くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「錆びた炎」「ドキュメントポルノ屋台売春」「TALK TO MEトーク・トゥ・ミー」

「錆びた炎」

一級品のサスペンスとまでは行かないものの、ミステリーとしてはなかなか面白い作品でした。中盤の身代金受け渡しのサスペンスから、クライマックスの真相に至る流れがなかなか鮮やかなのもいいし、刑事たちの描写が非常にリアルに描いているので、映画全体の厚みが出たように思います。難を言うと、見せ場見せ場のバランスのリズムと脇役に過去を丁寧に描けていれば傑作だったかもしれません。でもいい映画だった。監督は貞永方久

 

猫のアップから、ラブホテルで1人の男が女に首を絞め殺されるところから映画は幕を開ける。鳥籠に猫を入れて帽子を被った女を双眼鏡でじっと見ている若い男。その男が猫を連れた女に近づいてタイトルから場面は種村病院となる。ここに入院していた血友病患者の丸山和也という少年が行方不明となり、種村病院の院長誠一郎が対応している。警察が来て誘拐事件として種村誠一郎の自宅に張り込む。やがて犯人から連絡が来るが、身代金3600万円は誠一郎に払えと要求してくる。人の子供の身代金を払うことに難色を示す誠一郎だが、実は和也は誠一郎の息子光晴が和也の母丸山雅子に産ませた子供だという。

 

やがて金の受け渡し場所が指定され、持参するのにお手伝いの比佐子を指名してくる。血友病の治療の期限が迫る中、比佐子は金を持って犯人の指定場所へ向かうが、そこから地下鉄を次々乗り継いで警察は翻弄されていく。犯人は券売機の裏に点字で指示を貼り付けていたことから、比佐子の過去が表に出てくる。比佐子の恋人秋山は、かつて救急車で搬送される際病院をたらい回しされて死んだ過去があった。そのたらい回しした病院の一つが種村病院で、先日ラブホテルで殺された医師もまたたらい回しした病院の医師だった。受け渡しは地下鉄で、比佐子に近づいてきた男と、その後の金髪の女に渡す事で成功するが刑事はまんまとまかれてしまう。

 

まもなくして、金の受け渡しにきた若い男多木が殺されるに及んで、怪しいと思われていた猫を飼っている登志子のアリバイが徐々に崩れ、その背後に比佐子の存在が見え始め、ついに比佐子が犯人として浮かび上がり、逮捕が確定する。担当の遠丸刑事の息子もかつてたらい回しされて亡くなっていた。逮捕した比佐子を遠丸が事情聴取する。比佐子は全てを自供し、種村家の光晴の妻登志子に濡れ衣を着せようとカゴに入った猫を持ったり、登志子のふりをして電話に出たりしたのだと供述。しかし、登志子は比佐子が点字を読めることも、自分に罪を着せようとしていることも知りながら比佐子の事を黙っていたらしいとわかる。比佐子は収監され映画は終わっていく。

 

原作の面白さが十分に映像化できた作品だと思いますが、種村誠一郎の非道さや医療大学建設への野心の描写などが若干弱く、細かいところがやや雑な脚本で、ミステリーの面白さを中心に描いただけに終わった事で傑作とまではあと一歩足りなかった作品でした。

 

「ドキュメントポルノ屋台売春」

中編ながら、工夫された映像作りと凝縮された物語に、ロマンポルノ独特の切なさ、気だるさが出ている作品で、ちょっとした映画だったと思います。監督は鴨田好史。

 

おでんの屋台で、一人の女が座っている。どうやらつまらない男に騙されたらしく、屋台の主人がなだめている。傍にサラリーマン風の男が座っているので女が酒をねだり、そのままホテルに行く。男は妻との関係が冷めていて寂しい思いをしていた。こうして二人は関係するようになる。女の名は依子と言った。

 

屋台の親父の部屋で一緒に暮らす依子だが、親父には里子というどうしようもない娘がいた。クズのような男と付き合っている里子は何かにつけ金を父にせびりにくる。物語は依子が次々と男と関係を持ちながらも、依子に近づく冒頭の男と何気ない恋が芽生えてくる流れを描いていく。男は依子に一緒に旅に出ようというが、男の妻が妊娠して、約束の場所に行かなかった。依子はかすかに希望を抱いていたが結局待ちぼうけになり、いつもの屋台で店番をしている。里子が客の相手をしている。こうして映画は終わっていく。

 

依子が求める水晶玉のエピソードを終盤にちらほら挿入して、描かんとしたい何かを匂わせてくれるのですが、尺が短いというのもあり、描ききれなかった感じです。それでも、構図にこだわった画面作りはそれなりにクオリティを感じさせてくれる映画でした。

 

トーク・トゥ・ミー TALK TO ME」

評判通りの面白さでした。本筋に入ってからは緊張感が全く途切れずにオーバーラップするように次々と展開していく作りは絶品。映画としての完成度より、どうすれば観客を繋ぎ止められるかに徹したストーリー展開が見事で、結局ラストシーンで締め括ったのは不完全収束かその曖昧なエンディングも余韻と余計な推測を生み出して映画に繋ぎ止めたまま暗くなる。A級作品ではないかもしれないが、面白かったです。監督はダニー&マイケル・フェリッポウ。

 

一人の男が「ダゲッドどこに居る」と叫んで、一軒の家に入り部屋の扉を突き破る。どうやらこの男、のちにわかるがコールという男でダゲッドというのは弟らしい。ダゲッドを引き摺り出すが、突然ダゲッドはコールを刺し、自ら額にナイフを突き立てて死んでしまう。場面が変わると、女子高生のミアは友達のジェイドの弟ライリーを迎えに車で学校に行く。帰り道、車に轢かれて瀕死のカンガルーを見つけるが、楽にさせるために再度轢くことができず帰ってくる。

 

ミアはジェイドの家で家族同様に生活していた。ミアは、ジェイドに誘われてあるホームパーティにやって来る。そこでは「90秒憑依」という遊びが行われようとしていた。ある超能力者から切り取った片腕を握って「トークトゥミー」と叫び目の前に現れた霊に「イントゥミー」と叫ぶと憑依するのだ。しかし90秒を超えて憑依させると取り憑いてしまうというものだった。

 

早速、ミアが手を挙げて「トークトゥミー」と叫ぶと不気味な霊が現れ、「イントゥミー」と叫ぶと憑依して痙攣を起こしたようになってしまう。そんな様子を周りの若者たちは大騒ぎして楽しむ。そして90秒で手を離され、ミアは元に戻る。ミアの母は自殺だと父に言われていたが、ミアは納得していなかった。憑依された後、母の亡霊を見るようになったミアは「90秒憑依」の遊びに興味を覚えてしまう。そして少人数でもう一度やってみたいといい、ジェイドら親しいメンバーだけでジェイドの部屋で遊びをすることにする。

 

ジェイドは恋人のダニエルも呼び、入れ替わり立ち代わり憑依しては大騒ぎする。最後にライリーもやってみたいといい出すがジェイドは大反対する。しかし、50秒だけとミアが許したことがきっかけでライリーも「90秒憑依」に参加したのだが、なんと憑依したのはミアの母だった。聞きたいことがあるミアは最初の約束以上にライリーに憑依させたために次第にライリーは狂ったように自傷行為を始め大怪我をして入院してしまう。

 

入院して意識のないライリーの姿に母のスーもジェイドもやり場がなく落ち込みミアを憎むようになる。ミアは孤独になり、ダニエルに家に来てもらうが、夜中、亡霊が現れダニエルの足を舐め始める。それをみたミアが叫ぶと、なんと足を舐めているのはミアだった。ミアの周りには母の亡霊がうろつくようになり、父マックスに母の死の原因を問い詰める。マックスは、母は本当に自殺だったと母の手紙を見せる。ミアはライリーから霊が完全に抜けていないと、再度蝋燭を灯して儀式を終わらせようとするがうまくいかない。

 

自宅に戻ったミアに母の亡霊が現れ、マックスの言っていることは嘘だと話す。ミアの部屋の外ではマックスが激しくドアを叩いていたが、マックス本人はミアのカバンから片腕を取り出していた。ミアは部屋に飛び込んできたマックスに殺されそうになりもがくが、それは亡霊だった。その後、マックス本人がミアの部屋に飛び込み一人暴れるミアに駆け寄るとミアは鋏をマックスに突き立てる。

 

ジェイドはミアから、会いたいから家に来て欲しいと連絡をもらう。ジェイドがミアの家に行くと血だらけのマックスがいた。一方病院にやってきたミアにスーが言いすぎたと謝り、ミアをライリーの部屋に残す。ところがミアはライリーを連れ出す。急いで病院に戻ったジェイドはミアがライリーを車椅子に乗せハイウェイに向かっていた。そしてライリーを突き落とそうとするが、すんでのところでミアが落ちて車に跳ね飛ばされる。

 

ミアはなぜか病院の廊下にいた。マックスが向こうにいるが声をかけても返事はない。暗闇の中に蝋燭が灯る。ミアがその蝋燭に近づき手を握ると目の前に知らない男がいた。ミアは亡霊になったのか、こうして映画は終わる。

 

結局、ライリーは助かったのか、マックスはどうなったのか、超能力者の手はどうなったのか、その辺を一切語らずに映画が終わるので、何やらスッキリしないところもあるが、緊張感は全編半端なく、グロテスクなシーンより、ショッキング演出とムードだけで引っ張っていく作りが実に面白い。憑依をいわゆるドラッグによる幻覚と重ね合わせて作られたのだと思うが、若者たちが馬鹿騒ぎする様はかなり痛烈な皮肉に見える。B級ホラーとしてはオリジナリティある逸品でした。