くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「シャドウプレイ」(完全版)「あつい胸さわぎ」

「シャドウプレイ」

めちゃくちゃに面白い映画だった。全盛期の香港ノワールのようなストーリー展開で、ラストは鮮やかに真相を明かしてくれる。細かいカット割と突然挿入される過去映像のフラッシュバックを繰り返すので、最初は映像に翻弄されてしまいますが、ストーリーテリングが上手いので、ところどころに説明的なエピソードを挿入して観客を離さない。ラストのラストまで目を離せない緻密なサスペンスの組み立ても見事。まさしく傑作クライムサスペンスの一本でした。監督はロウ・イエ

 

森の中、一組のカップルがいちゃつきながらやがてSEXを始めるが、興が乗ったところで女性が地面に死体らしきものを見つけて絶叫、時は2006年。場面が変わると、広州、カメラが俯瞰からカットを繰り返して、荒れた町の一角のバスケットコートで遊ぶ若者たちに迫る。若者たちは、手に手に棒をとって走りだす。行き先では、都市再開発で強行的に取り壊しをする業者側と住民たちの争いになっていた。時は2013年。開発を進める不動産会社の看板が落とされた、駆けつけた開発主任のタンは必死で鎮圧の声を上げるが治らない。警察が駆けつけ、ヤン刑事らも対処し始める。

 

屋上に上がったタンの秘書ワンは、屋上から見下ろしてタンが落ちて死んでいるのを発見する。事故か他殺かわからない中、ヤン刑事は捜査を開始する。不動産会社の社長ジャン、共同経営者アユン、タンの妻リンらが捜査線上にあがってくる。その中で、アユンの失踪事件が浮かび上がって来る。タンが墜落した現場から立ち去った謎の女性はアユンだったとワンが証言するのだが、まもなくして、2006年に失踪した女性はアユンだと判明する。そして物語はジャン、タン、リンが知り合った1989年にあると見えて来る。

 

ヤンはリンを捜査する中、つい体を合わせてしまいスキャンダルがでっち上げられ免職になってしまう。しかも情報を得ようとしていたワンも目の前で殺され自分が殺人犯であるかのような疑いをかけられる。ヤンは父のかつての友人で香港で探偵をしているアレックスを訪ね、ワンのビデオテープを分析して欲しいと依頼する。

 

捜査する中、ジャン、タン、リン、アユンは汚職に手を染め、その結果ジャンの不動産会社は事業を拡大して来たのが判明する。一方タンはリンと結婚する。しかしリンはジャンの愛人でもあった。タンは家ではDVを繰り返す夫で、リンは恐怖を感じていたのだ。

 

アユンはタンに執拗に迫られたことから、彼らの汚職を公表するとジャンを脅す。危険を感じたジャンはリンに連絡、リンはアユンを車に乗せて説得しようとするが、車内で暴れられ、ついハサミで刺し、そのまま車は事故を起こしてアユンは死んでしまう。そんな頃、自分の本当の父親がジャンだと知ったリンの娘のヌオはリンに真実を迫る。

 

ヤンはジャンを追い詰め、遂に確保、リンも娘に責められたこともあり、夫タンの殺害を自供して自首する。しかし精神疾患のあったリンは自殺未遂を起こし警察に確保される。

 

事件が解決、ヤンはアレックスの探偵事務所にいた。この日夫の浮気調査の依頼があり、持ち込まれたビデオテープを見ていたヤンは、そこに、ジャンとリンが密会している場面を発見、しかもそれはタンが墜落死した時間だった。リンは犯人ではなかった。まもなくして、以前ワンから手に入れたビデオテープの解析がすみアレックスのところに戻って来る。事件は解決したしというアレックスからそのテープを見直したヤンは、タンの墜落現場から立ち去る女性は、変装したヌオだと判明する。ヌオこそが真犯人だった。

 

映画はここから、2013年の暴動の日に至るまでに起こった一部始終が描かれて行く。アユンを車に乗せたリンは事故を起こし、アユンを殺してしまった。そこへジャンが駆けつける。ぞの直前、ヌオがジャンとリンの娘だと知ったタンとリンは喧嘩をしていた。駆けつけたジャンはアユンの死体に油をかけて焼こうとするが、なんとまだアユンは生きていて火だるまのまま暴れ出す。慌ててジャンが殴り殺すがその一部始終を暗闇からタンが見ていた。そして暴動の日、タンに暴力を振るわれ兼ねてから恨んでいたヌオはカツラと服を持って暴動の現場に向かおうとしていた。タンが暴動現場に駆けつけたというニュースを聞いたからだ。

 

暴動現場の場面が再度描かれ、屋上から声をかけようとタンは秘書のワンと廃墟ビルの屋上を目指す。屋上に上がったタンが下を見下ろした直後、飛び込んできたヌオがタンを突き落とす。そして階段を駆け降りるが、その際ワンの携帯が動画を撮影していた。ワンが屋上に上がり下を見下ろすとタンが死んでいた。これが真相だった。

 

ヤンは、ヌオを尾行していた。そして、ヌオは逮捕された、ジャンらの汚職も明らかになり不動産会社は破産となったというテロップの中映画は終わる。

 

とにかく、カメラワークが抜群に素晴らしいし、細かいカット割で繋いでいくストーリー展開と、巧みに過去と現代を繰り返す編集が秀逸で、まさに傑作クライムサスペンスと呼べる一本でした。本当に面白かった。

 

「あつい胸さわぎ」

予想以上に良かった。終盤はなぜか涙が出て来るほど胸に迫って来る何かを感じてしまいました。脚本がいいのでしょう、それぞれの登場人物がイキイキしているし、物語はとっても心地よい厚みを持っていて、それでいて爽やかな空気感も漂っている。こういう佳作は見逃してはいけない映画だと思います。監督はまつむらしんご。

 

夏休み前、朝、主人公千夏がTシャツを探している場面から映画は幕を開ける。千夏は昭子と二人暮らしで、父は幼い頃に亡くなり昭子が一人で千夏を育てた。千夏は少し離れたところにある芸大に通い、小説家を目指していた。昭子には職場の同僚の透子という親友がいて、千夏も親しくしていた。千夏はある時大学で幼馴染の光輝と出会う。千夏は密かに光輝のことを気にかけ始めていた。

 

昭子の職場に新しい係長木村が赴任して来る。社員と親しくなろうと健気に振る舞う木村の姿に、いつの間にか昭子も心地よい気持ちを持ち始めていた。千夏たちのアパートには発達障害の崇がいて、彼ともいつも千夏は仲良くしていた。たまたま千夏の部屋を掃除していた昭子は、大学の検診で、精密検査必要という通知を見つける。それは乳がん検査のものだった。

 

千夏と昭子は気楽に精密検査に行くが、そこで早期の乳がんと診断される。昭子は、母親として色々しないと張り切り始めるがそんな母を疎ましく思う千夏だった。昭子は、親しくなってきた木村に娘のことを相談し、透子も心配して千夏と話したりする。千夏は、気にしないつもりながら、次第に自分の心の中に不安が大きくなって行くのを感じていた。

 

木村が配ったチケットでサーカスに行ったあと、透子のことが気に入った光輝は、透子と付き合うようになる。やがて体を合わすようになるが、千夏が光輝の事を気にしているのを知った透子は、光輝に遊びだったと告げ、別れる。ところがその現場を千夏に見られてしまう。さらに、昭子は次第に木村に惹かれていたが、千夏らを連れてズワイガニを食べに行った帰り、木村に、自分には前の職場で思いを寄せている女性がいると言われてしまう。そんなこととは知らず、千夏は昭子に悪態をついて家を飛び出してしまう。昭子は途方に暮れるが、崇の母麻美が一緒に探してくれる。実は以前サーカスの面接を断られた崇のことを麻美がサーカスでくってかかっていたのを昭子が助けたのだ。

 

透子は千夏を見つけ、車に乗せ、光輝とのことなどを告白する。家に戻った千夏は昭子に迎えられる。いつの間にか大人になっていたと気がついた昭子は、千夏の胸を触ってやる。この場面に胸が熱くなります。やがて夏休みが終わり、光輝は、元の下宿に帰って行く。帰り際、夏休みの宿題だった小説が完成したと千夏は告げる。それは光輝へのラブレターだった。こうして、それぞれがそれなりに成長して、次の人生に踏み出していって映画は終わる。

 

関西弁を駆使したセリフの応酬が耳に心地いい上に、それぞれの親子関係、友人関係などがとっても普通にいい感じでお話が展開して行く。崇の存在も物語にスパイスになっているし、ティッシュを配りながら、おっぱいのアンケートと作って千春に渡すくだりなど涙が出ます。小さなエピソードが胸に沁みて来る一本で、こういう隠れた佳作はぜひちゃんと見てほしいと思いました。