くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「探偵マリコの生涯で一番悲惨な日」「マルセル 靴をはいた小さな貝」

「探偵マリコの生涯で一番悲惨な日」

面白い映画なのですが、なんだか後一歩魅力に欠ける仕上がりだった気がします。二人の監督がそれぞれ三つのエピソードを撮って、一つの長編にまとめるという手法で描く新宿歌舞伎町の雑多な群像劇なのですが、終盤にかけてそれぞれが絡んでいく面白さと主人公マリコを含め個性的な脇役の面白さが盛り上がってこない。後ひと工夫と時間をかければよかったのかどうか、ちょっと残念。監督は内田英治、片山慎三。

 

新宿歌舞伎町、酔っ払って路上で寝ている男のアップから映画は幕を開ける。一組の男と女がバスケットを見つけて近づくと、突然蓋が開いて眩しい光と共に二人は壁に影を残して消えてしまう。そのバスケットを一人の男が持ち上げて何処かへ去ってタイトル。歌舞伎町でバーカールモールというバーを営むマリコの姿から、その店に集う様々な客の描写に続いて、怪しい外人がやってくる。なんと彼らはFBIで、地球外生命体を捕獲したのだが、日本人の天本という男に奪われたので探して欲しいという。マリコには探偵というもう一つの顔があった。。

 

マリコは2万ドルという手付金と事件の面白さに惹かれて仕事を受ける。早速マリコが調査を始めるが、歌舞伎町には様々な人物が入り乱れている。映画はバーカールモールにやってくる様々な客を描きながら、マリコの姿を描写していく。

 

元ヤクザの戸塚はある組のボスを殺して欲しいと頼まれ、最後に行方不明の娘に会いたいと彼女を探して欲しいとマリコのところにやってくる。実は娘は歌舞伎町でスカウトされ、怪しい仕事をしているらしいというところまで突き止めるがそこまでだった。

 

コンテナハウスに中で、いかにもAVという撮影が行われていて、なんとその女優が戸塚の娘だったが、目に前にいるのに戸塚は気が付かないまま、頼まれた親分を撃ち殺し、子分たちに囲まれてしまう。

 

ホストに熱を上げる絢香は、自分から離れていくホストの男性を引き止めようと、歌舞伎町に暗躍する殺人鬼を捕まえ、報奨金を貰って、ホストの心を取り戻そうと、マリコに依頼してくる。結局、絢香はホストを道連れに焼身自殺してしまう。

 

バーカールモールの客の一人は映画を撮っていて、その彼に夢中な女には姉がいたが、実はその姉妹は子供の頃から父に暗殺者としての技術を叩き込まれた殺し屋だった。屋上で姉妹で言い争っている際、地上で殺人鬼が女を襲おうとしていたが、妹が銃で殺人鬼を撃ち殺してしまう。

 

マリコには日頃から慕っている中年の自称忍者のMASAYAがいた。忍者の末裔という彼は、いつもサンドイッチマンとなって、忍術教室の生徒を探している。なぜか彼のことを心底慕うマリコ

 

地球外生命体を探しているもう一組は、今や生きづらくなったヤクザたちで、地球外生命体を捕まえて中国に売り払う計画で、マリコたちに近づいてくる。

 

マリコはMASAYAが天本と地球外生命体を匿っていると推測しMASAYAの稽古場でMASAYAを追い詰める。MASAYAは天本と地球外生命体がいるところへ案内する。実はマリコは幼い頃、父のDVに苦しめられ、とうとう父を刺殺したのだが、その時庇ったのがMASAYAだった。以来、マリコはMASAYAを慕っていた。

 

マリコとMASAYAは天本たちのところへ行くが、折しも地球外生命体を探すヤクザたちもやってくる。しかし、バスケットの中からの光でヤクザたちは消えてしまう。天本は救援のUFOを呼ぼうと屋上で電波を送っていて、ついにマザーシップが現れるが、そこへFBIが突入してくる。

 

MASAYAは撃たれてしまうが、マザーシップからの光でFBIは皆消されてしまい、バスケットのエイリアンはETよろしく光でMASAYAを生き返らせ、マザーシップに帰っていく。そして天本も招待されて消えていく。MASAYAとマリコはキスを交わす。

 

翌日、UFOの記事が一面に載り、マリコの店では客たちが大盛り上がりだった。そこへ中国人らしい二人がやってきて次の依頼をマリコにして映画は終わる。

 

面白いはずなのに。なんだかまとまりがないというか、決まってこないゆるゆるさで最後まで行ってしまった。伊藤沙莉が活かせていないのが本当に勿体無い一本でした。

 

「マルセル 靴をはいた小さな貝」

YouTubeにアップされていたストップモーションアニメが話題となり長編映画化、アカデミー賞ノミネートなど評価された作品。貝のマルセルが可愛らしい声で作者ディーンと交わす会話の数々、祖母コニーと話す心温まる物語をドキュメンタリータッチで描いていく展開は、ファンタジックでもあり、ちょっと現実的でもあり、実際にその辺りに居るんじゃないかと思わせる夢を感じさせてくれる映画でした。ただ、劇的な物語があるわけではないので、ある意味地味と言えるかもしれません。監督はディーン・フライシャー・キャンプ。

 

テニスボールが二階から転がり落ちてくる。中から現れたのは貝のマルセルで、ディーンという映像作家が彼の姿を撮影してYouTubeにアップしている今という世界から映画は始まる。マルセルにはコニーという祖母がいて今は二人だけでこの家に暮らしているらしい。元々はたくさんの家族がいたが、この家の主人の夫婦が頻繁に喧嘩をするので、そのたびに、みんなは靴下置き場の箪笥に隠れるようにしていた。ところがある日、喧嘩した夫婦のうち夫が箪笥の中身を無造作にトランクに詰めて出て行ったので、マルセルとコニーが家族と離れ離れになり残されてしまった。

 

マルセルは60ミニッツというテレビ番組が好きで、日々、色々工夫しながら生活している。ディーンがアップした動画が人気になりSNSで話題になり始める。ある日マルセルはディーンに手伝ってもらって、家族を探すために街に出る。しかし思いのほか外の世界は広く、諦めて帰ってくるが、SNSを見た視聴者がマルセルの家を興味本位で訪ねてきて、その騒ぎの中、コニーは怪我をしてしまった。それをきっかけにコニーはみるみる衰えていく。

 

そんな頃、60ミニッツのプロデューサーがマルセルを取材させて欲しいと連絡してくる。マルセルは一旦断るが、コニーは前向きに考えないといけないとマルセルの背中を押す。意を決して取材を受け入れたマルセル、大勢のスタッフがマルセルの家にやってくる。そして無事、取材は終わるが、コニーはいつの間にか姿を消してしまい、亡くなってしまう。

 

しばらく後、マルセルの家にいた元夫婦の居所がわかり、マルセルは再び家族と再会、ディーンといっしょににぎやかな毎日が始まって映画は終わる。

 

独特の出立の貝のマルセルがとにかく愛らしいし、コニーの存在も映画に厚みを与えてくれる。なんといってもストップモーションアニメのコミカルな動きがマルセルのキャラクターと相まってとっても愛らしい雰囲気を醸し出すので、思わず微笑んでしまう。それでいて、社会の現実をさりげなく入れ込んだ物語作りも大人な感じがして、見ごたえのある良い作品でした。