くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「吸血鬼」(カール・テオドア・ドライエル版)「サイレントラブ」

「吸血鬼」

影と多重露出を効果的に利用した演出が不気味さと幻想的な味わいを描き出したなかなかの秀作。恐怖を煽る一方で、サスペンスフルなテンポの良さを生み出すカット割りも面白く、若干、わかりづらいところもあるのですが、コンパクトな尺で描くゴシックホラーとしては見応えのある映画でした。監督はカール・テオドア・ドライエル。

 

アラン・グレイがとある川辺のクルタンピエール村にやってくるところから映画は幕を開ける。何やら不気味な雰囲気を醸し出す村で、なかなか寝付けないアランは、ドアから一人の男が入って来るのを目撃する。その男は、「私の死後開くように」と書きこんだ包みを置いて消えてしまう。夢か幻か、アランはその包みを持って部屋の外に出て、近くの屋敷にやってくる。そこには、先ほど部屋に来た男が住んでいたが、まもなくして亡くなってしまう。

 

屋敷にはジゼールという娘がいて、アランは一目でその娘と恋に落ちてしまう。ジゼールにはレオーネという姉?がベッドで寝込んでいる。アランは預けられた包みを開くと本が入っていた。そこには、吸血鬼にまつわる伝説が描かれていて、アランはその本に魅入られていく。この世に未練を残した死人たちはこの世に影となって彷徨っているという。

 

レオーネの首には猫に噛まれたかのような傷跡があり、どうやら吸血鬼の仕業らしい。この家の老僕は、医者を呼びに行き、まもなくして義足の男を連れた医師がやってくる。実はこの二人は吸血鬼の僕だった。医師は、レオーネには輸血が必要だと提案し、アランの血を採血する。採血した後アランが眠っている間、老僕がアランの本を読み進めていく。

 

ところが、レオーネが庭を歩いているのを見かけたアランは庭に出てベンチに座ると、アランの影が分かれて、レオーネの後を追う。一方、本を読み進めた老僕は、かつてクルタンピエール村では疫病が蔓延し大勢が亡くなったことが記され、その原因は吸血鬼だと判明する。そしてマルグリット・ショパンというのが亡くなった際に教会は埋葬を拒否しそれが吸血鬼の大元だと記されていた。そしてその墓を暴き、杭を打てば呪いが消えると書かれていた。

 

その頃、医師はレオーネに毒薬を飲ませて自殺させようとしていた。自殺すれば教会は彼女を罪人とし、天国の門が閉ざされて、吸血鬼の僕となるためであった。老僕はすんでのところで自殺を止め、杭を持ってショパンの墓を目指す。アランの影は医師がかつて一人の死体を教会に逆らって埋葬する姿を見ていた。アランが医師らを追っていくと、老僕が杭を持って現れ、墓を開いて杭を打ち込む。

 

レオーネは意識が回復し、夜明けと共に元気になる。義足の男は階段を落ちて死んでしまい、医師は逃げるが、粉挽小屋に閉じ込められ、粉に埋もれて殺される。拉致されていたジゼールを助けたアランは森を抜けて、無事脱出して映画は終わる。

 

この世に苦痕を残して彷徨う霊などを影で描いて、背景と組み合わせて不気味な雰囲気を醸し出し、それがアランの周りで繰り返し描かれて、アランが見る幻想的な恐怖感を増幅していきます。アランが巻き込まれる恐怖の中で、本の解説を効果的に組み合わせて物語を繋いでいく演出も上手い。七五分の中編レベルの映画ですが、凝縮された絵作りに感心してしまいます。見事な作品でした。

 

 

「サイレントラブ」

浜辺美波を目当てに行っただけで、作品はそれほど期待していなかったのですが、メチャクチャにのめり込んで泣いてしまいました。終始、胸を締め付けられる切なさが繰り返されるので場内がどんどん静かに沈み込んでいく雰囲気に持っていく演出が見事。少々エピソードを詰め込みすぎたきらいはあるものの、脚本の組み立てとカット割りのリズムで映画全体の配分を観客目線で組み立てていったのが良い。ラブストーリーのエンタメ映画はこうでないといけません。しかも、浜辺美波、ちょっと色気が加わってきて、映画を際立たせているし、山田涼介も、全くセリフがない中頑張っている。脇役も必要以上に見せない演出も上手い。傑作とは言いませんが、なかなかの佳作だった気がします。監督は内田英治

 

音楽大学の屋上で看板のペンキを塗る蒼、そこへ、一人の女子大生が駆け上がってきて飛び降りようとするので慌てて蒼が抱き止める。その際、女子大生の鈴が落ちる。女子大生の名は美夏、交通事故で視力を失い、手も怪我をして、ピアノが弾けなくなって絶望していた。落とした鈴は目の不自由な人が持つ鈴だった。蒼はその鈴を拾うが、美夏は母親らに連れ去られていく。

 

蒼はこの大学の清掃の仕事もしていたが、たまたま相棒と担当を変わった際、古い講堂にあるピアノを弾く美夏を見かける。そして、ある日、講堂の鍵を開け忘れた蒼がやってきた美夏を入れてやるために鍵を開けたことがきっかけで、蒼は美夏と知り合う。その際、美夏はてっきり蒼もピアノ科の生徒だと勘違いしてしまう。それから、蒼は美夏の目になって何かにつけて美夏と会うようになるが、蒼は喉に怪我をしていて言葉を発せられなかった。

 

ある夜、蒼は友人の中野らと晩御飯を食べた帰り、ポルシェを見かけ、その所有者の北村という男と出会う。後日、講堂で見事にピアノを弾く北村を見かけた蒼は、金を払うので自分の代わりに美夏の前で引いて欲しいと頼む。北村は裕福な家の次男だが、闇カジノにはまり金に困っていた。何かにつけて貧乏人を蔑む北村はカジノでも借金を重ねトラブルを起こし、闇カジノの運営者にも目をつけられていた。

 

夜のバイトを増やして寝る間も惜しんで働く蒼を心配した中野は、蒼の働く大学までやってきて、北村に金を渡す蒼を見てしまい、てっきりゆすられていると勘違いしてしまう。ある日、美夏と北村、蒼は北村の車でドライブに行く。突然の雨で雨宿りするコテージに来たが鍵が開いていない。蒼が管理人のところへ行った際、開いているドアから北村と美夏は中に入るが、美夏は、自分にピアノを聴かせてくれているには北村だろうと言う。しかし、自分が気がついているのは蒼に言わないように頼むが、その健気な姿に北村はつい美夏に口づけしてしまう。そこへ葵が戻ってきて二人の姿を見てしまい、そのまま雨の中飛び出してしまう。蒼は、学生時代、喧嘩をして、中野を守るために喉を刺され、さらにその相手を刺し殺して警察に捕まったことがあった。

 

コテージでのトラブルの後、蒼が落とした鈴はを拾った北村は美夏を待っていたが、そこへ、黒いバンが現れ、北村と美夏を拉致して走り去る。蒼はいつものように仕事をしていたが、そこへ中野がやってきて、知り合いのチンピラに北村と美夏を痛い目に合わせるように頼んだと告げる。蒼は中野のバイクを借りて、北村らが拉致されている場所へ向かおうとするが、大学構内で盗撮事件が起こり警察が来ていて、呼び止められてしまう。しかし、蒼の相棒の柞田が蒼を逃してやる。

 

一方、北村はチンピラらにリンチされ、手を抉られて瀕死の状態だった。美夏もあわやと言う時、蒼が駆けつける。蒼はレスリングを習っていて相当な腕前だった。チンピラを倒していくものの多勢に無勢で、次第に追い詰められていく。目の見えない美夏は手にしたパイプを振り上げて襲いかかっていく。美夏が気がつくと誰もいなかった。

 

北村は重症で病院へ行き、蒼は傷害で逮捕されてしまう。美夏がパイプで殴ったのは北村だったが、蒼が罪を被ったらしい。美夏は蒼に面会に行くが蒼の態度は変わらなかった。面会から出てきた美夏に蒼の伝言を受け取った中野が美夏に葵からの言葉を届ける。美夏の目は少しづつ回復し始め、この日、北村の尽力でコンサートが開かれる。コンサートの後、北村は、蒼が出所した後の居場所を知っていたが美夏を失いたくないため伝えなかったと詫びる。

 

港湾作業の現場で蒼は働いていた。一台のタクシーから降りてきた美夏は、作業員の中蒼を呼ぶが、蒼は答えようとしない、しかし、ちぎれて落ちた鈴の音に気づいた美夏が拾おうとするがトラックが迫ってくる。危うく美夏を助けたのは蒼だった。二人は水溜まりの中で見つめ合い、口づけをして映画は終わる。

 

少々、細かいエピソードを詰め込みすぎたのと、美夏と北野の背景が描ききれていないために、一昔前のありきたりの恋愛ドラマに見えなくもないが、細かいフラッシュバックを効果的に使った描写のテクニックを駆使した構成で、見ている私たちを画面に釘付けにしてしまうのは上手いと言うほかありません。一級品とは言えないまでも、よく仕上げられた映画だと思います。