くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ブラック・レイン」「マタンゴ」

ブラック・レイン

初公開以来の再見ですが、当時はこの映画の面白さを理解していなかったかもしれません。アクション映画はこれくらいキレッキレでないとあかんと思います。無駄なシーンは思い切って削ぎ落として、それでいて見せ場は徹底的にハイスピードで光と影を操って描いていく。しかも松田優作の悪役ぶりが寒気がすりほどに恐ろしく、まさにこの手の映画は悪役次第でハイレベルになるかどうかが決まる典型的な仕上がりになっています。おっそろしく見事なアクション映画でした。拍手です。監督はリドリー・スコット

 

バイク好きの主人公ニックがこの日もチキンレースでチンピラに勝って小遣いを手にする。次のカットで、汚職の汚名を着せられたニックが警察署に召喚される。麻薬組織の金をくすねたらしい疑いだが、ニックは平然と疑いを交わす。しかし本当の所、離婚後の手当や子供の教育費などで家計は火の車で、金を盗んだらしいと推測される。そんな彼が親友のチャーリーとカフェにいると突然日本人らしい男たちが飛び込んできて、カフェにいたマフィアやヤクザのボスがいるところへ行き、何やらケースに入ったものを奪うと惨殺して逃走する。すぐにニックらは後を追う。そして、首謀者の男を追い詰めて逮捕する。

 

逮捕された男は佐藤と言って、日本人だった。日本大使館から引き渡しを要求され、日本へ移送することになるが、その護衛にニックとチャーリーが指定される。機内で不適な笑いを続ける佐藤についニックは殴ってしまう。やがて日本に到着、出迎えた日本人警官に引き渡すが、直後本物の日本の警察が来て、佐藤が奪われたことを知る。ニックらは警視庁へ行き、一緒に佐藤を捜査したいと申し出るが、あくまで客人としての同行になり、監視に松本警部補が指名される。あくまで日本式に捜査をしようとする松本らにニックは反感を持ちながらも同行する。

 

佐藤のアジトのタレコミがあったと現場に向かったニックたちだが、捜査に参加できないニックは証拠品のドル札を盗む。それは偽札だった。佐藤がアメリカで手にしたのはおそらく偽札作りの原盤だと判断したニックらは、キャバレーで出会ったアメリカ人女性ジョイスから情報を仕入れ、どうやら佐藤は日本のヤクザの大ボス菅井の後釜を狙っているらしいとわかる。しかし、ニックらに恨みのある佐藤は、酒の帰りのニックとチャーリーを暴走族に絡ませ、チャーリーのコートを奪って逃走し、地下ガレージに誘い込む。執拗に追いかけて行ったチャーリーはそこで罠にハマり、佐藤の刃にニックの目の前で殺されてしまう。

 

松本はチャーリーの遺品をニックに届けにいく。そこには拳銃もあった。二人はかつての佐藤のアジトにあったスパンコールから、キャバレーに勤めるスパンコールを着る女が怪しいと考え張り込む。女は貸金庫から偽札一枚を取り出し一人の男に渡す。ニックらがその男をつけていくと、とある鐵工所で佐藤と菅井を発見する。松本が応援を頼みニックは佐藤に向かっていくが、すんでのところでニックは銃を持っていたことで応援の警官に押さえつけられる。

 

違法捜査を指摘されたニックはアメリカに強制送還されることになり、松本も停職になるが、ニックは旅客機から脱出して松本の元へ行く。しかし松本には協力する意思はなかった。ニックはジョイスから菅井の居場所を知り、直接交渉に行く。そして、佐藤を疎ましく思う菅井の代わりに佐藤を捕まえてやるという交換条件を出す。菅井は佐藤が盃をもらう儀式でヤクザの親分が集まる場所をニックに教える。

 

ニックは菅井にショットガンを貸してもらい現場で待ち受ける。そこへ佐藤が現れるが、最初から菅井にとって変わりつもりの佐藤は部下を配置していた。そこへ松本が駆けつける。松本が援護する中、ニックは佐藤との一騎打ちであわや殺せる寸前まで行くが、結局逮捕し松本と二人で警視庁へ佐藤を引き渡し、二人は表彰され、ニックはアメリカに戻ることになる。空港でニックは松本にプレゼントを渡す。そこには、佐藤を逮捕した際に見つからなかった偽札原盤が入っていた。こうして映画は終わる。

 

見せ場から見せ場に移る際の余計なシーンが一切ない無駄のない脚本と、光の反射と影を効果的に使った演出、さらに、全盛期の松田優作の寒気がするほどの恐怖感を見せるクローズアップなど、とにかくアクションエンターテインメントの基本が徹底されていく作りが見事。バブル全盛期の大阪の夜景も美しく、映像作品としても一級品に仕上がっています。面白かった。

 

マタンゴ

原案に星新一が関わっているだけあって、風刺の効いた作品に仕上がっていますが、やはり怪作ですね。B級テイスト満載のホラー映画だった。監督は本多猪四郎

 

煌びやかでサイケデリックな夜のネオンが輝く都会の片隅の窓から一人の男が向こう向きに、自分は精神異常者だと言われているが、正常だと訴えながら、ここに収容される経緯を語り始めて映画は始まる。

 

いかにも坊っちゃんお嬢ちゃん的な脳天気な若者たち七人がヨットで大海原を走っている場面に移る。小説家やその男に言いよる利益主義な女、冒頭で出てきた正義感あふれる医者、その男に連れてこられた女、ヨットの責任者だが、ヨットのオーナーに救われてこき使われている男、などなど曲者ばかり。上天気のはずだったが天候が変わり、嵐に巻き込まれて船は大破、霧の中漂流することになる。まもなくして島を発見、なんとか上陸するが無人島らしく誰もいない。

 

島の反対側まで歩いて見つけたのは巨大な難破船、しかも死体さえ無い。航海日誌からどうやらキノコを食べて誰もいなくなったらしい。船の中はカビだらけで、何やら放射能調査の跡が伺われる。夜中、突然顔中デキモノだらけの化け物がやって来る。船の中にわずかに残った缶詰を食糧に助けを待つことにするが、次第にお互いが利己主義と疑心暗鬼、さらに愛憎劇が繰り返され始める。

 

中の一人は修理中のヨットで逃げ出してしまう。一人は森に入って、茂っているキノコを食べてしまう。やがて食料は尽き、美味なキノコに手を出し始め、一人また一人と消えていき、最後に残ったのは医師と女だが、女がキノコ人間に連れ去られ、それを追って森に入った医師は、結局助けられず逃げ出して、戻ってきたヨットに乗って漂流して脱出し、冒頭のシーンに繋がる。医師たちが見守る中、檻の中の男は話を語り終わるとゆっくりと振り向く。彼の顔もキノコに毒され始めていた。こうして映画は終わる。

 

キノコが美味であるというのは、明らかに人間の欲望の暗喩であろう。そして、煌びやかなネオンは一見華やかに発展していく人間たちを皮肉ったものだし、キノコに毒されて醜く変わっていくのは明らかに風刺である。そんな深読みをさせるほどただにエンタメホラーに仕上げていないのはある意味東宝らしからぬ失敗作かもしれないが、一方でそれゆえに怪作として仕上がった気もします。面白かった。