くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「SISU シス/不死身の男」「栗の森のものがたり」「竜二」

「SISU シス/不死身の男」

個性的なアクション映画という感じの作品で、北欧らしいちょっとグロテスクなシーンの連続と、キレのいいハイテンポな展開はハリウッドアクションにみられない面白さを楽しめました。監督はヤルマリ・ヘランダー。

 

1944年、第二次大戦末期、ナチスの敗北が見えてきた頃、フィンランドソ連と休戦協定を結んでナチス排除に全力を注ぐが、ナチスは全土焼却作戦を開始する。ここに戦争に背を向けた一人の老人アアタミは、フィンランドの沼地で金を掘り当てる。愛犬のウッコと金を馬に乗せて運ぶが、ヘルドルフの率いるナチスの戦車隊と遭遇する。アアタミはさりげなく通り過ぎるが、その先でナチスの残党と再び遭遇、そこを無視して進もうとしたが地雷に引っ掛かり馬もろとも吹っ飛ばされる。何とか馬の犠牲でアアタミは助かるが、ナチス残党がアアタミの金を見つけて忍び寄ってきた。アアタミは瞬時に一人の敵を倒し、その後、鮮やかに残りを殺してしまう。

 

妙な予感がしたヘルドルフたちが引き返してくると、仲間が惨殺されていた。傍に金塊が落ちていたことから、さっきの老人を追うことにする。やがてアアタミに追いついたヘルドルフたちは一斉に攻撃しようとするが、地雷を投げつけられたりして一瞬で数名が殺される。ヘルドルフは本部に連絡して、手に入れたアアタミに鑑識票で司令官の指示を仰ぐが、司令官はその男にかかわらずに引き返せという。しかし、ヘルドルフはナチスの敗戦が間違いない中、軍に戻るよりアアタミの金塊を手に入れる方を選ぶ。こうしてヘルドルフたちとアアタミとの戦いが始まる。

 

倒そうとしても倒せないアアタミにヘルドルフたちも焦り始めるが、とうとう、アアタミを首吊りさせることに成功しその場をさる。ところが降り立ったナチスの飛行機の兵士を巧みに殺したアアタミは飛行機でヘルドルフたちを追い、ヘルドルフたちが拉致してきた女たちを味方に助けて、ヘルドルフ以外を皆殺しにしていく。脱出用の飛行機に辿り着いたヘルドルフは最後の部下を撃ち殺し脱出飛行機で飛び立つが、鶴嘴でしがみついたアアタミは機内へ突入しヘルドルフと最後の決闘となる。ヘルドルフを爆弾投下穴から落とし、飛行機で不時着、フィンランドの両替所へ行き、金塊を札に替えてくれと言って映画は終わる。

 

愛犬の存在や、女たちの背景を一切無視したストレートな演出は雑ながらも面白いし、ややグロテスクな殺人シーンもこれはこれで程よく抑えられているし、大作ではないかもしれないが楽しめる一本でした。

 

「栗の森のものがたり」

ファンタジーなのですが、ストーリーが目眩く一貫性がない夢の中なので、追い続けられなかったうちにあっという間に終わった。映像は美しいながらも、目を見張るほどではないし、突然挿入される歌や音楽に、現実と非現実が入り乱れるし、気がつくとエンディングでした。監督はグレゴル・ボジッチ。

 

人々が去っていき、消え入るような村を説明するテロップから、枯葉の中に墓地の穴のような四角い穴に枯葉を入れる人々を真上から捉えてタイトル、映画はこうして始まる。場面が変わると一人の老人マリオが木の幹に眠っていて、馬車の御者が声をかけマリオは馬車に乗る。そして彼の思い出が始まる。

 

博徒で仲間にいいようにイカサマされて追い出され家に戻る。なけなしの金を取られ苛つく彼に妻は体調が悪いという。そんな妻に冷たい言葉を浴びせるが、まもなくして妻は寝ついてしまう。マリオは、どうやら大工らしく、妻の棺を図面にしている。やがて妻の前に三賢人という男達が現れ、歌を歌う。妻は亡くなったようである。

 

マリオはカフェで栗売りの少女マルタと出会い話をしている。マルタはこの村の昔話を訪ねるがマリオは何も知らないと答える。マルタはオーストリアに旅立つつもりだという。この地にいても何もできないからだという。引っ越す段取りをしているマルタだが少しお金が足りないと業者に言われる。その場にいたマリオがその金を工面してやる。

 

木の幹で眠っているマリオはまた御者に声をかけられる。馬車に乗り揺られながら、一緒に乗っている若者たちが歌を歌い始める。やがて冒頭の場面、枯葉が墓穴に注がれ皆が村を去って映画は終わる。

 

淡々と目眩くように展開する幻想的な物語で、一人の老人と村を去る少女のひとときの現実か幻想か判別つかない作品でした。それほど秀でた出来栄えではなかったし、もっと切ない感動を呼べる作品だと思いますが、何かが物足りない映画だった気がします。

 

「竜二」

いい映画ですね。荒削りな脚本ですが、竹を割ったように展開する映画のリズムがとっても心地よいし、さりげなく見せる男の哀愁やロマン、さらに男と女の生き方の切なさが滲みできて、ラストは何とも言えない物悲しいものを感じてしまいました。監督は川島透。

 

三東会というヤクザ組織の幹部竜二が女のベッドで目覚めるところから映画は幕を開ける。どうやら飲み屋で口説いた女らしいが、さりげなく女に金を渡すのを女はあっさり断ってぬいぐるみだけもらう。竜二は弟分の直やひろしの面倒を見ながら、闇ルーレットを経営する仕事をこなしていく。バーゲンなどで買い物するのを格好悪いと嫌うようなこだわりはあるものの、決してヤクザであることを鼻にかけることはなく、新宿でも信頼される存在だった。

 

妻の、まり子に子供ができ、まもなくしてあやが生まれるが、その頃、竜二はある仕事で刑務所に入ってしまい、その保釈金を段取りするために直らがまり子の兄に頼み込んだことから、まり子の実家にまり子の相手がヤクザものと知られ、あやを取られてしまう。出所してきた竜二はそのことで直らを責め立てるがどうしようもなかった。

 

竜二は組の仕事を順調にこなし、しのぎの収入も半端なく増えていくがどこか虚しさを覚え始めていた。兄貴分で今は堅気で居酒屋をしている関谷を訪ね、堅気になる決意をする。竜二は三東会のある仕事をこなした後、親分に堅気になると宣言して組を辞め、まり子の実家を訪れる。関谷の紹介で酒屋に勤めた竜二はまり子と慎ましい生活を始め、その心地よさに幸せを感じ始めるが、かつてのヤクザの友人でシャブに手を出し、竜二に助けを求めてきた男に何の助けもしてやれず、直の姿を見るにつけ、今の生活に疑問を感じ始める。

 

そんな時、今は竜二のシマを仕切っているひろしがやってくる。竜二の家で酒を飲んだ後、仕事に戻るひろしを見送った竜二は、一抹の虚しさを感じていた。ある日、仕事帰りの竜二はバーゲンであやと並んでいるまり子と偶然出会う。その姿を見た竜二は黙ってまり子から離れていく。かねてから、慎ましい生活にどこかよそよそしい態度を見せていた竜二に気づいていたまり子は、あやに、また実家に行こうと涙ながらに話す。場面が変わり夜の街、スーツ姿で颯爽と歩く竜二のカットで映画は幕を閉じる。

 

男の生き様、そしてどうしようもない性を、さりげなくしかも淡々と描いていく展開が何とも切ない。青春映画というわけではないけれど、この不思議な切なさに胸を締め付けられる思いがしました。いい映画でした。