「シカゴ」
いい映画です。好みのタイプのミュージカル演出ではないけれど、ステージとリアルな現実を重ね合わせて一体として描いていく映像の面白さは絶品で、やはり名作と言える映画でした。物語が実にシンプルなので、それがさらにミュージカルシーンを際立たせた感じですが、オリジナルのボブ・フォッシー色が前半に際立ったのもプラスになっていました。監督はロブ・マーシャル。
目のアップからシカゴのロゴタイトル、そしてクラブで人気の歌手ヴェルマのステージへとカメラが進んで行って映画は始まる。ところが出演時間にぎりぎり間に合って飛び込んでくるヴェルマ、それでも客席は大歓声、それを陰から憧れて見つめるロキシー。彼女はフレッドという男がマネージャーと懇意だから口を聞いてやると近づいてきてロキシーと不倫関係にあった。しかしそれが嘘だとわかったロキシーは感情に任せてフレッドを撃ち殺す。そして捕まるが最初は夫エイモスが庇ってくる。しかしそれがバレ、ロキシーは収監される。
ロキシーは刑務所で、同じく妹に恋人を取られて人殺しをして捕まったヴェルマと出会う。彼女は女監房の管理人モートンを金で取り込んで、敏腕弁護士ビリーを雇って無罪を勝ちとろうとしていた。ロキシーはモートンに頼んでビリーと接触できるようにし、エイモスが金を工面してビリーにロキシーの弁護を依頼する。
ビリーはヴェルマを担当し、ヴェルマの裁判は新聞に話題になっていたが、ロキシーに力を傾け始めたために、次第にロキシーの話題が大きくなって形勢が逆転していく。そんなロキシーを快く思わないヴェルマだが、話題になることを目的にしているロキシーはヴェルマにも冷たかった。ところが、新たに金持ちの女が収監されてきてビリーの心が傾きかけたのを見たロキシーは、わざと失神し妊娠していると嘘を言う。
ビリーはそんなロキシーに再度心が動き、さまざまな手を使って話題を広げていく。そして、裁判となり、ロキシーは見事に無罪となるが、どれもこれもビリーが仕掛けた作戦が功を奏したものだった。そして、判決で無罪を勝ち取った日、別の事件が起こり、結局マスコミはロキシーのことはそっちのけになってしまう。
話題になってステージに出るという段取りが狂ったロキシーは場末のカフェのオーディションを受けるも気に求めてもらえない。そこへ同じくおちぶれたヴェルマが現れる。ヴェルマは、人殺しが一人なら平凡だが二人なら話題になるとコンビで歌うことを提案、そして二人は一躍人気者になりステージで絶唱する場面で映画は終わる。
刑務所がステージに変わったり、普通の衣装がドレスになったりと、リアルの物語とステージシーンの交錯を繰り返す演出が見事で、まさに映画の醍醐味と言えます。テンポよく流れるシンプルなストーリーでダンスシーンを邪魔しない脚本も見事。オリジナリティのあるミュージカル映画の名作でした。
「ノイズ」
これは面白かった。久しぶりの日本映画の傑作サスペンスでした。クラシックで効果的に雰囲気作りにして、コミカルな中にシリアスさを盛り込んだ演出が最高です。犯人探しよりも人間ドラマ、土着思考の不気味さも交えて、層の厚い物語を堪能しました。監督は廣木隆一。
交響曲田園が流れる中、女の子の日記を読むような台詞から映画は幕を開ける。フェリーから出てきた一台の車に保護司の鈴木が小御坂を猪狩島の農家で働かせるために連れてきた。しかし、小御坂は背後から鈴木を締め殺してしまう。
愛知県の猪狩島、地元のいちじく農家を営む泉圭太は、黒いちじくと言う特産品を作り、島の人からも島の復興に期待を寄せていた。圭太は妻の加奈、娘の恵里奈と幸せな生活を営んでいる。この日、親友で猟師の田辺純と作業をしていた。その帰り、怪しい青年小御坂を見かける。純と圭太にはもう一人親友で、警察官になった守屋もいた。守屋はこの日前任者岡崎から島の駐在を任されることになったが、岡崎を港へ送る途中で、猪を撥ねてしまった庄吉老人の車と出くわす。本部へ報告しようとする守屋に岡崎は、あえて隠して、島の住民を守ってやるのも警察官の仕事だと諭し、死んだ猪を車に乗せ、純のところへ運ぶように言う。純は猪をとりあえず冷蔵庫に保管する。ここまでの舞台設定描写が実に上手い。
仕事を終えた圭太が家に帰ってくると恵里奈の姿がなく、さっき見た怪しい青年の持ち物らしいものが落ちていたので、純らにも連絡を取り必死で探す。そして、圭太はビニールハウスで青年を発見、連絡を受けた純や守屋も駆けつけるが、圭太と揉み合いになった時に青年は後頭部を地面に打ち付けて死んでしまう。恵里奈は庄吉老人のところで遊んでいただけだった。何もかも終わったと嘆く圭太に、純は隠してしまおうと提案する。そして、死体を純の冷蔵庫に隠す。
保護司の鈴木が行方不明となったという連絡で、元幼女誘拐犯の小御坂を追う刑事の畠山は、小御坂のアパートで猪狩島のパンフレットを見つけ、渡辺が小御坂を猪狩島へ連れて行ったと判断し、猪狩島へ向かう。そんな頃、猪狩島の村長は黒いちじくが話題になり、政府の補助金五億円が支給されると言うことになって意気が上がっていた。しかし何かにつけて部下に厳しい態度で部下はそんな村長を疎んじていた。
やがて畠山が島にやってきて捜査が始まる。そして間も無く渡辺の死体も見つかり、島に捜査本部をおいての大々的な捜査が始まる。畠山は、あまりにも自然な態度すぎる圭太や純を怪しみ始める。さらに、守屋にも疑念を持ち始める。圭太たちは小御坂の死体を古い防空壕の地下へ埋めてしまおうと計画するが、庄吉老人に怪しまれ、突然純の作業場に村長が現れる。そして、村長は圭太はこの島のために必要だから、純や守屋に犯人になるように言う。そして帰ろうとしたところ、庄吉老人が襲い掛かり村長を鉈で殺そうとするが、村長が護身用に持っていたスタンガンを庄吉老人にあてたので庄吉老人も心臓麻痺を起こして死んでしまう。圭太たちは村の医師を巻き込み、さらに庄吉老人の息子夫婦も巻き込むこととなる。
やがて、海から村長の遺体が発見され、畠山は、圭太たちへの疑念がどんどんエスカレート、そして、小御坂が死んでいることも確信した上で、純の作業場の冷蔵庫にあると判断して冷蔵庫に向かう。それまで、なんとか誤魔化してきた守屋だが、ここにきて限界がきて、自分が殺したと言う自白の動画を残して自殺してしまう。畠山が冷蔵庫についてみたら、既に死体はなく猪の死体だけだった。実は、その直前、純と圭太は、死体を圭太のいちじく畑に隠すのが一番だと死体を持ち出していた。
守屋の自殺で、村人たちは畠山に対する敵意が剥き出しになる。そんな時、死体はいちじく畑に埋められていると言う一斉メールが届く。畠山らが掘り起こしに行くが見つからない。しかし最後の最後、いちじくの苗を養苗するビニールハウスの地下だと気がついた畠山はビニールハウスで、ついに小御坂に死体を発見、圭太は全て自分がやったと自白する。
圭太は逮捕され、農園は純が加奈を手伝って運営を続ける。守屋の墓参りに来た純はそこで畠山に声をかけられる。実は純は昔から加奈のことが好きで、何もかもうまく行っている圭太を羨んでいたのだ。そして、村長が死んだ時、村長の携帯を隠して、そこから一斉メールで、死体のありかを流したのは純だった。そのことを畠山は見抜いていた。圭太もまた、加奈のことが好きだった純の気持ちも察していた。刑務所で、警官に連れていかれる圭太が冒頭の女の子恵里奈の言葉をつぶやいて映画は終わる。
ドラマ展開の面白さ、クラシックを使ったムード作り、コミカルな反面、非常に奥の深い人間ドラマで描くストーリー、どれもこれも最高に見事でした。難を言うと、逮捕されてのちのエピローグが、ちょっとしつこく長かった気がします。