くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「山女」「小説家の映画」

「山女」

びっくりすりほどではないけれども、なかなかの仕上がりの作品でした。前半の暗さを次第に払拭していく後半の構成がうまい。神話の物語の中に潜む古き因習にとらわれる人々の苦悩が真面目に描かれている演出も好感でした。監督は福永壮志。

 

18世紀後半、東北の山村の村、飢饉が二年続いているというテロップの後、一人女が今にも赤ん坊を産み落とそうとしている場面から映画は始まる。そして赤ん坊の鳴き声がするが、一人の男がその赤ん坊を包んで殺してしまう。門口に凛という娘が現れ、その赤ん坊を引き取って山に捨てにいく。この汚れ仕事を凛がしているのは、父の伊兵衛の曽祖父が火事か何かの咎で村では蔑まれて、田畑も取り上げられていたためだった。

 

凛が家に帰ると障害のあるような弟と父の三人暮らしで、村長から配給される米さえも他の村人と差があり、瀕死の状態だった。ある朝、村長たちが押しかけ、米が盗まれたという。伊兵衛が疑われるが、凛が自分がやったと叫ぶ。翌日、凛は伊兵衛らに別れを告げて一人早池峯山へ入っていく。自ら死ぬつもりだったが、そこで白髪の山男と出会う。山男に食べ物をもらい、凛は山男の世話を始める。

 

その頃、村では、凛は神隠しにあったとされる。村の窮乏も限界になってきた村長らは巫女の婆に相談をしにいく。婆は、生贄の生娘を差し出せば陽の光が戻ると予言するが生娘の目処が立たない。村長の娘春がいたが、春は、村で作った草履などを売りにいく泰蔵の嫁にと村長は考えていた。しかし泰蔵は密かに凛を慕っていた。

 

ある夜、山で野宿をしていた泰蔵は、山女を見かけたという噂を聞く。てっきり凛だと思った泰蔵は村長に頼んでマタギを連れて山に入る。そして、山男と暮らす凛を見つける。泰蔵たちが強引に凛を連れて行こうとすると、山男が襲ってくる。銃を向けたマタギたちに立ちはだかって凛を守った山男はその場で絶命、凛は村に連れ戻され柵に入れられる。

 

村長らは凛を生贄にするつもりだった。泰蔵は騙されたと気がつくがすでに遅く、凛も覚悟を決めていた。泰蔵は春と夫婦になる決心をする。伊兵衛は、凛を差し出す代わりに、これまで蔑まれていた全てを白紙にし、田畑も返してもらう約束をする。

 

深夜、凛の前に白髪の山男が馬の姿となって現れる。翌朝、凛は火炙りにされるべく大木に縛られ、火を放たれるが、しばらくして空が曇り大雨が降り、稲妻が大木を破壊して凛は助かる。凛は立ち上がって、手を合わせる村人たちの前を通って彼方に歩き去って映画は終わる。

 

画面が非常に暗いので、前半はさすがにしんどいが、後編にかけて、次第に物語が静かに動き始めると、画面に引き寄せられていきます。大傑作とは言わないまでも、なかなか良い映画でした。

 

「小説家の映画」

面白い映画なのですが、いかんせん、今回は前半の会話シーンが妙に長々と感じた。繰り返される同じセリフの数々と、間に挟まれる社交辞令の間、これらがわざとではあるものの、次第に不快感さえ感じ始めてしまう。後半は一気に面白さが出てきてラストシーンまで行くのですが、見終わって、結局、勢いで走ってしまったスランプのかつての人気作家と、仕事も来なくなったかつての名女優の人生の晩年という感じのややブラックな映画でした。監督はホン・サンス

 

かつて人気作家だったが今は本を書いていないジュニが本屋をしている後輩を久しぶりに訪ねてくる。ところがその後輩は何やら店員だろうかに怒鳴っていて、ジュニは店の外に出る。しばらくして後輩が出てきて、さらに手伝いに来ているという近所の娘もやってくる。三人でしばらく店内で話し、娘は手話をしているからとジュニに手話を教えたりする。ジュニは散歩したいからと近くの有名なタワーへ送ってもらう。

 

タワーの展望台にいると、映画監督のパクの奥さんが声をかけてきて、パクと一緒に公園にやってくると、有名な女優で、今はスクリーンにも出ていないギルスと出会う。ジュニも含めて立ち話をしていて、ジュニはギルスを迎えて映画を撮ろうかと言い出す。ギルスの夫も出演してくれるならというジュニにギルスも、わからないけれど聞いてみると答える。

 

ジュニがついパクの言葉に異論を唱えて声を荒げたので、パクらはそそくさと帰ってしまう。ジュニとギルスは近くのカフェで食事をしていると、ギルスの慕っている先輩から電話がきて、予定していた客が来られなくなり来て欲しいという。ジュニも一緒に行くことになり向かうと、なんとジュニの後輩の本屋だった。そこにはジュニの先輩で若い頃一緒に飲み歩いた詩人の男もいた。

 

ジュニ、ギルス、詩人、後輩、近所の娘らでしこたま酒を飲み、ジュニの映画の話もそこそこに盛り上がっていく。そして、映画は完成し、この日、ジュニの従兄弟の知り合いの映画館で上映。ギルスが一人でスクリーンを見つめる中、ジュニらは映画館の屋上でタバコを吸うことに。映画は途中からカラーになって終わっていく。なんとも奇妙な映画だとジュニの従姉妹も感想を漏らし、ギルスも奇妙な感覚で見終わる。そして屋上で待つジュニの元へ向かって暗転、映画は終わる。

 

結局、社交辞令の応酬の中で、勢いで映画を作る羽目になり、作ってしまったものの、所詮素人映画で、なんの意味もないまま、それぞれが一抹の後悔と苦笑いを感じてしまうという、なんともにんまりさせる人生の一ページという作品でした。