くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「シチリア・サマー」「ファウスト」

シチリア・サマー」

ゲイ映画なので嫌いなのだが、この映画は思いのほか良かった。実話とはいえ、丁寧に書き込まれた脚本と演出、音楽を効果的に使ったリズム作り、脇役を絵の中に効果的に配置してその表情で語らせる絵作りが実に上手い。そしてそんなそれぞれが終盤で生きて来るのだからこれはもう見事というのかありません。ゲイは異常であることに変わりはないけれど、だから差別したり暴力を振るったりは絶対にしてはいけない。しかし、人間の本音としてはそれが表になってしまう。それを悪と決めつけるかどうかは微妙なところではないでしょうか。その辺りの機微がきっちりと描かれているのがとっても良かった。クオリティの高い良い映画でした。監督はジュゼッペ・フィオレッロ。

 

ニーノと叔父、従兄弟のトトがウサギを撃ちにきている。トトはまだ幼くて騒ぐばかりで、叔父に戒められながら、叔父が銃を撃つと見事ウサギが仕留められる。ニーノは父と一緒に花火工房をしている。父は喘息がひどく、この日、仕事中に咳き込んでニーノに心配させる。トトの母はニーノの姉らしい。叔父は砕石場を経営している。極めて平凡で平和な家族で、ワールドカップでイタリアを応援して盛り上がる日々である。

 

離れた街にジャンニという青年がいる。この日、カフェにやってきたジャンニはカフェにたむろしている若者たちに冷やかされ、入り口にいた女性の口紅を塗られて追い返される。この辺りではジャンニがゲイである事は周知だった。そんなジャンニを迎えた母は、ジャンニがゲイであることを諦めと絶望で見守っている。母は向かいで自動車修理工場をしているフランコの世話になっている。ジャンニの父は家を出てドイツに行ったらしい。

 

ニーノは誕生日にバイクをもらう。早速走らせるニーノだが、顧客にバイクを届けようと疾走していたジャンニのバイクと接触して事故を起こしてしまう。気を失ったジャンニにニーノは人工呼吸をし、自分の住所を教えてその場を去る。しばらくしてジャンニはニーノの家を訪ねて来る。修理工場に嫌気が差して仕事をもらいにきたのだが、ニーノの父は人手は足りているからと、兄がやっている採石場を推薦する。

 

ジャンニは採石場で一生懸命働き、仕事終わりにニーノがバイクで迎えに行って、お気に入りの川で泳ぐようになる。そんなある時、採石場にジャンニの近所の悪ガキが一人仕事にやってきたのをジャンニが発見、自分の事がバレると砕石場を辞める。心配したニーノはジャンニの家に行き、そこでジャンニがゲイだと悪ガキらが冷やかす噂を聞く。

 

帰り道ジャンニを見つけたニーノは、父が喘息で病院へ行くことになったのを機にジャンニと花火の仕事をしたいと父に提案、最初の仕事を無難に仕上げたニーノは、父が休養する間ジャンニとあちこちの仕事をする。そして次第に二人は友情以上の関係になっていく。そんな二人を、雨の日、姉?が見かけ母親に告げる。ニーノの母は思い悩み、落ち着かなくなる。

 

そんな時、ニーノの母はジャンニの母から電話をもらう。ジャンニはあらぬ噂を立てられていて、ニーノの将来のために付き合わない方がいいと伝える。それを聞いたニーノの父はニーノとジャンニが仕事をする場に行き、ジャンニを帰らせて、自宅でニーノに詰め寄る。ニーノはジャンニがゲイなら付き合わなかったと断言するが本心ではなかった。後日、採石場を営む叔父の部下がジャンニを痛めつけに来る。

 

ワールドカップの決勝戦、家族みんながテレビを囲む中、ニーノは一人庭で花火の本を見ていた。そこへ、姉の夫?が来て、「隠し通せば永遠に続けられる」と忠告する。ニーノはバイクでジャンニの家に行きジャンニを誘って川へ行く。翌朝、河岸で二人は至福の顔で寄り添っていた。カメラが引くと銃声が二度響く。二人は殺された。こうして映画は終わる。テロップで。この事件を機に1980年、同性愛者擁護団体ができたと映される。

 

傍の登場人物の関係がわかりにくいので間違っているところもあるかもしれませんが、物語の組み立て、抑えた色調による画面、淡々と進むストーリー、主人公たちの周りの人物の視線の変化、さりげない細かい部分にこだわった演出が素晴らしく、しかも合間合間に挿入される音楽のセンスも良い。映画作品としてもなかなかの仕上がりの一本でした。

 

ファウスト

力の入った演出でグイグイ押してくるので若干しんどくなって来るが、その重厚さに圧倒される作品でした。監督はF・W・ムルナウ

 

悪魔が地上に君臨しようとする中、神は、地上のファウストが悪に染まったら地上を与えると約束する。そんな中、ペストの流行で次々と人々が亡くなり、自分の無力さを痛感した医師のファウストは書物に書かれた悪魔を呼び出す方法で悪魔を呼び出そうと考える。悪魔と契約し、万能の力を得ようとするが、現れた悪魔の使いとの契約を躊躇し、一日だけの仮契約をする。そしてファウストは患者を救おうとするが、聖なる十字架を持った女性を救えなくて人々から石つぶてをされてしまう。

 

ファウストは永遠の若さを望み、一人の女性と恋に落ちるが契約の期限が来る。ファウストは永遠の契約に切り替え、悪魔の力で欲望の限りを貪るが、次第に虚しくなり故郷に戻りたいと願う。故郷に戻ったファウストは、一人の神を信じる純真な娘と恋に落ちる。彼女の気持ちを得るため、悪魔メフィストに依頼、メフィストは彼女の兄や母、叔母を拐かしてファウストとの恋を成就させるが、一方で、兄を殺し、その罪をファウストに被せ、ファウストを愛した娘は売女だと罵られる。

 

娘は一人になり子供を産むが寒い夜赤ん坊を死なせてしまい、子供殺しの罪で火炙りの刑となる。自分が若さを望んだために娘を不幸にしたと反省したファウストは全ての契約破棄をメフィストに申し出、年老いた姿に戻って、火刑にふされる娘に駆け寄り、二人は燃える炎の中天国へ召される。神は悪魔に、ファウストは悪に染まらなかったということで地上に君臨することを許さず、愛こそが何者よりも強いとして悪魔は滅んで映画は終わる。

 

大作らしい作りと、迫って来るような演出がかなり重い作品で、名作とはいえ正直しんどかった。