くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「最悪な子どもたち」「ロー・タイド」

「最悪な子どもたち」

オーディションで選んだ子供達をそのままに映画を撮影していくというフィクションの中で描いていく作品ですが、カットとカメラの編集で巧みにリズムを生み出していく手腕は見事。問題児たちという前提から綺麗事に発展するありきたりな作劇ではなく、辛辣な視点はそのままに、微妙な心の葛藤を背後に忍ばせて、ラストはささやかな感情の解放と、甘酸っぱい青春の瞬間を描きだして終わらせる脚本が実にうまい。面白い作品でした。監督はリーズ・アコカとロマーヌ・ゲレ。

 

フランス北部の荒れた地区で、地元の子供達を映画の撮影に使おうと面接している場面から映画は幕を開ける。男性との噂が絶えず、ビッチと呼ばれるリリ、怒りをコントロールできないライアン、心を閉ざしたマイリス、出所したばかりのジェシー、彼ら四人を中心に、監督のガブリエルはそれぞれの感情をコントロールしながら、時に自身も感情的になって撮影を続けていく。

 

彼らの周辺の人たちからの蔑みや揶揄をストレートに描く一方で淡々と撮影は続き、スタッフとキャストとの確執さえもコントロールして撮影はクライマックスの四千羽の鳩を離す場面に続く。そして、ホテルでの打ち上げのようなパーティシーンから、映画上でのリリとライアンの姉弟の心の交わりを描くシーンで撮影は幕を閉じる。撮影後、リリはガブリエルに愛を告白してしまうが、真摯に断られ、涙に咽びながらの姿で映画は終わる。

 

劇中劇のスタイルで展開する中に、登場人物の背景を巧みに取り入れ、それが撮影隊とのすれ違いを重ねながら、問題児たちの素直な姿で幕を閉じていくあたりの作劇が実に面白い。エンドクレジットにラッパーを被せ、現代的な空気感と映画撮影というフィクションを重ねたのもいい。なかなかの映画だった。

 

「ロー・タイド」

A24特集の一本。社会的なテーマを盛り込んだゆえに暗さが目立つものの、光を巧みに使った絵作りと、交錯するサスペンスの組み立てが面白い作品で、もうちょっと爽やかなドラマ部分も描けば傑作になったかもしれない佳作だった。監督はケビン・マクマリン

 

一軒の家に四人の若者が忍び込むところから映画は幕を開ける。ニュージャージーの海岸沿いの街、高校生のアラン、友人のレッド、スミッティは別荘に侵入しては盗みを働いていて、この日も一軒に侵入していた。ところが、住民が戻ってくるのに出会してしまい、彼らは必死で脱出、その際スミッティは屋上から飛び降りて足を怪我してしまう。

 

アランの家に集まった彼らはこの日の盗品を品定めしていた。アランの弟のピーターはそんなアランたちを羨ましげに見ていた。アランは、夜の遊園地でメアリーという女の子に惹かれ、声をかけて付き合い始める。アランたちが次に選んだ別荘は、先日亡くなった地元の富豪の家だった。スミッティが怪我で参加できないため見張りにピーターを連れていくことにする。

 

ボートで対岸の別荘に渡ったアランたちは目的の邸宅に入るがめぼしいものが見当たらない。レッドはピストルを見つけるがそれは自分のものにする。二階に上がったアランは帰り際に廊下の床の下に何か見つけ、ピーターの手を借りてそれを取り上げると金貨の入った袋だった。ところが、突然警察が踏み込んでくる。一人自宅にいたスミッティのところに地元保安官が、先日の盗品を持ってやって来たシーンが重ねられる。スミッティが警察に話したかの描写である。

 

アランは自ら囮になってピーターを逃すが、ボートのところに逃げて来たピーターをレッドは置き去りにしてボートで逃げてしまう。アランは警察に捕まるが、ピーターは一晩森で過ごしてから帰る。その際、持っていた金貨を森の中に隠す。ピーターはアランに金貨のことを話し、隠した場所を教える。そして一枚だけ地元の質屋に持っていくと千ドルだと言われる。ピーターは、金貨を全て換金するのは夏が終わってからの方がいいというが、アランは金貨を埋め直す際、何枚か隠して持ち帰る。そして欲しかった車を買う。

 

アランはその車でメアリーとデートして親しくなって行くが、先日の侵入が警察にばれていたことに疑いを持っていたレッドとスミッティはメアリーを疑い始める。ある日、いつものようにアランの家に遊びに来たスミッティはダクトの中に、一枚の金貨とその隠し場所の地図を発見して帰って来たアランとピーターに詰め寄る。そしてレッドに黙る代わりに自分も半分分前が欲しいという。

 

アランたちはスミッティの提案を飲むが、そこへレッドがやってくる。レッドは、それぞれの潔白を証明しようと最後の仕事にある家への侵入を計画する。ところがアランとピーターが忍び込んだところはメアリーの家だった。しかもレッドは警察に連絡してアランとピーター、スミッティは逮捕されてしまう。

 

ピーターは質屋の主人に保釈金を出してもらい、スミッティは保安官に金貨の隠し場所に案内するからと森に連れ出す。ピーターが書いた地図は足のギブスに転写してあったのだ。しかし、地図の場所に行っても金貨はなかった。ピーターは、最後の仕事の前に金貨を掘り出して錨を目印に海岸に埋めていた。メアリーの家からの告訴が取り下げられアランも自由になる。

 

ピーターは金貨の隠し場所に行く。そこへアランもやってくる。満ち潮になる前に掘り出そうと二人は金貨を掘り上げるがそこへレッドがピストルを持ってやってくる。そして横取りしようとするが、アランは掘っていた櫂でレッドを殴り倒す。その際発砲されピーターは倒れる。レッドは狂ったようにアランに襲い掛かり海に沈めようとするが、気がついたピーターがレッドを撃つ。その頃、対岸では花火が上がっていて、保安官やメアリーたちが楽しんでいた。アランとピーターはレッドの遺体を海に沈めて映画は終わる。

 

サスペンスの面白さのみで突っ走れば相当な作品になったかもしれないが、どこか背後にあるどうしようもない境遇の若者たちの悲哀が見え隠れして作品全体が暗くなってしまった。これも作劇のやり方だと割り切れば奥の深い作品だったと言えるかもしれません。一級品にはわずかに及ばないものの、面白い作品でした。