くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「宇宙探索編集部」「メドゥーサ デラックス」

「宇宙探索編集部」

ヘンテコな映画ですがどこか憎めない作品で、ラストシーンには不思議と感動が漂ってくる。人間が夢を見続けるという不思議なメッセージが見え隠れするのが良い。映画大学の卒業制作作品らしいけれど、編集も演出もちゃんとできているし、さりげなく見せる絵的なカットも評価できます。単純なロードムービーと侮るなかれという一本でした。監督はコン・ダーシャン。

 

かつて誰もが読んだ人気雑誌「宇宙探索」も今は廃れている。今から30年前の全盛期、編集長の若き日のタンがインタビューを受けているモノクロ映像から映画は始まる。広大な宇宙に宇宙人の存在を熱く語る彼の姿から、時は30年後、今や宇宙探索編集部には隙間風が吹き、唯一のお宝の宇宙服も壁の飾りでしかない。ここに取材に来た人の前で、タンはせがまれて宇宙服を着せられるが脱げなくなりレスキューを呼ぶ羽目になる。そして結局、切断して脱出するが、この出だしのエピソードがどこか微笑ましい。

 

タンは自宅のテレビに映る砂嵐が何かのメッセージだと信じ、粗末な食事を摂る日々を送っている。そんな時、山深い山村で、謎の光の落下と村にある獅子の石像から取れないはずの石の玉が消えたこと、飼っているロバが消えたこと、石像の傍に光る人物がいたことなどの記事を発見、編集部のメンバーを伴ってその山村へ向かうことにする。資金は宇宙服を売ったりして工面する。

 

到着したタンらは宇宙人の死体を保管しているという怪しい男から宇宙人の足の骨を買わされたり、奇妙な寄付をさせられるタンにメンバーはブーイングの連続。やがて村に着き、石像を見て、間も無く日食が始まる。途中、結婚式の後のトラブルで河原で嘆くカップルに出会ったりしながらも山の奥とへ向かうが、途中、一緒に来ていたスンという青年が消えてしまう。それでも前進するタンにメンバーは辟易とし、手に入れた宇宙人の骨も捨ててしまう。ある場所で野良犬に一人のメンバーが噛まれたことから、不満が爆発、タンは一人荷物を持って山の奥深くへと旅立つ。

 

雪が残る山の中で、食糧らしいものもなく必死で進む彼の前に、突然村でいなくなったロバを発見、それに乗って嬉々として走り回る。しばらくいくと巨大な丸いカプセルが現れる。疲れたタンがそのそばで眠って目が覚めると、スンが立っていた。スンに導かれるままに洞窟に行ったタンはその洞窟の壁画に宇宙人の痕跡を見つける。そして一夜が明け目を覚ますとタンが成長した宇宙人の足の骨を持って立っていた。そして、あなたはここまでと言葉を発すると突然スズメの大群がスンを包みそのまま空高く消えてしまう。

 

一ヶ月後、宇宙探索編集部は荷物を全て引き払っていた。そしてタンは姪の結婚披露宴でスピーチをしていた。夢を持つことの大切さを熱く語る彼のスピーチの姿からカメラは空へ舞い上がり、どんどん地球を後にして宇宙の深淵へ進んで映画は終わる。

 

なんのことはないのですが、なぜか感動を覚えてしまう不思議な作品でした。

 

「メドゥーサ デラックス」

ワンシチュエーションワンカットで見せるミステリーですがミステリーというよりミュージックビデオのようなリズミカルな映画でした。映画というよりPVという感じの面白さを味わうことができました。監督はトーマス・ハーディマン。

 

ヘアスタイルのコンテストの楽屋、美容師のクリーヴがモデルの髪をセットしている。クリーヴはかなり攻撃的な性格のようで、過激な言葉も出てくる。その会話の中、今回のコンテストで、一人の美容師モスカが頭の皮を剥がれて死んだことが語られる。殺人か自殺かはわからないまま、カメラはモデルと一緒に部屋の外に出る。

 

洗面所へ行き同僚と話をしていると警備員助手のギャックがウェットティッシュが欲しいと入ってくる。映画は、モデルたちの会話を中心に次第にその周辺の人たちの会話をカメラが順繰りに追いながらそれぞれの人間模様を描いて次第に真実に迫っていく。

 

コンテストの主催者レネはモスカのパートナーのアンヘルを出迎える。アンヘルは赤ん坊を連れてやってくる。赤ん坊をモデルの一人に預けて警察の聴取を受けにいく。モデルたちは、ギャックが怪しいと疑い始める。レネはアンヘルが赤ん坊を置いたまま行方が分からなくなり探していると警備主任のパトリシオと出会う。ようやくアンヘルを見つけたレネは、アンヘルから、実はアンヘルとモスカは薄毛の薬を輸入する仕事をしていたが失敗したことを語る。その事業でパトリシオも関わったがパトリシオは怪しい薬も輸入していたのだという。

 

一方、モデルたちはどんどんんギャップを追い詰めていくが、ギャップは突然嘔吐し始める。パトリシオにもらった薬を飲んだからだという。アンヘルもその場にくるが、ギャップは自分のロッカーに血だらけの頭皮が入れられていて、なぜあるのかわからずウェットティッシュで扉を拭いたのだという。アンヘルが舞台へ続く扉を開けると、そこは華やかなステージの準備が行われていた。モデルや美容師たちに挨拶をしてクリーヴの部屋にやってくる。そして真実を知る。

 

ギャップはモスカと熱い口付けをしていた。モスカは自ら命を絶ったが、生前、髪は抜けてしまったら死んでしまうものだと言っていたのを思い出し、傍の鋏で頭皮を切って剥がしたのだという。時が流れ、立ち直ったアンヘルは子供を連れて故郷へ行くのだとクリーヴに語る。こうして映画は終わっていく。エンドクレジット、キャストたちがステージで舞い踊り始める。

 

ミュージックビデオのように一本の映像作品として取り上げられた感じで、カット割がないものの、流麗なカメラワークとクローズアップを交えた映像演出は面白く仕上がっています。コンテストでの賄賂の話や美容師たちの野心の話も交えた脚本もなかなかの物ですが、ミステリー色の部分がやや弱く、その核がもうちょっとしっかり描けていれば最高だった気がします。それでも、話題性だけのワンシーンワンシチュエーションドラマではない作りは評価して然るべきかと思いました。面白かったです。