くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「FEAST 狂宴」「52ヘルツのクジラたち」

「FEAST 狂宴」

題名から、もっと奇抜で、突拍子もない映画なのかと思ったら、崇高な宗教観を伴った、ちょっと高尚な作品だった。と思うが、果たして理解できているのかは自信がない。食をモチーフに人々の生きる道徳感や宗教観を俯瞰で見下ろすような映画だった。監督はブリランテ・メンドーサ。

 

フィリピンの市場、食堂を経営するアルフレッドと息子のラファエルが食材を選んでいる。高価な蟹を躊躇なく購入するところから、かなりの裕福な家庭らしい。一方、マティアスと娘も食事の材料を選んでいるが、高価なものに手が出ずに手に入れられるものを物色しているところから、どちらかというと貧しい家庭のようである。

 

買い物を終えたアルフレッド達はトラックで帰路についたが、ラファエルの娘アデリーヌから電話が入る。アルフレッドが一旦出るが、ラファエルに変わろうとする。彼らの前をマティアスと娘がバイクで走っていたが、娘が卵を忘れたというので急にUターンして引き返そうとする。そのタイミングでラファエルが電話に視線を移し、前のバイクを撥ねてしまう。

 

マティアスと娘は血だらけで横たわるが、アルフレッドはラファエルと運転を代わり、自分が運転していたことにしてその場を去る。自宅に戻り、レストランの準備をし始めるアルフレッド達。アルフレッドはラファエルに、被害者の親子の病院での様子を見に行くように言い、自分は妻エルースに事情を話し弁護士に相談する。マティアスはICUに入り意識がなかったが娘は軽傷で済んでいた。ラファエルはアルフレッドに言われた通り、治療代を立て替えて帰ってくる。マティアスの妻ニータは、延命処置を拒否してマティアス安楽死させてやる。

 

ニータは事故について告訴し、アルフレッドの家にも警察がやってくる。アルフレッドはラファエルに後を任せて自分は出頭する。ラファエルはニータの家に行き、自らキリストの磔の儀式を行い、ニータらを自身の食堂で雇うことになる。この展開はちょっと理解できない部分です。一方アルフレッドは二年から四年の禁固刑を言い渡される。

 

ニータ達家族はエルースの店で働き始め、安定した生活をするようになっていた。しかしラファエルは、ずっと罪悪感に苛まれていた。アルフレッドの兄夫婦の金婚式の食事会で、ニータやエルースは夫がいた頃の幸せな日々を回想する。ラファエルの元妻シェリーは娘のアデリーヌと暮らし、ラファエルとは別居していた。クリスマスの日、シェリーは新しい夫マルコと一緒に戻ってくる。そしてエルース達にプレゼントを渡し、アデリーヌにラファエルと過ごさせるが、帰り際、ラファエルはもう一度やり直そうとシェリーにいうがシェリーは受け入れなかった。

 

ラファエルは教会で事故を起こしたことを懺悔し、さらにニータにも真実を告白する。やがてアルフレッドが出所する日が来る。ニータはこれ以上ないくらい豪華な手料理を作ってアルフレッドを迎え、エルースやラファエルら家族は幸せを取り戻したように歓談、それを見つめるニータら家族の姿で映画は終わる。

 

罪を犯すことは仕方ないが、それを真摯に受け入れ、常に誠実に振る舞い、愛を持って人を愛すべきだというキリスト教の教えを映像として昇華させた感じの作品で、劇的なドラマよりも人間の心の静かなうねりを描いたちょっとしたハイレベルの作品だったと思います。

 

「52ヘルツのクジラたち」

原作がいいのかもしれないが、脚本の組み立ても絶妙の構成だし、演技陣の迫力が端役に至るまで圧巻で、どんどん物語に引き込まれ、深みのある物語に胸が締め付けられていきました。映画のクオリティは最近の成島出監督作品の中ではダントツだったと思いますが、いかんせん暗いのがたまに傷でしょうか。でもいい映画を見ました。

 

海に向かって六角形のベランダが伸びた一軒の家、ベランダの補修に来ている地元工務店の村岡に、この家に引っ越してきた貴瑚が休憩の声かけをして映画は始まる。この家にはかつて芸者上がりの婦人が住んでいたと村岡が言うので、それは自分の祖母だと答える貴瑚。桟橋に出た貴瑚はイヤフォンを耳にする。傍に岡田安吾が現れるが幻である。貴瑚が聞いているのは52ヘルツで歌う鯨の声だった。音域が高すぎて他のクジラに聞こえないのでその声で鳴くクジラは孤独なのだという。

 

突然の雨で駆け出した貴瑚は突然倒れてしまう。そこへ髪の長い少年が傘を差し掛ける。貴瑚が礼を言うが少年は声を出さないので自宅に連れ帰る。そしてお風呂に入れようち服を脱がせると、少年の体は傷だらけだった。貴瑚が問い詰めると少年はそのまま雨の中飛び出してしまう。貴瑚の腹にも刺し傷の跡があった。翌日、貴瑚が少年を探すが、通りかかった村岡から、多分琴美の子供だろうと言うことで琴美のバイトする食堂へ向かう。しかし琴美は自分に子供はいないと平然と答える。

 

後日、少年が一人貴瑚の所にやって来たので、貴瑚は少年を家に入れてやる。琴美の所に行った貴瑚だが琴美は男といちゃついているだけで、子供のことは知らないと貴瑚を罵倒する。

 

三年前に遡る。貴瑚は病気で寝たきりの義父の面倒を見ていたが、誤飲させてしまい病院へ連れていく。医師に誤飲肺炎を起こしていると言われる。それを聞いた母は貴瑚を殴り、父ではなくお前が死ねばいいと罵倒する。

 

死ぬつもりでフラフラ道を歩いていてトラックに轢かれかけた貴瑚は親友の牧岡美晴の職場の同僚岡田安吾に助けられる。美晴は貴瑚を飲みに誘い、貴瑚を励ます一方、安吾は貴瑚の境遇を改善するために力になると提案する。後日、三人は役所や施設を周り、貴瑚の義父の処遇を決めて貴瑚の母に会いにいき、貴瑚も家を出る決心をし、自分の名をキナコと呼ぶことにする。そしてその後、三人は何かにつけ親しく付き合い、いつしか貴瑚は安吾に好意を持つようになり告白するが安吾は大切な友達でいようと言う。安吾は実は女性で、ホルモン注射をして男性になろうとしていた。

 

現在、貴瑚は少年を引き取り、琴美以外の肉親を探すべく問い詰めると、ちさと言う女性の存在を知る。そんな時、突然姿をくらました貴瑚を探して美晴がやってくる。美晴は貴瑚が引き取った少年の世話を一緒にすると言って、ちさと言う女性を探しに行って家を見つけるが、向かいに住む女性から、ちさは少年の叔母にあたる人で、少年の名は愛と言うと言われる。ちさは抗がん剤治療をしていて、髪の毛がなくなったので、愛が髪の毛を伸ばして鬘を作ろうとしたらしい。琴美は愛の舌にタバコを押し付け、以来愛は話さなくなったらしい。琴美は手当をもらうために無理やり愛を連れ出したらしい。

 

二年前、貴瑚は配送センターで働いていたが、食堂で食事をしている際、同僚が喧嘩をしてそのとばっちりで大怪我をし入院してしまう。そこへ会社の専務をしている新名主税が見舞いにくる。まもなくして新名は貴瑚に告白し付き合うようになる。貴瑚は友人の美晴と安吾を紹介するが、新名は安吾に嫉妬するようになる。しかし、新名は貴瑚に高級マンションをプレゼントして順風満帆な人生になっていく。

 

一年前のある日、安吾は貴瑚を待ち伏せ、新名とは別れた方がいいと勧める。新名は貴瑚を不幸にすると言うのだ。しばらくして、新名は取引先の社長令嬢と婚約が決まったと言う噂が貴瑚の耳に入るが、新名は結婚しても貴瑚との関係は変わらないと抱きしめる。ところが、貴瑚の事を密告する手紙が新名の家に届き、婚約者もその両親も激怒し、新名は専務を解任されてしまう。新名は安吾が手紙を出したことを知り、実は女性である事を突き止め安吾の母典子を呼びつける。何も知らない典子は安吾の姿にショックを受け、長崎に一緒に帰ろうと提案、安吾も受け入れる。

 

貴瑚が安吾の家にやって来ると、外出していた典子に出迎えられる。そして部屋に入った貴瑚は安吾が書いたらしい遺書を見つける。安吾は浴室で自殺していた。安吾は新名宛にも遺書を残していた。貴瑚はバスの中でその遺書を読む。そこには新名に、貴瑚と別れて欲しい旨、それができないなら貴瑚だけを見て欲しいと書かれていた。自宅に戻ると、新名が酔い潰れていた。貴瑚を非難する新名に、貴瑚は安吾が自殺した事と新名宛の遺書を手渡す。しかし嫉妬心に取り憑かれた新名は遺書を焼いてしまう。貴瑚は包丁を取り自らの腹に突き刺す。

 

現在、貴瑚の家に村岡とその母サチエがやって来る。貴瑚が琴美の子供を預かっていることが噂になり、このままだと誘拐事件になると言うのだ。貴瑚と美晴は愛を養子にするべく奔走し始める。そんな貴瑚に愛は「キナコ」と貴瑚の愛称を呟く。貴瑚は桟橋で愛と一緒に鯨の声を聞いていると海の彼方に巨大な鯨が現れる。美晴と貴瑚は愛の髪の毛を切ってやる。この日、東京に戻る美晴を交え、村の人たちがバーベキューをしてくれた。貴瑚は美晴に、これからもずっと友達だと告げる。孤独な鯨たちはいつのまにか自分の声を聞いてくれる仲間を見つけたのだ。こうして映画は終わる。

 

もっともっといい映画になる余韻は残されているのですが、この作品はここまででも十分に原作のメッセージは表現できていると思います。ちょっと出るだけの西野七瀬も素晴らしいし、安吾役の志尊淳もなかなかの存在感、最近この手の役に出るようになった杉咲花も見事な演技を見せています。映画の出来栄えのバランスが実に良くて、なかなかの秀作だった気がしました。