くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「悪の紋章」「千年女優」

「悪の紋章」

話の風呂敷を広げすぎたという感じの作品で、次々と登場してくる人物が入れ替わり立ち替わり主人公に絡んでいくのだが、そのそれぞれが悲劇の末路へ向かい、肝心の、きっかけになる復讐劇がどこ吹く風で吹っ飛んでしまうクライマックスには失笑さえ浮かんでしまう出来栄え。面白いというより滑稽な珍品映画だった。監督は堀川弘通

 

多摩川に一人の全裸の女性死体が流れている場面から映画は幕を開ける。犯人捜査はお蔵入りになりかけるが、菊池という警部補が執拗に捜査した結果、微かな糸口が見え始める。ところがその矢先、署に戻った菊池は、花井という薬の密売人が菊池という刑事に便宜を払ってもらい、見返りに金を渡したという容疑で詰められる。

 

金を受け取ったのは菊池の妻で、派手好きな女だった。菊池ははめられたと思うが、実刑で二年間刑務所に入れられる。出所してきた菊池は、たまたま電車の中で女がスリに定期券をすられる現場を目撃し、スリから定期券を取り上げる。菊池は知り合いの松野の探偵事務所に稲村という名前に変えて就職する。そして花井を探すがすでに殺されていた。

 

ある時、浅井節子という女が自殺未遂したという記事を見つける。その女は稲村が取り上げた定期券の持ち主だった。稲村は節子に連絡をして定期券を送る。稲村が自宅に戻ってみると節子が待っていた。節子は日進商事で柴田社長の秘書をしていたことがあった。稲村は節子と交際するようになる。その頃、稲村は高沢光江という女の素行調査を依頼される。光江は高沢コンツェルンの二代目会長重治の妻で政界の大物海老原の娘だった。しかも、高沢コンツェルンは日進商事にも関わりがあった。

 

光江を追って山中温泉に行った稲村は、重治が二年前の殺人事件に関わった日進商事社長柴田と会っていたことを突き止める。日進商事に出向くが、社長は二年間海外出張したままだと専務の江口に聞かされる。東京へ戻った稲村は節子からの情報で高沢コンツェルンの先代会長重光が脳卒中を起こした際、柴田と重治がその場にいて、二人で共謀して殺したのではないかと疑い、調査するうちに三人が泊まった別荘の女中が二年前に多摩川で死体となった女だと判明する。そして、柴田は重光を殺した際の現場写真を撮って重治を脅していたらしいと突き止める。

 

稲村は柴田がトランク一つ持って松江に行ったことを突き止め、さらに秋吉台で柴田の死体を発見する。稲村は、柴田を殺した犯人が現場に戻るように偽手紙を出し、誘き寄せて犯人を待つが、現れたのは節子だった。節子は、以前高沢コンツェルンの重治との結婚話があったが、結局、破談となったことがあり、高沢は柴田を使って節子を殺そうとしたが、節子は親友の山口に柴田を殺させ、さらに山口を殺したのだ。節子の定期入れには柴田と重治が重光の体を揺すって死に至らしめる写真が入っていた。稲村は九十九里浜に節子を連れていって自殺させる。

 

稲村は重治の事務所に行き。写真で金を再三要求するが、重治が稲村に求める金額の提示をしないため、重治をさらに追い詰めたことで重治はとうとう自殺してしまう。それを病死と偽装した光江は父海老原に報告する。しばらくして稲村は海老原を訪ね、重光殺害の証拠写真をつき受ける。松野を訪ねた稲村=菊池は松野から、復讐劇がいつの間にか悪の紋章が張り付いた悪魔の如くなっていると告げられ、愕然としたまま何処かへ去って映画は終わる。

 

二転三転というより、あれよあれよと話が膨らんで収拾がつかなくなっていく展開で、節子が死体を鋸で切り刻む場面や、海老原が狂い始める場面、光江の不遜な笑いの場面など、何が何だかわからなくなってしまいます。結局、菊池が豹変していく様を描かんとしたのでしょうが、広げすぎたストーリーをまとめきれずにラストシーンにこじつけた感じの作品でした。

 

千年女優

目眩く時間と空間を駆使したリズム感に酔いしれていく傑作アニメでした。絵の美しさと軽快なテンポが絶妙で、一人の男性を一途に追い続けるだけのシンプルな物語が一つの映像として昇華していく様は絶品でした。監督は今敏

 

地球を臨む宇宙の一角、何やら宇宙基地からロケットが発射されようとしていてそのロケットに主人公の女性が乗り込むところから映画は幕を開ける。そしてその映像を編集している男、立花のカットへ進んで、場面が変わると、銀映という映画会社の撮影所が壊されていく場面となる。

 

立花は若い頃から大ファンだった一人の女優藤原千代子のドキュメンタリーを企画していて、この日、三十年前に引退した千代子とのインタビューの予定があった。立花はカメラマンと千代子の家にやってくる。そしてこの日、立花は長い間預かっていた千代子の大切な鍵を返す。千代子はその鍵を手にした若き日、まだ女学生で女優への道を進む前に時間が遡る。

 

映画は、戦前の女学生時代、道で一人の若者と追突し、その若者を、追ってきた役人から逃してやり、自宅の蔵に匿う。千代子はこの運動家らしい若者に惹かれ、若者は絵を描いているが、将来北海道の雪原で絵を仕上げたいと話す。そして、別れ際千代子に、大切なものを開く鍵だと一本の鍵を手渡す。千代子は銀映の専務に女優にならないかとスカウトされていたが親の反対で躊躇していた。しかし、若者が満州に行ったらしいと聞いて、満州での映画の撮影に行きたくて映画会社に入る。

 

映画は、ここから、千代子が出演した映画のシーンの中に立花らも入り込んで、千代子が若者を一途に追い続ける様と、いく先々で千代子の前に立ちはだかる役人の姿を描いていく。さらに若き日の立花は銀映で働くことになり、次第に千代子の側に立てるようになっていくが、ある時、撮影中に地震が起こり、立花が身をもって千代子を助けた際、千代子はそれまで大切にしていた鍵を落とし、立花が拾っていた。

 

ドキュメンタリーの撮影も終盤にかかった頃、地震が起こり、千代子は体調を崩して入院してしまう。千代子を見舞った立花は、終戦直後、千代子の撮影現場に来たかつての役人が立花に話したことを思い出していた。その役人は。捕まえた運動家を拷問して死なせてしまい、それを謝りに来たのだという。千代子は、すでに亡くなっていた若者の幻影をひたすら追っていたのだ。千代子は病室のベッドで、自分はこれからもあの若者を追い続けると言って、冒頭のロケットに乗り込むシーンに変わり旅立って行く場面で映画は終わる。

 

若き千代子の前に現れる謎の老婆は、明らかに「蜘蛛巣城」で出てくる魔性であるが、それ以外にもさまざまな名作映画へのオマージュシーンと千代子の出演映画を被せる手法を多用していく。それでも、映画全体のリズム感が抜群で、あれよあれよと物語が進んでいく様がとっても楽しい。アニメ映画としての完成度の高さを堪能できる一本でした。