「ファーストラヴ」
面白くないわけではないのですが、と言って面白いわけではない。直木賞を取った原作の人間ドラマの厚みが映像に昇華できなかったという感じです。物語が重くて奥が深いのに、こちらに迫ってこない。脚本が悪いのか演出が悪いのかその弱点が見つからない映画でした。北川景子が綺麗すぎるというのが実は原因だったのかもしれない。監督は堤幸彦。
某大学の美術棟の一室、一人の男性が血を流して倒れている。死んだのは有名な画家の聖山那央雄人。カットが変わり血のついた包丁を持ち歩いている聖山環菜の姿。被疑者の環菜は動機はそっちで見つけてほしいという供述をし逮捕されていた。公認心理士の真壁由紀は、彼女のことを本にすべく取材を始める。そして国選弁護士庵野迦葉に会いにいく。迦葉は由紀のかつての恋人であり、今は義理の弟であった。
由紀の夫真壁我聞は写真スタジオを営んでいるが、元は写真家であった。迦葉は母に捨てられ、叔父の家で育てられたが、そこにいたのが我聞で、二人は血のつながらない兄弟だった。物語は由紀が環菜との接見で次第に環菜の過去を探り出していく。環菜は小学生の頃、父の弟子たちのモデルをしていたが、全裸の男性モデルの間に佇むという構図で、幼い環菜には苦痛だった。その苦しみから自傷癖になっていた。
そんな彼女に優しくしてくれたのがコンビニでバイトをしていた大学生裕二だった。そこまで調べていく由紀は、かつての自分の境遇との接点を見つけていく。由紀の父は海外出張の時に少女買春をしていて、そのことを母から由紀の成人式の日に聞く。由紀が幼い時、父の車のダッシュボードから少女の写真がたくさん出て来たことがあり、父が普通ではないと思っていたのだ。
由紀は、自分の子供時代の出来事を環菜にぶつけ、環菜の心を開かせようとする。そして環菜は、自分は父を刺していないと最初の供述を覆した。物語はここで大きく転換するはずなのだが、どうもドラマに大きなうねりが見えてこないし、由紀にしても環菜にしても、幼い頃の悲惨な境遇がこちらに迫ってこないのである。由紀は夫我聞に隠していた過去や迦葉との関係など全てを我聞に告白するが、我聞は薄々わかっていたとあっさり受け入れてくれる。
そして法廷、迦葉は環菜の無実を主張、証人らに供述も環菜に有利に見えたが、判決は実刑八年となる。由紀は裁判の後、トイレで手を洗う環菜の母の手首に自傷の跡を見つける。この辺りももう少し突っ込んだ演出をすべきだが、さらっと流してしまう。
エピローグ、環菜が服役する姿、由紀が我聞の写真展に佇む姿、迦葉がようやく家族になれたとつぶやく姿で映画は終わるのだが、どれもこれも心の底から訴えて来ているように見えない。芳根京子の法廷シーンの熱演や木村佳乃の悪母ぶりのスパイス的なシーン、我聞を演じた窪塚洋介の飄々とした佇まいはいい感じなのだがどうもうまく噛み合っていない。何とも通り一遍に滑って行った物語という出来栄えでした。