片桐伯爵だと名乗って現れる。

 

しかし、ヤクザ風の男が再度江原を拉致して結婚を迫った若者のアパートへ行くと片桐が待ち伏せている。どうやら、江原には莫大な遺産が相続されることが決まったらしく、片桐らはその親戚筋らしい。しかも江原にとっては見ず知らずの爺さんからの遺産だとわかる。

 

その場をなんとか逃げ出した江原は、浦部に拾われ、とある大富豪の山荘へ行こうと言う。そこには志乃という婆さんがいて、彼女が遺産の遺言書を渡してくれるのだという。旅行社に勤めていた江原がたまたまその大富豪の目に留まり、縁もゆかりもない江原に遺産を残すという酔狂を考え出したのだ。

 

江原と浦部が山荘に着くと、既に大富豪は死んでいて、志乃は二人に紅茶を用意するがそこへ片桐らが現れる。片桐が江原に出された紅茶を飲むと毒が入っていてその場で死んでしまう。そして志乃は自分の思いを語り始める。彼女は籍は入っていないが大富豪の妻だった。大富豪は志乃を女奴隷のように扱い、結局遺産も残さず死んだのだという。志乃は江原も殺し遺産を手にしようとしていたのだ。

 

とまあ流れはこんな話なのですが、とにかく二転三転なんでもありのように流れて行く。結局、不気味な志乃の独り言の場面の後、江原と浦部は山荘を出たところで映画は終わる。え?という感じである。

 

まさにカルト映画、珍品と言える一本でした、結局なんの幕切も見えずに映画が終わるのです。いかにも不気味な人たちがいかにも不気味に次々と出てきて、結局遺産争いかい!という流れに唖然とする。面白いといえば面白い、そんな奇妙な作品でした。