くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ふたりのマエストロ」「フリック」

「ふたりのマエストロ」

アカデミー外国語映画賞ノミネートされたイスラエル映画「フットノート」の設定変更のリメイク。オーケストラ指揮者という設定に変更したのは良いが、映画的なビジュアルのためだけを目指した素人アイデアの焼き直し映画で、クローズアップの多用はほとんど意味もなく、オリジナルにあったユーモアも全く見えないままに、ストーリーだけお借りしたレベルの映画でした。ラストはいくら映画とはいえ絶対あり得ない締めくくりで、唖然としてしまった。監督はブリュノ・シッシュ。

 

音楽界で栄誉のある賞を主人公ドニが受けているシーンから映画は幕を開ける。父親で同じく指揮者であるフランソワは、そんな息子に嫉妬心があり、お祝いの席にも顔を見せない。小さな楽団の指揮練習をしていたフランソワは、一本の電話を受ける。それはミラノ・スカラ座のマイヤー総裁の秘書からの電話だった。秋からミラノ・スカラ座音楽監督として指揮をして欲しいというものだった。長年の夢が叶い、小躍りするフランソワだった。その直後、ベッドで目覚めたドニにマイヤー総裁から会いたいと連絡が入る。

 

ドニが行ってみると、実はミラノ・スカラ座の件は秘書が間違えてフランソワに電話してしまったので、実際はドニへの依頼だったとわかる。今更ということで父にどう話すかどうか迷うドニは、手紙で伝えようとするが、その手紙をたまたまう息子のマチューが読んでしまう。

 

ある夜、スカラ座での第一バイオリン奏者に決まっている女性の舞台を見に行ったドニは、そこへ現れたフランソワ夫婦と鉢合わせしてしまう。ドニは母に真相を話すが、フランソワはその空気から何かあると察する。そして一人ドニの家に行ったフランソワは真相を聞く。

 

ドニは複雑な思いでスカラ座での舞台の準備に入る。そして迎えたミラノ・スカラ座での最初の舞台、客席には母、息子、妻、エージェントが来ているが父フランソワの姿はない。指揮を始めたドニだが、中盤、上手からフランソワが現れ、一緒に指揮を始める。最初から示し合わせていたのだ。大喝采の中演奏は終わり、フランソワは心から息子ドニを祝福し舞台を去っていく。こうして映画は終わる。

 

ビジュアルを狙ってのラストの処理だが、絶対にあり得ない。一流のオーケストラで、いくら親子で息が合っているとはいえふたりのマエストロの指揮で演奏ができるわけがなく、こういう改編は素人アイデアというほかない。息子や妻、愛人?などの絡みもほとんど物語に深みを生んでいなくて、父と子の心の葛藤が中心のはずなのに全く見えないし、やたら多いクローズアップが映画を小さく見せている。オリジナルの脚本が優れていたからこそ、もっとしっかりと改編すべきだったと思う。

 

「フリック」

二時間半めちゃくちゃに面白かった。映像の繰り返しと延々とした長回し、誰が喋っているのかわからないような遠景の演出、何もかもがどれが真実でどれが夢なのか判断がつかないミステリーで最後まで引っ張っていきます。振り返ってみれば単純な話なのに、ラストはB級サスペンスの如く締めくくる。シュールな映像も挿入される柔軟な画面作りも面白い。なかなかの傑作だった。監督は小林政広

 

一人の女性楠田美知子がチェーンソーの音に怯えて逃げ惑い、殺されたかの映像で暗転してタイトル。妻を殺され自宅に引き篭もった村田のところに後輩の滑川がやってくる。変質者にバラバラ殺人で殺された楠田美知子の兄を連れに行く仕事だと誘いに来たのだ。乗り気でなかった村田だが強引に滑川につきそい苫小牧へ行く。滑川の白い車が真っ直ぐにこちらに向かって来る。早速、兄健一のところへ行くが、健一は車椅子で、バラバラ死体を見に行きたくないと言うが、とりあえず翌日発つからという約束をする。村田は、つい根掘り葉掘り聞いて、滑川に捜査ではないのだからと嗜められる。滑川の先輩でこの地の所轄の佐伯も見に来るが、その態度が村田には気に食わなかったが、その夜の歓迎会に参加する。

 

予約していた民宿に行くが、予約はないと民宿の主人に言われる。しかし部屋はあるからと村田たちは宿泊することにする。事件に不信を持つ村田は勝手に聞き込みをするが、翌朝、健一が湖で自殺死体として上がる。適当な見解で自殺と断定する佐伯と部下の及川につい反抗的になる村田だが、滑川に強引に引き離される。村田の妻はヤクザ者に自宅で殺され、そのヤクザ者を朝帰りしてきた村田が射殺した。流れの合間にその時の場面が挿入される。

 

村田は聞き込みの中で楠田美知子が出入りしていたバーを見つけてその店に行く。雇われオーナーの伸子が応対するが、美知子は複数の男性とよく来ていたと言う。そこへ、美知子に似た愛がやってくる。彼女はここでバイトしていると言う。店を出て話を聞いた村田は、美知子がこの店を待ち合わせにして援助交際していたことを知る。この街のほとんどの男は彼女と関係があるのではないかと聞かされる。実は村田の妻は滑川と不倫していたのではないかと村田は疑っていた。村田は、滑川をこのバーに連れてくるが、伸子は愛と言うバイトの子はいないと答える。

 

村田は佐伯たちも怪しいと考え、このバーで明後日東京へ帰る前に佐伯たちも呼んでお別れ会をしようと提案する。一人村田をバーに残して滑川は店を出るが、民宿に戻ると佐伯たちが待っていた。佐伯達は村田の銃を盗み民宿の主人を撃ち、滑川も殺して全て村田の仕業にすることにしたと笑う。

 

車で連れて行かれた滑川は佐伯に銃で撃たれる。バーでは村田が眠り込んでいた。タクシーで帰ると店を出たが、すれ違った男にぶつかって殴られ気を失った。そこへ、店を終えた伸子が村田を見つけ自宅に連れ帰ってやる。村田は滑川に電話すると滑川は応答、どうやら村田の夢だったらしい。伸子の部屋には父の形見の猟銃が立てかけてあった。

 

村田は伸子の家で一夜を明かす。目覚めたところへ滑川から電話が入る。民宿に戻った村田に及川から連絡が入り、滑川が死んだのだと言う。そして、村田の銃で殺されたので逮捕状も出ているから来いという。村田は指定された場所へいき、佐伯達に捕まってしまう。佐伯は狂ったように村田に迫り、及川さえ撃ち殺す。佐伯は、村田が路上で銃を手にしようとした瞬間、やってきた伸子の猟銃で撃ち殺すと言う。佐伯は伸子のバーの真のオーナーで伸子の情夫だった。村田は銃を取り、銃声が響く。

 

エピローグ、村田は伸子の部屋にいた。そして朝食を食べ始める。生まれて初めて食べたパン、生まれて初めて飲んだコーヒー、そして村田は伸子に一緒に暮らそうと告白し、今夜は店を休んでドライブに行こうと提案する。伸子はその言葉を受け入れる。部屋に何もなくなったかと思うと村田が路上で銃を掴むところだった。伸子の猟銃が村田に向けられるが次の瞬間別の方向、おそらく佐伯に向けて銃が放たれて暗転、冒頭の真っ直ぐな道、白い車がこちらに走り去ると手前から伸子の真っ赤な車が彼方に走り去って映画は終わる。

 

フラッシュバック、長回し、カメラのパンと繰り返し、夢落ちかと思えば現実を繰り返すストーリー演出、セリフは聞こえるが誰が喋っているかわからないほどの遠景のカットなど、映像テクニックを駆使したサスペンス作りが見事な一本で、二時間半あるのに全くだれたり退屈したりしない。本当に面白い映画だった。