「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」
若松孝二のプロダクションの黎明期を描いた第一作の続編ですが、めちゃくちゃ面白かったし、ものすごく良かった。生映画という表現がぴったりの生き生きした映画世界に浸ることができました。主人公のみならず脇役も生き生きしているし、とにかく古き良きバイタリティ溢れる映画の一時代を新鮮に描き切った青春映画だった。監督は井上淳一。
1982年、ハンディのビデオカメラが発売された頃、映画好きな木全はこの日も学校でカメラを回していた。文芸座に勤務していたが結婚のために名古屋に移り住みビデオカメラの販売の仕事をしていた。木全が家に帰ると妻から、若松孝二から電話があったと知らされる。折り返し電話をし、若松監督と会った木全は、若松孝二が名古屋で開館する映画館シネマスコーレの支配人になって欲しいと言われる。
木全は妻と相談し、もう一度映画館の支配人になる事にするが、ミニシアター系の作品ではみるみる経営が悪化していく。ここに映画研究部で映画を撮っているが、今一つ目標が見えない金本法子は、シネマスコーレのアルバイト募集に応募して来る。そんな映画館に、若松孝二の大ファンで、末は若松孝二のもとで助監督になりたいという希望の井上淳一はこの日もシネマスコーレにやって来る。そしてとうとう若松孝二と出会う。
井上は若松に、是非助監督にして欲しいと懇願するが、若松はまずは大学へ行けと諭され、そのまま東京行きの新幹線に乗り込んでしまう。井上は河合塾に通う浪人生だった。駅まで見送りに行った井上はそのまま新幹線に乗り若松の後を追いかける。そんな井上を恨めしく思う金本だった。井上は若松に、とりあえず大学に入り四年の間若松プロで映画の勉強をすれば監督になれると言われる。
やがて井上は早稲田に合格し、若松プロで助監督として仕事をするようになるが、何かにつけ失敗ばかりで若松に罵倒される日々だった。悩んだ末名古屋に戻ってきた井上に若松から電話が入る。そして、木全や金本と焼肉を食いながら若松は映画の面白さを熱く語るのだった。
井上が通っていた河合塾には全共闘上がりの先生がいた。井上はその先生を若松に引き合わせるべく動く。そして話の中で、来年の河合塾に宣伝映画を作る事になり、若松は井上に監督をするように勧め脚本を書かせる。何度も若松のダメ出しの後ついに脚本は完成、撮影が始まるが、いざ始まると、若松のダメ出しが横行し、結局若松が主導権を握った撮影で映画が完成してしまう。
塾生らの前で上映された後の挨拶で、若松は通り一遍の挨拶の後井上に譲るが井上は複雑な思いでとりあえず挨拶をする。そしてシネマスコーレにやって来ると、屋上から金本が呼ぶ。落ち込んだままの井上が登って来ると、金本は自分は在日外国人で、妹は外国人登録の指紋を押さないと言っているなどと話をする。そこへ木全も上がって来る。そんな木全と金本に井上は、タダで起きないために転ぶ、そんな言葉を普通に語れるように成長していた。下で若松孝二に呼ばれ、三人は降りる。
時が過ぎて2012年、この日シネマスコーレでは若松孝二追悼上映が行われていた。新しい支配人らが壇上で挨拶をし映画は終わっていく。
とにかく生の映画を生で見る体験ができたとっても楽しい映画だった。主人公たちの青春ドラマでもあるし、若松孝二の素の姿を垣間見せられる映画でもあるし、全体のテンポも心地いいし、相当な佳作でした。見て絶対損のない一本でした。
「RED SHOES レッド・シューズ」
もっとつまらない普通の映画かと思っていたら、思いの外いい感じの映画だった。本物のバレエシーンが圧巻だし、冒頭のつかみからのテンポがいいので、最後まで飽きずに見ることができる。少々描写の甘いところがないわけではないけれど、さらりと流してみる分には十分な娯楽映画でした。楽しかった。監督はジェシー・エイハーン、ジョアンヌ・サミュエル。
バレエ「赤い靴」のステージシーン、プリマドンナのサムが控えで出番を待っていると電話が入る。電話の相手は姉のアニーで、本来彼女がプリマドンナのはずだったが、有名チームからスカウトされて抜ける事になってサムが入ったのだ。激励を送るアニーと話をしていたサムだが突然電話の向こうの異変を知る。アニーが交通事故に遭ったらしい。泣き崩れるサムのカットから場面は半年後、サムは親友のイヴと化粧品店に入り万引きをしている。しかし店長に捕まり、イヴとサムは社会奉仕をすることになる。
しかし、サムの母は強引に以前いた国際バレエスクールに転校させ、そこで校内掃除をさせる事にする。イヤイヤながらサムはかつての仲間の練習を見ながら掃除に励む。ところが、今回公演のプリマドンナグレイシーが稽古中に怪我をし、サムが急遽練習に参加する事になる。アニーへの思いが抜けないサムは最初は全く身が入らず、演出のハーロウに罵倒されるままだったが、ふとしたきっかけで、もう一度ステージに立つ事にして練習に励み始める。
そんな頃、イヴの父が入院し家を追い出される事になり、落ち込んだイヴはサムに救いを求めるがサムは稽古が忙しく、イヴはサムから離れていく。しかし公演が迫った日、グレイシーが医師の許可が出て戻って来る事になる。ハーロウはサムを呼んで、かつての自分の舞台を見せ、群舞で参加して欲しいという。サムは踏ん切りをつけ、イヴと仲直りし、戻ってきたグレイシーを激励していよいよ本番となる。
しかし、グレイシーが舞台中盤で踊れないと言い、サムが急遽プリマドンナとして踊る事になる。かなりむりのある展開である。そしてステージは絶賛の中終焉し、サムはアニーの名を書いた赤い靴をステージ中央に置きロビーに降りて両親やイヴ、友達のフレディらに絶賛される。そしてサムの相手役のベンに口付けされ、映画は終わっていく。
たわいない作品ですし、イヴの背景やフレディの存在などがかなり雑に描かれているので映画自体は薄っぺらいのですが、実力のあるバレエ経験のあるキャストを起用し、一流のバレエ振り付けを施したことが功を奏し、素直にバレエシーンを楽しんで見終えることができる一本に仕上がっていました。面白かった。
「愛のゆくえ」
演じているのは生身の人間なので、そこをちゃんと演出しないと上滑りの作品になってしまう。面白い作りをしようという努力と勢いは見えるのですが、自身の物語を元に描いたゆえののめり込みが過ぎたために、映画として仕上がらず、脚本も弱いのと演出が稚拙で、甘えん坊の若者たちのもがく姿にしか見えない映画に仕上がった感じです。若さゆえの仕上がりの一本という作品でした。監督は宮嶋風花。
北海道の雪景色のカットから、彼方から一人の人物が歩いてきて、焚き火の映像とかぶって映画は幕を開ける。中学校の教室、先生が一人の女生徒須藤愛を指名するが返事がない。仕方なく伊藤宗介を指名するが寝ている。愛と宗介のカバンには色違いの蛙のアクセサリーがついている。ここからクレヨン画風の説明で、宗介の父はプロ野球選手だったが事故で亡くなり、それがきっかけで母は気が触れてしまったこと、宗介の母と愛の母由美は親友だったので宗介は愛の家で暮らすようになったことが語られるが蛙の意味が最後まで見えないままだった。
一言も言わない愛、野球選手の息子だと何かにつけ目をつけられる宗介らは学校でも除け者にされている。ある日、学校で喧嘩をした宗介は家出をしてしまい、宗介を探しに出た由美は亡くなってしまう。愛は、別居していた父に引き取られるが、父は女を家に引き込んでいて、まもなくして女の家に移るべく愛は父と出ていく。しかし途中、愛は父と離れていく。
愛はホームレスと知り合い、しばらくホームレスと暮らすが、不思議な郵便配達人が由美からの手紙を届けにきてそのままボートに乗せて愛を由美の元へ連れていく。自宅に戻った愛はそこで由美の格好をした宗介と再会する。宗介は由美が死んだのは自分のせいだと悔やんでいた。そんな宗介に愛は、由美は自分で死んだのだからと慰める。雪の中ふとふたりが目を覚ますと川の向こうに、宗介の父、由美、らが立っているのを見る。二人は小屋に火をつけ松明を持って雪深い雪原を歩いている場面で映画は終わる。
幻想的な映像で孤独な少年少女を描いたという解説だが、監督の高校時代の実体験をもとにしたゆえか妙に演出にのめり込み感が出ていて、冷静な描写がなされていないため、ファンタジックな演出が上滑りしていく映像に終始してしまったのがちょっと残念。面白い作りを目指しているのが逆効果になった感じの一本でした。