「悪魔のシスター」
死ぬまでに見たい映画の一本だったが、ようやく夢の一つが叶った。なるほどと思わせるヒッチコックタッチのカメラワークとバーナード・ハーマンの音楽、そしてマルチスクリーンを使ったカット編集のセンスはさすがにブライアン・デ・パルマ監督とうならせる作品だった。二重三重に重ねられていくサスペンスとホラー色、B級テイストの空気感、映画のリズム作りのうまさは絶品。本当に面白かった。
双子の胎児の写真をバックにしたタイトルから画面が変わると一人の逞しい男が座っているテレビ画面へ。男がいるところへ盲目の美女が現れ服を脱ぎ始める。ピーピングトムというクイズ番組らしく、男がこのあとどうするのかを当てるらしい。そして、男は何もしないという回答の後二人はスタジオへ。女性はモデルをしているダニエル、男性は宣伝マンのフィリップで、ダニエルには料理包丁のセット、フィリップにはレストランのペアチケットがプレゼントされる。
収録が終わり、スタジオの外でフィリップはダニエルを食事に誘いレストランに行く。そこでダニエルの元夫エミールという男が現れ声をかけるが、ダニエルが迷惑そうにするのでレストランの従業員に追い出してもらい、フィリップはダニエルを自宅に送る。ダニエルはフィリップを部屋に誘う。ダニエルの向かいに一人の女性がいてフィリップが窓から覗く。
外にエミールがいるのを見つけたフィリップは、一旦帰ったふりをして裏口から戻り、ダニエルとフィリップはベッドで抱き合うが、ダニエルの腰のあたりに醜い手術跡が見える。そして翌朝、ダニエルは洗面所で赤い薬を飲もうとするが四錠だして二錠飲んだところで別室から声が聞こえてきてそこへ行く。ダニエルの妹ドミニクがダニエルを非難している。騒がしい声に目覚めたフィリップは洗面所で着替えをし、その際、ダニエルがおいていた二錠の薬を流してしまう。
ダニエルがやってきて、今日はダニエルと妹のドミニクの誕生日でドミニクが機嫌が悪いのだという。そして、フィリップに薬を買ってきて欲しいと頼む。フィリップは薬を買った後、ダニエルが誕生日だと聞いたので誕生日ケーキを買いに店に行き、店員にケーキに名前を書いて欲しいと頼む。
ケーキ職人が、まだ来てなかったので店員がぎこちないながらも名前を入れるのをフィリップは待つ。その頃、残していた二錠の薬がなくなったダニエルは洗面所で苦しみ気を失ってしまう。そこへ、フィリップがケーキを持って戻ってくる。ベッドにはダニエルらしい女性がうつ伏せに寝ている。
フィリップはケーキとカットするナイフを持ってベッドに行くが突然女はナイフを持ってフィリップを襲う。フィリップは必死で逃げ窓に血でhelpと書く。それを向かいの女が見つけて慌てて警察に連絡する。フィリップは力尽きて死んでしまうが、そこへ、外で待っていたエミールが駆けつける。
洗面所で倒れていたダニエルがフィリップの死体を見つけ、エミールの指示で始末し始める。一方向かいの女グレースは警察を待っていた。画面はスプリット画面になり、エミールらが死体を片付ける場面とグレースが刑事とやりとりして、部屋に向かう場面を映し出す。刑事は新聞記者でもあるグレースに嫌な記事を以前載せられ、気分を害していて、グレースの言うようになかなか動かない。一方、エミールは死体をソファの底に隠し、床を拭き、証拠品をまとめて部屋を出る。
そこへグレースたちがやってくる。間一髪エミールが建物の外に出て車で去る。グレースたちはダニエルに部屋に入れてもらうが、殺人の証拠はどこにも残っていなかった。仕方なくグレースは部屋を後にしようとするが、冷蔵庫の中にダニエルとドミニクの名を書いたケーキを発見し刑事に見せようとする。しかし転倒してケーキを壊してしまう。証拠もなく、グレースたちはダニエルの部屋を後にする。
納得のいかないグレースは、食事の約束をしていた母の車に乗っている時、ケーキ屋を見かける。そこに寄ったグレースはケーキを注文した男の情報を得る。グレースは探偵ジョゼフを雇い、ダニエルを調査し始める。ダニエルの留守に探偵がダニエルに部屋に忍び込み、ダニエルの医療資料を手に入れる。
ダニエルが双子だったことを知ったグレースは、以前、双子の分離手術をした記事がライフに載ったことを突き止めライフに出向く。そこで、医師のエミールが結合双生児だったブルトン姉妹を分離した記事とその時のビデオを発見する。分離された姉妹のうちドミニクはベッドで亡くなり、ダニエルが心の中でドミニクと共存していることを知る。
その頃、死体が隠されたソファはダニエルの故郷のケベックへ持ち出され、ジョゼフはそのトラックを追っていく。グレースは、エミールとダニエルの乗る車を見つけ後を追うと、ある精神病院に辿り着く。グレースはその病院の外でエミールとダニエルを伺って、警察に電話をするべく室内に入ったところでエミールたちに見つかってしまう。
精神病患者にされてしまったグレースは催眠療法を施され、エミールから、死体など無かったこと、勝手に調査していただけであると思い込まされる。横にはダニエルが眠っていた。グレースは朦朧とする夢の中で、エミールがダニエルに恋心を抱いていること、ドミニクの心はダニエルに宿っていることを知るが、目が覚めたダニエルはメスでエミールを殺害すり。ダニエルは警察に連れて行かれ、グレースは刑事の質問に、死体など無かったとエミールに洗脳されたままを答えます。ケベックではジョゼフが、ソファの引き取り手が誰なのか電信柱の上で見張っています。こうして映画は終わります。
流麗なカメラワークや音楽の使い方などは明らかにヒッチコックタッチであり、さらに、スプリット画面で同時進行で二つの空間を見せていく面白さは絶品で、後のブライアン・デ・パルマスタイルが顕著に見られるサスペンスホラーの傑作でした。
「バッド・ルーテナント 刑事とドラッグとキリスト」
ヴェルナー・ヘルツォークのリメイク版とは全く違う作品ですが、胸苦しくなるほどの暗く重苦しい展開の中に、自身の弱さゆえに追い込まれていく主人公が、最後に宗教的な救いを見せる展開はなかなかの仕上がりの作品で、ここまでクソ刑事なら死んでしまえと思うほどの圧巻のハーベイ・カルテルの存在感、キリスト教を罵倒するような展開に飲み込まれてしまう映画でした。監督はアベル・フェラーラ。
刑事のLTが車で子供を学校へ送っていくところから映画は幕を開ける。二人の男の子を送り出した後、ドラッグを吸って、殺人事件の現場に行く。カーラジオからは野球の試合が流れていて、どうやら野球賭博に手を出しているのだが、賭けたチームが思うように勝たないので借金が膨らんでいる。
薬の売人からドラッグを買い、酒を飲み、女を抱き、たまたま免許証不所持の女を捕まえ猥褻なことを強制したりするクソ刑事である。しかし、自分としてもどうしようもなく、強がりを言いながらも自身の弱さに辟易としている。そんな時、シスターが教会で二人の男にレイプされる事件が起こる。しかし、被害者のシスターは懺悔室でも真犯人は知り合いの若者だというだけでそれ以上話さず、自分としては許したことを告げる。
そんなシスターの態度にLTはますます行き場のない気持ちになる。野球賭博はますます裏目に出て、仲買人にも見放され、これ以上の借金は命に関わると説得される。LTはさらに強いドラッグに手を出し、友人に三万ドルを借りるが、どうしようもなく堕ちていく。LTは教会で祈るシスターのところへ行き、復讐してやるから名前を明かせというがシスターは、彼らを許したからと取り合わない。
やり場のなくなったLTはその場で号泣するが、振り返るとそこにキリストが立っていた。LTはキリストの足元に口をつけるが見上げると、そこには聖杯を持った黒人の女がいた。シスターをレイプした犯人は聖杯を持って逃げたことから、その女に犯人の居場所を聞く。向かいに住む黒人二人と知ったLTはそこへ行き、二人に手錠をかけ、遠距離バスの停留所へ連れて行き、三万ドルを与えて手錠を外してバスに乗せる。そして、自身の車に戻るが、横付けした車から銃で撃たれる。こうして映画は終わる。
終盤までかなりドギツイ描写を繰り返し、観客の目を釘付けにしていった末に、最後の最後で神の救いを受けたかの展開で幕を閉じるという作劇のうまさ、演出の力強さは圧巻で、リメイク版とはまた色の違った傑作だと思いました。