くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「哀れなるものたち」「ミカエル」

「哀れなるものたち」

これまで身につけた知識や経験を全て捨てて、生まれたばかりの赤ん坊になって世界を見たときに見えてくるものを映像にしたあまりにもピュアな感覚に満ちた怪作だった。自分とは次元の違う才能のある人が作った映画はとにかく面白い。初めて見る世の中はファンタジックでリアリティなど全く関係のないお伽話の世界、近づいてくる大人たちは皆純粋に欲望をぶつけてくる。そんな世界を二時間余りで体験できました。非常に面白い作品だった。監督はヨルゴス・ランティモス

 

一人の美しい女性が橋の上から飛び降りる場面からカットが変わるとベッドのシーツを背景にしたタイトル、そしてモノクロ映像の中、顔中ツギハギだらけの男が、足元も危うい女性と話している場面に変わる。こうして映画は幕を開ける。医学校で手術の講義をしている天才外科医のゴドウィン博士は、見下ろす生徒の一部から揶揄されるが、マックスという生徒は博士の意見に賛同する。ゴドウィン博士はマックスを自宅に招く。

 

マックスがやってくると、一人の不思議な様子の美女ベラを紹介される。博士の邸宅では、鶏と山羊を合体させた動物や、奇妙な改造動物、さらには馬車に馬の頭だけ付いている乗り物などを見る。博士からベラの観察をするようにと申しつかるマックスだが、まるで幼い子供のように、食べ物を吐き、皿を割り、駄々をこねるベラに唖然としてしまう。ゴドウィン博士はベラを外に出さないようにしていたが、ベラは次第に家を出たがるようになり、ゴドウィン博士はマックスを伴って馬車で外出する。

 

邸宅に戻ったマックスはゴドウィン博士の書斎である研究資料を見つける。どうやら違法手術をベラに施したのではとゴドウィン博士に詰め寄る。そこでゴドウィン博士はベラ誕生の話をする。ある日、橋の上から妊娠した一人の女性が飛び降り自殺をする。流れてきた死体を見たゴドウィン博士は、まだ死後硬直もしていない死体を見て、赤ん坊の脳を母親の脳と入れ替えて蘇生させる手術を施す。ベラは自身の子供の脳を持った母親だった。

 

次第に成長するベラはSEXに興味を示し出し自慰ををするようになる。ゴドウィン博士はマックスに、ベラと結婚して欲しいと頼み、ゴドウィン博士は法律家の知人ダンカンに婚姻契約書を作らせる。ところがダンカンは拘束するだけの契約までするベラに興味を持つ。ベラの美しさに魅了されたダンカンは、持ち前の女好きでベラを連れ出すことにする。ベラはゴドウィン博士にダンカンの申し出を伝えるが、博士は、ベラのために、ダンカンについていくことを許す。

 

ダンカンはベラを連れてリスボンにやってくる。何もかもが夢見るほどに珍しいベラだが、ダンカンはひたすらベラとSEX三昧に耽る。しかし外の世界を知るに連れて、自由奔放に思うままに振る舞うベラにダンカンは辟易とし始める。自分から離れていくのに危惧したダンカンはベラをトランクに入れて船に乗せる。しかし船上でベラはハリーという黒人男性と出会い、立ち寄った港で、貧困に苦しむ人々を魅せられたことで、現実を目の当たりにしてショックを受ける。そしてダンカンがカジノで大儲けした金を、街に行くという船員に託して全て貧しい人に渡してしまう。しかし、結局騙されて金を持ち逃げされていた。

 

部屋に戻ったベラだが、手持ちの金を全て無くしたダンカンは悲嘆に暮れてしまう。船賃もなくなり追い出されることになったベラとダンカンはパリにやってくる。ベラはダンカンが嘆く姿を尻目に一人街に出て、娼館で、一人の男性と交わる。ダンカン以外との初めてのSEXに新鮮なものを感じ、さらにお金も手に入ったベラは、正式に娼婦として働くようになる。様々な男たちを知ったベラだが、娼婦になったベラをダンカンは汚れたものとして捨ててしまい何処かへ消える。

 

一方、ゴドウィン博士は新たな女性の人造人間を作りマックスと研究していた。ベラで失敗したので、感情移入を最小限にして、ピュアなままで育てようとするが、なかなか成長がままならない。ゴドウィン博士は癌にかかり、余命わずかだと知る。その様子をマックスはベラに連絡をする。父として慕うゴドウィン博士が死の床にあると知り、ベラはロンドンへ戻ってくる。娼婦となったベラをゴドウィンは否定することもなく受け入れ、マックスとの結婚式が執り行われるが、その式場に、アルフィーという男が現れる。ベラはがヴィクトリアという女性に瓜二つと見かけた男が知らせたのだ。ベラは、死ぬ前はヴィクトリアという名でアルフィーという男の妻だった。

 

アルフィーは強引にベラを自宅に連れ帰るが、アルフィーは異常なくらいの独占欲と男尊女卑の性格の持ち主だった。アルフィーがベラの生殖器を切り取るつもりだと話すのを盗み聞きしたベラは、自分にかけて手術するつもりだったクロロホルム入りジンをアルフィーにかけ、さらに銃で足を撃つ。ベラはアルフィーをゴドウィンの邸宅に連れ帰り、マックスに手当てをさせ、さらに、山羊の脳と入れ替えて屋敷で飼う。ベラは医師を目指すことにして庭で勉強をする姿のアップで映画は終わる。

 

傑作とか秀作とかいう評価の当てはまらない数ランク次元を超えた作品で、尋常ではない感性で描かれる稀に見る映像作品でした。

 

「ミカエル」

端正な構図の使い方と、三角関係の愛憎劇、巨匠画家の孤独などなどの人間ドラマが切々と描かれた見事な作品。こういう高級品は何度か鑑賞してその良さを丁寧に感じていくのが良いと思う、そんな作品でした。監督はカール・テオドア・ドライエル。

 

著名な画家クロード・ゾレは画家志望の青年ミカエルを養子にし、彼をモデルに絵を描いたりしている。そんなゾレは、あるパーティでザミコフ侯爵夫人と知り合う。肖像画を描いて欲しいという依頼を受け、本来受けないのだが、美貌の女性の絵に興味があるゾレは引き受けることにする。しかし、目がうまく描けず悩んでいると、ミカエルが加筆すると一気に絵が生き生きしてしまう。

 

ザミコフ夫人は若いミカエルを誘惑し、ミカエルは頻繁にゾレの邸宅からいなくなりザミコフ夫人と逢瀬を重ねるようになる。ゾレは外に出ずに自室に引きこもって次回大作に打ち込み、やがて完成するが、ゾレの体は衰えていた。しかも、ゾレの絵やスケッチをミカエルが持ち出すようになっていた。しかしゾレは全て彼に与えたものだからと責めなかった。

 

展覧会ではゾレの新作は成功して、批評も上々だったが、体力の限界がきてベッドに寝込むようになる。死を目前にしたゾレは、自身の財産は全てミカエルに与えると遺言を残す。師匠の危篤の知らせがなん度もミカエルに届くも、今更話すことはないとザミコフ侯爵夫人の家に籠ってしまうミカエル。まもなくしてゾレはこの世を去る。ゾレ死亡の知らせがミカエルに届き、ミカエルはゾレの屋敷に戻ってくる。ゾレは死の床で孤独の中に打ちひしがれ、死んだ後は、周りに何もない場所に埋めて欲しいと友人のシャルルに告げていた。こうして映画は終わる。

 

淡々と展開するようだが、ゾレの孤独がどんどん彼を蝕み、行き場のないものを絵にぶつけていく姿が痛々しい。ミカエルも若気の至りとはいえ、師の死によって何か成長したのではないかと思わせるラストは見事だった。