くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「軍旗はためく下に」「最後まで行く」(日本版)

「軍旗はためく下に」

偏った部分もないわけではないけれども、相当な反戦映画の傑作です。見ているうちにどんどん画面に引き込まれ、戦争の悲劇が直接心に突き刺さって、真っ直ぐに目を向けられないほどに打ちのめされていきます。モノクロの静止写真を巧みに盛り込んだ映像と、斜めの構図を効果的に配置した絵作りが見事。証言を追い求めていく順当な展開から、再度冒頭の人物に巡り戻る巧みな新藤兼人参加の脚本も秀逸。キネ旬ベストテン二位は十分に頷ける映画でした。監督は深作欣二

 

昭和二十七年、戦没者遺族援護法が制定され、厚生省により遺族年金が支給され始めるが、冨樫サキエの夫勝男は逃亡兵として処刑されたとして、対象から外れていた。サキエは、明確な証拠もないのに逃亡兵扱いされた夫の無念を晴らすべく、毎年の終戦記念日に役所へ出向いていた。

 

しかし、二十年経った今も、サキエの不服願いは却下されていた。この日も役所にやってきたサキエは夫の真実を調べてもらうように訴えていた。対応した新任の課長は、冨樫勝男が所属していた部隊の関係者に問い合わせの手紙を送り、返事をもらっていたが、どれも冨樫に有利なものではなかった。手紙を送った中で四人だけ返事がないので、直接聞いてみてはどうかという提案で、サキエは四人に順番に会うことになる。

 

最初に会った寺田は冨樫軍曹は英雄だったと答える。次に会った秋葉は戦地での悲惨な状況を話す。三番目に会った越智は、人肉を食っていた現実を告白する。最後に教師をしている大橋に会い、冨樫軍曹は上官殺害の罪で銃殺されたと話す。そしてその経緯を聞くに及び、上官銃殺の真実を分隊長に告げ口したのは寺田であり、銃殺を執行した憲兵は越智だったと話す。

 

様々な証言を聞くに及んでサキエに見えてきたのは戦場の想像もつかない悲惨な実態だった。こうしてサキエは亡夫勝男がたどったであろう激烈な戦争の道を知るに及んで、言葉にならない衝撃に打ちのめされるのだった。こうして映画は終わる。

 

圧倒的な映像世界に、生半可な人間ドラマを超越した戦争の悲劇を目の当たりにしていきます。その衝撃を肌身で感じるような迫力に圧倒されて映画を見終わる。確かに傑作ですが、直視できない恐ろしさを心に残してしまう。そんな映画でした。

 

「最後まで行く」

韓国版オリジナルよりも映像としてのクオリティは格段に上がったが、オリジナル版がすっ飛ばしていった部分の辻褄を合わせてリアリティを持たせた分、かえってダラダラしてしまった気がします。特にラストは完全に間延びしてしまった。面白くないとは言いませんが、オリジナルの欠点をカバーできない脚本になった感じです。監督は藤井道人

 

12月29日、雨の中、刑事課の工藤が車を飛ばしている。母が危篤で死に目に遭うために向かっている。携帯が鳴り、妻からの催促、さらに署からは、仙葉組からの裏金のことが週刊誌にリークされ、監察官から調査が入ると連絡が来る。イラつく工藤の前に一人の女が飛び出し、なんとか避けたものの、続いて男が飛び出してきて撥ねてしまう。狼狽える工藤に、パトカーが近づいてくる。工藤は死体を道路脇に隠し、パトカーが通り過ぎてからトランクに遺体を乗せて走り去る。ここまではオリジナルとほぼ同じオープニングである。

 

途中、検問に引っかかり、右往左往していると、遺体にある携帯が鳴ってしまう。その場を取り繕うが、トランクを開けろと迫る警官と揉み合いになる。そこへ後ろから一台の車が近づき、男が降りてくる。監察官の矢崎だと名乗るその男は、工藤を助けてやり、後で署に戻ってこいと告げる。

 

工藤は難を逃れ、母の元へ行くがすでに亡くなっていた。葬儀の準備で遺体は葬儀社の安置所へ移される。工藤は一旦車の遺体をダストに隠したが、それが安置所に通じていることを発見、母の遺体とともに焼いてしまおうと計画する。工藤は安置所に泊まることにし、深夜遺体を母の棺に入れてしまう。ところが、工藤に、轢き逃げの現場を見たという男から連絡が入る。工藤が有耶無耶に話していると。突然車の前に矢崎が現れる。脅して来たのは矢崎だった。

 

工藤が葬式をする予定の寺院は政治家など有力者がマネーローンダリングに利用している寺で、莫大な金が寺の隠し金庫にあるのだという。矢崎は警察本部長の娘と結婚したばかりだが本部長はその裏金にも関わっていて、矢崎を利用していた。年明けにその金を政治家に還元する必要があったが、実は金庫の番を任せている尾田という男が金庫のキーを持ち逃げしたのだという。

 

尾田はまんまと矢崎の指紋を手に入れ、金庫を開けられるようにしたらしく、時間が迫っていた。そして尾田を追い詰めた矢崎は尾田に銃を向けたが、尾田は必死で逃げ、撃たれた直後に道に飛び出し、工藤に轢かれたのだ。

 

轢き逃げ事件の車が工藤のものと知った同僚の久我山が工藤のところにやってくる。工藤は久我山に事情を話し、遺体を尾田の女のいる廃工場へ持っていく。そして、金庫のキーを尾田の体から取る。これからどうするかを工藤は尾田と車で話すが、工藤に矢崎から電話が入る。言われるままに外に出た工藤だが、巨大な物が落ちて来て車を押し潰し久我山は死んでしまう。この辺りの流れもオリジナルと同じである。矢崎は工藤の娘を誘拐して工藤を操ろうと計画、遺体を持ってくるように要求する。

 

工藤は仙葉組の組長から手製の時限爆弾を手に入れ、それを遺体に仕掛けて、矢崎と交渉をする。そして、娘を取り返し、遺体を積んだ矢崎の車は爆発して川に落ちてしまう。工藤は尾田の体から切り落とした指とカードキーで、墓地の奥にある隠し金庫を開ける。中には膨大な金が保管してあった。

 

そこへ、死んだと思った矢崎が現れ、大乱闘になる。そして矢崎を倒した工藤に何者かがスタンガンを当てる。仙葉組長だった。裏金の件をリークしたのも仙葉だった。そして金を横取りして去っていく。工藤は瀕死で車に乗り、妻にもう一度やり直そうと電話をする。そこへ矢崎の車が突っ込む。そして二人でカーチェイスしながら道路を走り去って映画は終わる。

 

終盤の無理やり感が相当に映画をだらけさせた気がしますが、映像のクオリティはなかなか見事でした。でもオリジナルの焼き直しにしては普通だった気がします。